テラーノベル
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「こら、きちんと手合わせてください」
「そうだぞ、ギルベルト」
「おい何でこいついんだよ」
「こら!!」
ペチンッと軽い音を立てて、 料理に伸びかけていたギルベルトの手を叩いた。わっと口を大きく開けて反論しようとしたところで、別に菊の言ったことにおかしな点はないので諦めて舌打ちを打つだけで済ませた。あぐらを組みなおし、拗ねたようにギルベルトは頬杖をつく。
それほど大きくもないちゃぶ台を男3人で囲んでいた。こんなにも興味を惹かれない文字列があるだろうか、否、ないだろう。しかし、事実を知っている菊からしてみれば今の風景はなにかアニメの一コマのようだった。右斜めには白銀の髪と赤い目を持った美丈夫、左斜めには黄金の髪と翠の目を持った貴公子。その2人が机を囲んでいるこのシーンは1枚何円で売れるだろうか。拗ねてしまったギルベルトの肩を柔く叩き、こちらを向かせる。
「…痛かったですか?」
「はァ!?んなわけねえだろ!この俺様がお前みたいなチビに……」
「ならいいです、ほら口開けて」
「……あ 」
もうとっくに彼の扱いに慣れたように、菊はよく味の染みた1口大の大根を箸で持ってそう言った。声を荒らげていたギルベルトも少し動きをとめたかと思えば正直に口を開け、菊の方へ顔を向ける。箸の先を寄せ、きちんと彼が大根をくわえたのを見て菊は箸にかけていた力を抜く。そうしてギルベルトの口元から手を離した。左手に持っていた皿を台の上に置き、左の方にあるサラダへ手を寄せた。とき
「おい、菊。それ…なんだよ」
「え、それ?」
それ、とギルベルトの口元を指差しながらアーサーは不満そうに言った。
「あぁ、大根ですよ。アーサーさんも食べます?お肉よりは全然物足りないかもですけど」
「えっ、ちが…あ、いや…… おう」
アーサーの返答ににこっと笑い菊は大皿から大きな大根を取り、皿に移した。そして1口大に切ってから……
「はい、どうぞ。箸を使うのは難しいでしょうからフォークで食べてくださいね」
小皿にフォークを差し入れ、彼の前へ置く。そうして今一度微笑みかけた。菊のその笑顔に頬を緩めて目を細め、手をフォークへ伸ばしかけたところで本当の目的を思い出す。
「ちげぇよ!!!!!!」
フォークを置き、ちゃぶ台をバンッと叩いて身を起こす。あぶねっ…あの可愛い顔に流されるところだった……。ずいっと顔を近付け、小皿を菊へ差し出し、口を開きかけ”そう”頼むのもなにか気恥しくなって口を噤む。「どうしたんですか」と菊が尋ねても、なんと返せばいいのかわからなくて首を小さく振る。押し出した小皿に人差し指を引っ掛け、自分の方へ寄せた。
「…食べさせて欲しいんだろ、ほらお前が俺様にやったみたいによ」
「なっお前!!?」
「あら、そうなんですか?」
「ばっか!!!!!そんなわ、け…………」
ギルベルトに殴りかかろうと拳を振り上げたところで、下から菊にちらりと顔を覗かれて動きを止める。意外そうに、それでいて何か愛しそうな表情で彼は口角を上げていた。正直、今にも吹き出しそうな顔で笑いを耐えているギルベルトのそれは合っていた。けれど旧知の友人にそんなことを言われると恥ずかしくて認めたくなかった。しかし、こんなチャンス見逃すわけにいかない。アーサーは腹を括って小さく首を縦に振った。
「あらあら、そうなんですか…あなたたちって案外、年齢は人間にしたら子供くらいなんですかねえ……。
構いませんよ、あなたがよければ、ですが」
腕をのばし、アーサーが指をひっかけていた器を手に取る。そして乗せられていた食べ物を箸を器用に使って1口大に切り、手を少し下へ添えて持ち上げた。
「ま、マジで…? 」
「…はあ、なんですか?私だってやりたくてやってるわけじゃないですよ、嫌なら嫌って言ってくだされば……」
