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「なん──」
なんだこいつはと言おうとしたロンデルだったが、その言葉を飲み込み、横へと跳んだ。
一瞬後には、ロンデルがいた場所を赤い影が通過し、その先にある壁が少し砕かれる。
「む、はやいな」
そのすぐ傍にいたピアーニャは、最小限の動きで巻き込みを回避しつつ、その動きを注視し続ける。
「アシをきりつけて、うごきをふーじたといってたが、そうはみえんな。カラダのナカからでてきたコトがカンケイしてるのか?」
赤い生物は、その身体は小さくなったが、傷が無くなっていた。
体の中から出てきた……つまり脱皮したのである。
そして、ただ傷が治っただけでは無かった。
「このっ! 【魔力球】!」
シーカーの1人が魔法を放ち、それを追いかけるようにもう1人が槍を構えて突っ込む。
しかしあろうことか、生物は魔法の弾をパクリと食べてしまった。
「げっ!?」
「うそっ!?」
驚愕した槍使いは、思わず突っ込むのを止め、横へと飛び退く……が、生物はいきなり回転し、尻尾を振り回した。
ギリギリ槍で受け止めたものの、吹き飛ばされる槍使い。なんとか体勢を立て直し、足から着地した。
「なんかさっきより強くない!?」
「ああ、反応も早い! だが軽くなってるな」
小さくなっているせいか、攻撃の威力は明らかに落ちている。しかし魔法が防がれるのは誤算だった。
「ナルホドな。もっとカンサツしていたいが、タテモノをこわされたり、にげられたりするのはコマる。ココからは、わちがヤるぞ」
ピアーニャが生物の後ろから睨みつけると、生物は飛び退きながら体を捻り、ピアーニャの方に向き直った。そのまま唸り声をあげる。
それを警戒と感じたピアーニャは、すぐさま自分の左右に、白いボールのような物を2つ出現させた。
その時他のシーカー達は、ロンデルの指示で離れた場所にまとまっていた。
「とーっ!」
気の抜けた掛け声と共に、右側にあるボールを生物に向かって放つ。
生物は大きく躱し、やや横からピアーニャへと接近する。
ピアーニャは残ったもう1つのボールを移動させ……力を込めると、ボールは格子状に変化した。
ドッ
「ギャゥッ!?」
突然現れた障害物に、猛スピードで突進していた生物は頭から突っ込んで動きを止めた。
そこへ、追撃をかけるべく、ピアーニャは右手を動かす。
「コレはかわせるか?」
最初に飛ばしたボールが、生物の側面から飛来する。そしてその勢いのまま、針のように伸びた。
しかし、生物は素早く身を引き、辛うじてそれを避ける。
「ほう……だが、まだかわせておらん!」
急激に白い針が縮み、生物の近くの部分から、枝のように数本の針が飛び出した!
「!?」
流石に今度は避けきれず、かすり傷や刺し傷がつく。
生物は警戒を強め、大きく飛び退く。生物がいた場所を、三日月状に変化した白いボールが切り裂いた。
「なかなかカシコイようだな。コレならどうだ?」
そう言って、今度はボールの片方を直線上に伸ばして、長く太い針状にして飛ばした。
生物はそれをあっさり躱す……が、少し過ぎた場所で、人の腕ほどもある針はいきなり折れ曲がり、生物を追尾する。
驚いた生物は体勢を崩しながらも、なんとか躱す。しかし針は再び折れ曲がって、生物に襲い掛かる。床を蹴って強引に避ける……が、針は生物の肩を貫き、右前足を千切り飛ばした。
「ミギュゥアアアアァァァァ!!」
生物が苦痛と怒りの咆哮を上げ、ピアーニャを睨みつける。
「おぉ、こわいこわい~。だがオマエにかちめはないぞ?」
余裕のピアーニャだったが、次に針が生物を襲う瞬間、避けるかと思いきや、いきなり大きく跳んだ。
そして窓を割り、リージョンシーカーの建物から脱出してしまった。
「あっ……しまったああああああ!!」
