恋 の 戦 。

75

先生が、眉間をギュッと指で抑えて

「お前は残酷だね」

いつか聞いた、こんな名詞を呟いた。

「…オレが、お前と居たら自分を制御できない、って言ったの。覚えてる？」

『…はい』

「そんな顔すんじゃねぇーよ。理性なくなる」

『…え』

「今までの我慢、台無しになんだろうが」

いつもより乱暴な言葉遣いにドキッとしてしまう。

一度早くなった胸は、もう止められない。

「オレの気持ちも知らない癖に。」

先生の目が、ジロリとこっちを睨む。

「お前、ムカつく。」

なんか言い返す隙なんてくれない先生に腕を掴まれて、今まで来た道を逆戻り。

『…先生！』

「…」

『先生…ごめんなさい…あのっ』

「…」

私を引っ張りながら早足で歩く先生の後姿に話しかけても、振り返ってくれないどころか、返事もくれない。

何がなんだか分かんなくて、涙も引く。

先生の早足に小走りでついて行くのだって精一杯なのに。

ほんの数分前に飛び出た扉を先生が開けて、強めに背中を押され玄関に入ると

後ろ手に鍵を閉めた先生が、私の鞄を奪い取るように床にドンと置いたかと思ったら

壁によさり掛けられて、私の両手が、自分の頭の上に先生の手でまとめられた。

…また、この表情。

辛そうなのに、悲しくなくて。

でも、その中に私の知らない色が見える。

ジリ…と見つめられて後退しようとすると私の背中が壁にドンとあたった。

「逃げんなよ」

私の耳元で小言で先生が話す。

『…逃げたんじゃ、ないです』

「あんなの、追い掛けるしかねぇだろ…」

『…面倒臭い、ですね…』

「面倒いわ。追いかけっ子なんて。嫌い」

抑えられてる手首が、少し痛い。

「駆け引きなんか、〇〇には出来ないの分かってんだよ。」

『…先生っ』

「いっつも真っ直ぐで。真っ白で…オレ…」

やっと顔を上げた先生の鼻と、私の鼻先が触れた。

「限界なんて、とっくに超えてんだよ…」

ハァ…と息を吐いた先生の消えそうな声。

「でも…汚したくない。」

『…』

「綺麗に大人にしてやりたかったのに…」

先生が、私の唇を甘く噛む。

痛くなんかないのに、ジンとくる。

「…お前は、残酷だね」

そんな唇に、先生の熱を感じた。