「さ、馬車に戻りましょう。ここからカノーカ王国へ行かないと……」
二人が離れた後、カロリーヌが二回手を叩いて訴えてくる。二回叩くのは、メイドの時の癖だろう。気にしないでおく。
四人は星のカケラと連れ去られた仲間のドミニックを連れ戻しに行くため、馬車の置いてある方へ戻る。
上の荷台に荷物を積み馬車に乗り込むと、馬の手綱をザールが握りしめそのまま森の中を進んでいく。真っ白な雪で滑らないように、ゆっくり車輪を回した。
馬車に乗っているシプリートは、カロリーヌとアンジェと話をする。とても大事な話だ。
「ここからカノーカ王国まで行くのは大変だな。何日かかるんだよ。もうお金1レミルしか残ってないよ」
「ええっー!?どうするのー!!」
嘆いてみせたら、アンジェがオーバーなリアクションをしてくる。しかしこればかりはどうすることもできない。何日かかるかわからないのに、食料がないのは致命的。
今から稼ぐとなれば、かなり時間がかかる。何か良いアイディアはないだろうか。
一人で考えていたら、カロリーヌが手を素早く上げて告げた。
「では、王子のお父様にお金を借りれば良いのでは?」
「いや、それはダメだ。ルミリア国はここからかなり遠い。戻るのにも食料が必要だ」
「じゃあじゃあ、この町の近くにいる人に食料をもらうとか?」
「それは良さそうだな。そうしよう」
アンジェの言葉に一瞬納得したが、それはよくない行為だ。人のものを勝手に奪うのは、窃盗と変わらない。話し合いで決まればいいが、相手が頑固だったら尚更譲ってはくれないだろう。とならば、食べ物に変わりそうなものが必要だが……。
とここまで考えていると、馬車が止まり交代する時間になった。次はカロリーヌが馬を運転するらしい。
彼女は暖かいからとコートを脱ぎ、荷台にある袋に入れてしまう。馬の操縦につくと、これまでの話をザールにした。すると、彼はポンと手を叩く。何か閃いたようだ。
「それならさ、この1レミア使えないっすか?もしその国で金が高価なら交換してくれると思うぜ!確かこの近くといえば……ほら、街が見えてきたぜ!」
馬車の向こうに見えたのは、山の中にある小さな町だった。この森を超えた向こうに、カノーカ王国がある。ここで荷物を持っている人に尋ねて、売買交換する。ザールの考えは素晴らしいし、現実的だ。
この町に降り立って、たくさん荷物を持っていそうな人を探す。市場へ馬車で向かうと、そこには貴族らしい服装をした男がたくさん食べ物を買っている。あの男が良さそうだ。
しかし金に価値がなく、思考が頑固で受け取ってもらえなかったらどうしようと深く考えてしまう。
ザールはそんなこと考えずに、1ルミアを取り上げて一人でに話しかけた。
「そこのお兄さん。このお金と食材交換してくれないかな?」
軽い話し方でいいのか、見ているこちらは少し焦ってしまう。
彼は作戦通り1レミルを見せると、男はそれを握りしめて見る。目を見開き、喜びの声を上げた。
「これは金じゃないか!!金は我々の町では手に入らなかったんだ。ありがとよ、これを売ったらまたまた大金持ちだぜ!!」
男は快く品物を渡してくれて、スキップしながら金で出来たコインを持って帰っていく。作戦は成功したようだ。ザールがいてくれてよかったよ。言葉を軽くしたのは、フレンドリーに接するためだったんだな。
これで彼が食べるのを我慢してくれれば、二日は持つ。喜ばしいことだ。
馬車に乗り込み、また森の中をひたすら進む。
シプリートはずっと木々しかない光景に飽きてしまい、アンジェに話しかける。
「それにしてもあの町では金は珍しいんだな」
「多分金を取るのって大変だからじゃない?」
「それもそっか……」
金はそのままの状態であるわけではなく、石と組み合わさって出てくる。分解するには鉛が必要で、環境汚染が絶えない。自分の国の水は飲めたものではない。だがお金になるならばと、たくさん採掘されている。
そんな現実的で暗いことを考えていたら、アンジェに裾を引っ張られて今の時間に戻される。一体なんの話をするつもりだ?
「ねえねえ!お兄様!カロリーヌさんのこと、どう思ってる?」とが聞いてくると、「そういや気になるっすね!」とザールが目を輝かせて肩と肩を当ててくる。
確かに本人がいないから本当のことを話してもいいのだろうが、相手が傷つくかもしれない。こう返しておこう。
「そうだなー。仲の良い友達かな?」
友達なのはまあ事実だし、これでいいだろう。しかし二人はしょんぼりしたように元気をなくしていた。どうやら思っていた返答と違っていたらしい。
「てっきり恋人って言うと思ってた」
「いや、それはないって。僕の恋人は、エミリだけだ!まあ、今のエミリは洗脳されているけどさ。一番大好きさ」
頬を赤らめて、腕をブンブン横に振る。カロリーヌを好きになんてならないぞ。
アンジェがそれを聞いて目を輝かせた。手を胸元に置いて聞いてくる。
「じゃあ、アタシは?」
「アンジェ?そうだなー。妹として好きだよ」
「妹として?でもそれでも嬉しいや。ありがとう!!」
彼女は明るい笑顔をしてきた。眩しすぎて、目が眩む。本当に純粋な妹だな。可愛いや。
それをつまらなさそうに聞いていたザールは口を尖らせて感想を述べた。
「兄さんってロリコンだったんだー。知らなかったぜ」
「なんでだよ!」
皆爆笑して、それからワイワイ賑わった。
こうして三人で話した後、次の馬を操縦するのを何度も変えた。四人でたくさん話したら、彼らのことがよく分かった。
カロリーヌとアンジェは優しいシプリートのことを好いていて、ザールは食料をそんなにくれないので不満が溜まっていたものの、あまり食べたくなったらお腹が少しスマートになっていた。それを感謝される。
やはり太っていると歩きにくいので、足の負担が減った。美食家の彼は食べるのが大好きだが、食べすぎるとまた太ってしまいそうだ。なるべく抑え気味で行こう。
あれから二日後。ようやくカノーカ王国に着いた。馬車から降りると、そこはとても無惨な状況を晒している。
ザルメタウンより凍えるほど寒くて、建物は全て崩壊。地面には穴が空いていて、窓は割れていた。植物は全て枯れ果て、空には太陽が照っておらず変わりに黒い物体が空に浮いている。あれは光源が凍りついてしまった状態。空は紫色だ。
これが「ルーペント」を無くしたカノーカ王国か。
街には数多くのモンスターが蔓延り、全員目が赤かった。アズキールに操られているモンスターしかいないようだ。
シプリートは残っている食材の袋を持ち、武器をポケットに入れている三人へアドバイスを送る。
確かにドミニックのような的確なアドバイスはできないが、それでも彼らの成長を見守るのは仲間として当然だ。
「カロリーヌ、力を使いすぎて力尽きるなよ」
「分かりました、王子」
「ザール、食べ過ぎて眠くなるなよ」
「分かりやした!」
「アンジェ、風の魔法を使いすぎるなよ。倒さないと思ったらすぐ引き返すんだ」
「はい、お兄様!」
四人全員意気込んだ後、違う方面から歩みを進めた。
一番小さな建物を見つけるためにモンスターを倒して、その場所を探すのだった。
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