瀬南くんと連絡先を交換して間もなく、テスト準備期間に入ってしまった。テスト期間中に部活動はなく、当然美術部に行く事もなかった。
中間テスト結果発表
それぞれの授業で各テストが返却された。
「…………最悪」
「もかっぺ、どしたん?」
「…………再試ある」
全教科のテスト返却が終わった昼休み。頭を抱える五十嵐の机の上には5枚のテスト用紙が置いてある。
数学Ⅰ 80点
数学A 24点
現代文 70点
古典 72点
英語 12点
「あれ、もかっぺが数学赤点とか珍しくない?」
「数I は面白くて勉強してたんだけど、数A全く手をつけられなくて…」
「なんか…出来てるテストと出来てないテストの差が激しいね」
「やばいよ…再試験受かる気しない。再再々試験くらいでようやく受かる気がする」
「んな大袈裟な」
「みずきちは頭いいからそういうこと言えるんだよー!誰か再試に向けて勉強教えてくれるいい先生いないかな…」
みずきちと会話していると担任の先生から教室にいる生徒に向けて声がかかる。
「合計点と各科目の上位者20名の名前な。ここに貼っとくぞ~」
連絡用の黒板に2枚のA4用紙が貼られる。
「あんな簡易的なんだ。廊下とかに大々的に張り出されるのかと思った」
「上位者だけってことは下位の人間の点数は晒されないんですねよかったぁ」
「気になるし見に行こうよ」
みずきちの言葉に頷き、興味本位で貼られた紙を見に行く
「今回のテスト、1位の人でも472点かぁ」
「472点ってすごくね、今回のテスト難しかったよな?」
「難しかった。俺ギリギリ400くらいだった」
クラスメイトが集まる中、人と人の間から顔を出して紙を見る。
「うわ、ますみん現代文2位だって」
「え、嘘っすご」
「古典でも名前載ってる」
「ますみんすごい!」
知ってる人の名前があるとテンション上がるなぁ 現代文の欄で真住の名前の他に知り合いがいないかと視線を下げていく。
2位 真住慶太 98点
・
・
・
6位 瀬南亜貴 96点
え、瀬南くん現代文6位なの?すごい!と感心しつつ隣にある古典にも目を移すと
9位 瀬南亜貴 88点
1つでも名前載ってたらすごいって思えるのに古典にも名前あるなんて…と、隣の英語を見れば
2位 瀬南亜貴 95点
え、これもしかして…と他の欄にも目を向ければ
数学 I
3位 瀬南亜貴 92点
数学A
2位 瀬南亜貴 98点
合計点
4位 瀬南亜貴 469点
「嘘っ」
ひと学年300人近くいるはずなのに全教科1桁、総合4位って……せ、瀬南くんめちゃくちゃ頭いいじゃないですか
私は 自分の先生を決めた。
五十嵐 友香 … 今
【今から会いに行ってもいいですか】
とメッセージを送るとすぐに返事がきた。
瀬南 亜貴 … 今
【何の用?メッセージで済むなら
ここに要件送って】
五十嵐 友香 … 今
【勉強教えてください!】
お願いを送って数分後に帰ってきたメッセージは
瀬南 亜貴 … 今
【嫌。】
ですよね~~~!!!!!分かってたけどさ…
ガクリと肩を落とす。
ブー ブー と音が鳴って再び手元を見れば
瀬南 亜貴 … 今
【再々試験とかにならないといいね】
【スタンプを送信しました】
瀬南くんから送られてきたスタンプは生意気な顔をした猫が鼻で笑い、小馬鹿にしてきているようなものだった。
っ~~~~!!!なんだろうムカつく。言い返せないのが悔しいけど!!むかむかする!!!
時計を確認すれば5時間目が始まるまで、あと15分はある。
よし!こうなったら…!
五十嵐 友香 … 今
【今からA組行くから
教室入って大きな声で名前呼んでやる】
瀬南くんへのちょっとした嫌がらせ。
大声を出すつもりはなく、瀬南くんに直談判しに行くだけだけど、さっきのことがあったからこれくらいの意地悪は許してほしい。私は自分の席から立ち上がると教室から廊下へと足を運んだ。
B組の教室前に差し掛かった辺りでA組の教室から1人の男の子が慌てた様子で教室から出てきた
「あ、出てきてくれた」
「’出てきてくれた’じゃないよ。大きな声で名前呼ぶとか馬鹿なの?五十嵐ならやりかねないし」
「それは流石にするつもりなかったけど、そうやって言ったら瀬南くん応じてくれるかと思って」
「応じる?何しに来たの?」
「直談判しにきた!」
「は?」
首を傾げる瀬南くんの目の前で手を合わせる。
「私に勉強教えてください!」
「僕、返事したよね?もしかして頭悪すぎて嫌って漢字も読めなかった?」
「そこを何とか!」
「君、僕にこれ以上借りを作りたくないんじゃないの? 」
「手段選んでらんないんです!」
「ふーん、僕に迷惑をかけるって分かってて頼んできてるわけね」
「迷惑かけたいわけじゃないんだけど、瀬南くんに教えてもらえたら再試験も1発合格出来るかもしれないって思ったの!」
そこまで言うと、私のことをずっと哀れな目で見ていた瀬南くんは顔をしかめた。
「’出来るかもしれない’?」
「そりゃあもう!」
「何言ってんの。’絶対合格出来る’の間違いでしょ。僕が教えて合格出来ない可能性があるとでも思ってんの?」
「え…」
「いいよ、見てあげる」
目の前の瀬南くんは笑っているんだけど、意地悪な顔というか良からぬことを考えていそうな顔というか
「…え、えっと」
「保護対象のくせに僕を脅してきたって事は、それなりにしごかれる覚悟は出来てるってことだよね?」
やばい…なんか…1番やばい人を先生に選んでしまったかもしれない。
「今日の放課後、E組に行ってあげるよ。たのしみだね、放課後も五十嵐に会えるなんてさ」
瀬南くんの今の’たのしい’は’楽しい’じゃなくて’愉しい’な気がする。だって、それ絶対しごくことに対しての’たのしい’だよね?!
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