「やる」
「やたらと食い気味ですね…?まあべつにいいですけど」
膝立ちになってこちらに体を向けた菊を、アーサーはじっと見つめる。いつも仄かに不思議な光を纏っている彼の薄緑色の瞳は、今ばかりは期待と興奮の色によって尚更輝いているように見えた。瞬きも忘れ5秒ほど菊を凝視したあとくい、と目を細めて、ゆるむ口元を隠すようにアーサーは顔を背けた。その様子を見てギルベルトはによによと笑いながら頬杖をつく。その2人の異様な行動に眉をひそめながらも、菊はアーサーの方へ身をかたむけた。
「じゃあ、アーサーさん
………あーん」
「………はーっ、かわい…… 」
「うるさい」
顔を背けたのも無意味なまま、緩んだ顔でそう言ったアーサーの口に力強く菊は大根を突っ込んだ。「ぅ、ぐっ!?」と情けない声を漏らしながら咳き込み始めたアーサーをみてギルベルトは手を叩いて笑いだし、菊はため息をつく。喉を抑えながら、未だ笑い続けるギルベルトをぎんっと睨みつけ、アーサーは床に片手をついて体を支えた。
「…ふっ…いいな……そういうとこもすげぇタイプ」
「あーっもう! あなた、ほんとにうるさいですね!!」
「そいつは無視してりゃあいいぜ、キク」
ようやく笑いが収まったのか右手で目元を拭い、左手で腹を抑えながらギルベルトはそう言った。菊の名前を呼び、まるで芸術品のような顔を好奇に染めて彼は目を細める。鋭くなった赤い月はじとり、アーサーを捉えていた。
「…言われる前からそのつもりです」
「えっ、な、え??」
「ケセセ!流石だな、キクぅ」
「やめてくださいよギルベルト君!!肩組んでくるのやめてください!!私が、私の肩幅が哀れに……」
けほ、と軽く咳をしたアーサーを蚊帳の外に、2人はそう騒いで盛りあがっていた。たった3日、関わりが少ないだけでこれほどまで対応に差が出るか?立派な眉をひそめて彼は思考する。顔か?いや、俺がコイツに顔で負けるわけが無い。まあしかし、タイプだったりもあるのでまだ断言はできないが。でも俺とギルベルトの顔を見合わせた時、呼吸の回数が多かったのは俺を見ていたときだったはずだ。アーサーのことを正統派と称すならば、ギルベルトはどちらかといえば、好みは分かれるが1度ハマれば抜け出せない、沼顔、と称するのが正しいのだろう。それに彼には異世界感を醸し出す中二病チックな髪色と瞳がある。さきほど菊の部屋を覗いた時、彼の本棚にはそのような描写のある本が多かった。金髪翠眼、それも強く惹かれるが、やはり菊には銀髪に緋色の瞳の方が魅力的に写るのだろうか。不満げに顔を顰めたアーサーは、こちらに背中を向ける菊へガバッと抱きついた。突然の衝撃に菊が耐えられるわけもなくぐらりと彼はバランスを崩した。思わず前であぐらをかいて座っていたギルベルトの胸へと菊は飛び込んでしまう。一瞬彼が体を揺らした、かと思えば、その筋肉を活かして耐えることなく後ろへと重心を傾けたのだ。そうして2人分の重さを受けたギルベルトが顔をしかめながらも、どこか満足そうな顔をして鼻で笑った。それにイラッとする菊と、説教をされ正座で座っているギルベルトを見て笑うアーサーがいるのはそれから少しあとの話。
創作意欲がどこかに家出をしてしまっていました。ここがあるのも忘れていた……。いま色々あげてると思いますが、設定がこんがらがってきたのでこれがひと段落するまでこれに専念しようと思います。他アプリの方でも少し人気があるみたいなので、亀更新しつつがんばります
蛇足でした。
コメント
1件
今回も最高でした!!!!!てか、小説書くの上手すぎじゃありませんか?!神ですか?いや神ですよね!! き、ききき菊ちゃんが、ギルとアーサーにあーんて、最高すぎです!!!!!見てるとき、尊死仕掛けましたw次の話も楽しみにしてます!!これからも頑張ってください😊