元々死んでいるものとして、この場所に運び込んだ為、逃がさないように壁で囲うなどは一切していない。
施設の中で戦っているうちに、その事をすっかり忘れてしまい、あっさりと逃げられてしまった。
「マズイぞ、あんなキョーボーなセイブツが、まちなかでアバレたら……」
「悩んでる場合ではありません! 総長はすぐに追ってください!」
「す、すまんロンデル! このバはまかせる!」
単身であのスピードに追い付き討伐出来るのは、この場ではピアーニャだけである。
ピアーニャは平らに変化させたボールに乗って、窓から飛び出していった。
残ったロンデルはシーカー達に、3人以上で追跡するようにと指示を出し、脱皮した生物の抜け殻を回収し始めた。
クリムの家で食事を終えた3人は、仲良く手を繋いで家に向かっていた。
ミューゼとパフィは手を繋いでニコニコ。アリエッタは美味しい物を食べてニコニコである。
「明日支部に行ってみようと思うのよ」
「あたしもさんせー。状況も知りたいし、もしかしたら仕事あるかもね」
「アリエッタは一緒にいくのよ?」
「連れて行くだけなら大丈夫でしょ」
(はぁ~~またくりむのごはん食べに行きたいな~)
仕事の話をしながら、夜道を楽しく歩いている。
しかしその和やかな空気は、突然破壊される事となる。
ゴガッ
「!? 何なのよ!」
「あうっ!」
近くの家の塀が突然破壊され、赤い影が目の前に飛び出してきた。
アリエッタが驚いて、手を離して転んでしまう。
「……なんかヤバイ気がするんだけど」
「絶対にヤバイと思うのよ。こんなでっかい人は、町には住んでいないのよ」
2人は冷や汗をかきながら、何をするべきかを考える。
警戒の為に巨大な影をよくみると、右前足が無く、沢山の傷がついているのが分かった。
「逃げてきた猛獣に見えるね」
「困ったのよ、武器持ってきてないのよ……」
「アリエッタを守ってて。あたしは派手にやって応援を……っ!」
目が合った。
その目に狂気を感じたミューゼは、咄嗟に杖を掲げる。
「このっ! 大人しくしてっ!」
ミューゼが周囲の木や家を巻き込んで蔓を伸ばし、生物の上半身を全方位から絡めとり捕縛した。
生物が蔓を抜けようともがき、絡まっていない下半身が激しく暴れる。鞭のようにしなる尻尾が大きく動き、パフィとアリエッタへと勢いよく迫った。
「危ないのよアリエッタ!」
咄嗟にパフィがアリエッタを抱き込み、その場から飛び退く……が、一瞬遅かった。
勢いのついた生物の尻尾が、パフィの背中に叩きつけられる!
「ひぐっ!!」
「パフィ!」
アリエッタを抱えながら吹き飛ばされるも、なんとか力を振り絞って体を捻り、自分をクッションにして地面との衝突からアリエッタを守る。
「がはっ!」
背中に2度強い衝撃を受けたパフィ。痛みに耐えながら身を起こすも、すぐには動けそうにない。
(まいったのよ……ナイフは無いし、動けないのよ……せめてアリエッタだけでも……)
「ぱひー! ぱひー!?」
突然変な生物が現れて、襲われて、パフィが怪我をして……アリエッタはパフィを起こしながら、半狂乱で名前を呼び続けた。
バキッ
突然の大きな音に振り向くと、蔓をひっかけていた家が壊れ、生物が一部自由に動けるようになっていた。
「そんなっ!?」
「ミギャアアアアア!!」
次の瞬間、残っていた生物の左前足がミューゼを襲う。悲鳴も出せないまま、飛ばされ、近くの壁に衝突した。
辛うじて意識はあるものの、こちらは立つ事も出来そうにない。
「みゅーぜ!!」
(なんだよこれ! なんでいきなりこんな目にあうんだよ! ぱひーが…みゅーぜが……嫌だこんなの……助けて…誰か助けて!)
恩人達が目の前で倒れていき、アリエッタは泣きながら強く願った。
しかし、だからといって狂暴な生物が止まってくれるわけではない。蔓が絡まって動きにくいながらも、口を開けてミューゼへと接近した。
『みゅーぜ!! 駄目えええええ!!』
「ミューