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「…なあ、お前なんなの」

「……はい?…その、人違いでは……??」

金髪翠眼、完璧な顔の造形、それにスラリとしたスタイル。どれをとっても1級品な目の前の彼は、そう菊へ乱暴に言葉を投げてきた。疑問形ではあるが、答えは望んでない。そんな雰囲気を彼はかもしだしていた。しかし、これほどの美丈夫を菊は知っている気がしなかった。因縁を付けられるようなことをしたことは無いし、覚えもない。ずっしりと重い買い物袋を両手で掴みながら、菊は思考を回していた。

「俺の仲間、誑かすのやめろ。人間なんかとアイツが共生出来るわけねえんだから」

「…あの…何を仰っているのか」

「喋んな、口開くな。人間共と同じ空気なんて吸いたかねぇ」

「…………」

彼の話す音には嫌悪しか混ざっていなかった。こちらに対する明確な悪意、それと憎しみ。そのどの感情にも菊には見覚えがなかった。”誑かす”?、”共生する”?前提として菊は一人暮らしだ。共生などする相手はいない…し……

「…あぁ、お仲間ですか」

いや、いた。最近うちに泊まりっぱなしの、ある外つ国の者がいた。彼も、目の前の青年と同じように美しく整った外見と目立つ色をしている。見開いていた目を少し伏せて、太陽を背に立ち止まっている青年を見据える。

「お迎えに来られたんですか?なら、どうぞご勝手に。姿を見られてはあなたたちのメンツがもちませんものね。

記憶を消すならさっさとしてください、あなたならできるでしょう?」

「……俺に命令すんな」

菊の言葉に数秒動きを止めたあと、彼はそう呟いてこちらに近づいてくる。足を踏み出し、重心を傾ける。その一連の所作さえも丁寧で美しく、あまりにも演技じみて見えてしまった。彼が目の前で立ち止まったのを感じて、1度深く息を吸った。そうして近づいてくる彼のすらりとした手を視界の端に収めながら、菊はぐっと顔を上へ傾けた。

「……ハ、」

「…?」

改めて彼の顔をはっきりと視界にとらえ、イケメンですねえと心の中で感想を零しかけたところで、彼は異音を出して止まった。行き場をなくしたままの伸ばした手も空でさまよっている。

「…あ、え……お前も、人間じゃないのか?」

「…いえ?純で人間ですが」

「は、はあ?有り得ねぇ、そんなわけねえだろ……」

「…はい?」

「こんな……こんな…」

伸ばしていた手をひゅっと引いて、彼は自分の口元に手を寄せた。大きな翡翠の瞳をこちらに向けたまま何度か荒く息をして、彼は呟く。

「…… 俺のタイプド真ん中なわけない……」

「………は?」

「お前サキュバスかなんかなのか?そうじゃないとおかしい、こんなhotに見えるわけない!」

「だから人間ですって!」

「ならなんなんだよ!!!…もう……、 頭おかしくなりそうだ…」

そう唸りながら彼は顔を手で覆い隠す。しかし、瞳だけは菊を捉えようと指の隙間から翡翠が覗いていた。菊も菊で、なんと返せばいいのか分からず、まず誰なのかも、何を言っているのかも同じ言語なのに理解できず頭を抱えていた。

「あー、クッソだめだ…逆らえねぇ、お前に手出せねえよ……

違う方の手は出そうなんだが」

弱々しく吐いたかと思えば、こんどは座った目でそう呟く。その言葉にゾワリと背筋を粟立たせながら菊は声をはりあげた。

「…あの!重いので!また今度にしてください!!その、もう限界なんです!!」

ぷるぷると震える腕の限界を訴えながら菊は青年を見上げた。すると、「…なあ、今の限界ってとこもう1回」などと真剣な顔で至極ふざけた事を抜かすので、わざとらしくため息をついて彼の横をスタスタと通り抜けた。何やら彼が言っているのが聞こえるがその言葉に耳を貸す気もない。無視して足を早めれば、両手に持っていた買い物袋をぐいと後ろに引かれた。

「…何ですか」

「俺が持ってやる、貸せ」

「……何故」

「…聞くなよ、わかってるだろ」

まるで恋人のような言い方で、口を微かに尖らせ彼は言った。断ろうと思ったが、自分の腕はとっくに限界を迎えている。今ばかりは言葉に甘えようかと、彼の瞳をじっと見つめる。

「…盗みませんよね」

「バカ!そんなことしねえよ…」

「そう、じゃあお願いします」

少し持ち上げて差し出すと彼はしっかりとそれを受け取った。彼は、近頃家に居候しているあの青年より細身に見えたが、菊が両手で持って精一杯だったその袋を片手で軽々持っていた。菊も多少小柄だが、それなりの武術も持っているし力はある方だ、と思う。彼には袋を持たせたし歩くスピードを緩めようと思い歩幅を小さくすると後ろからなにかぼそぼそと声が聞こえた。何か気味が悪くなって耳を潜めてみる。聞こえてきたのはこういったことだ。

「…ホント小さくて可愛いな……」「うわ、なんだあの足………カワイイ…無理だ耐えらんねえ」

「あの、あなた本当にうるさいですよ!!!!!」

聞こえた言葉にプライドを傷付けられまくった上に、開いていたはずの距離が段々と近付いてくるのが頭に来て思わずそう叫ぶ。声にびくっと肩を揺らしたあと、彼は顔をだらしなく緩めて「…あぁごめんな、kitty……」と聞こえるか聞こえないかの音量で呟いた。それに反論する気も起きず、菊は更に足をはやめた。


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