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#のあえと
東雲みるあ
1,325
44
琴葉_ 🍮🥄
210
放課後の図書室は、外の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
高い窓から差し込む午後の光が、古い紙の匂いが漂う空間を柔らかく照らし出している。
うりは司書の手伝いで返却された本を棚に戻しながら、ふと、窓際の席に座るゆあんの姿に目を留めた。
ゆあんは歴史の分厚い資料集を開いたまま、じっと一点を見つめて動かない。
その整った横顔はどこか影を帯びていて、時折、痛みをこらえでもするかのように眉間がわずかに険しく歪んでいた。
「……ゆあんくん? どうしたの、そんな難しい顔して」
うりが声をかけながら近づくと、ゆあんはハッとしたように顔を上げ、すぐにいつもの穏やかな笑みを作った。
「うり。……ううん、なんでもないよ。ちょっと、昔の資料を読んでてさ」
「古い資料好きだよね 、ゆあんくんって」
うりが軽く笑いながら隣の席に腰を下ろすと、ゆあんはふっと視線を落とし、うりの手元にそっと目をやった。
その瞳の奥には、年相応の高校生とは思えないほど深く、沈痛な色が揺らめいていたけれど、うりにはそれが何を意味するのかまだ分からなかった。
ゆあんには、前世の記憶がある。
かつて泥沼のような戦争の時代、すべてが焼き尽くされる戦火の中で、ゆあんは最愛の人
――うりを守れなかった記憶を抱えたまま、この現代に生まれ落ちていた。
前世の記憶は毎晩のように悪夢となってゆあん君を襲い、あのときの焦燥感や絶望が、今でも鮮明に胸を焼き焦がしている。
だからこそ、今世でこうして何気ない顔をして隣にいるうりを見るたび、胸が締め付けられるように痛むのだ。
「ねえ、うり」
「ん?」
「……その、もしさ。昔の記憶とか、そういうのが本当にあるとしたら、うりはどう思う? 」
不意に投げかけられた重たい問いかけに、うりは少しだけ首を傾げた。
「昔の記憶? うーん……映画とか小説みたいでロマンチックだけど、でも、前世とかがあったら大変そう。 だって、もし悲しい別れ方をしてたら、引きずっちゃいそうだし」
うりが冗談めかして笑うと、ゆあんは痛ましそうに目を細め、小さく息を吐き出した。
そして、うりの手が置かれた机の上に、自分の大きな手をそっと重ねてくる。
その指先がわずかに震えていることに、うりは驚いて目を見張った。
「……引きずるよ。忘れたくても、絶対に忘れられないよ。……どんなに時代が変わっても、この手の感触も、うりの声も、全部覚えているから」
「え……?」
真剣すぎるその声色と、どこか必死さを帯びた瞳に、うりは言葉を失った。
冗談を言っているようには見えない。
まるで、本当に途方もない遠い昔から、うりのことだけをずっと追い続けてきたかのような、そんな切なさがゆあんの体温から伝わってきた。
「ゆあんくん……?」
「なんでもない。……ただ、うりが無事で、こうして隣にいてくれるのが、怖いくらいに嬉しいんだよ」
そう言って笑うゆあんの笑顔はどこか儚く、うりは胸の奥がキュッと締め付けられるような、不思議な懐かしさと切なさを覚えるのだった。
窓の外では、夕暮れの茜色が静かに空を染め始めていた。
次回♡200
コメント
1件
うわあ……第1話からもう胸がギュッとなる展開ですね。図書室の静かな空気と、ゆあんくんの抱える重い前世の記憶の対比がすごく美しい。何気ない日常の裏に、取り戻せなかった過去があるって設定、好きです。特に「この手の感触も、うりの声も、全部覚えている」の台詞、彼の執着と切なさが一瞬で伝わってきて震えました。今後の展開が気になります!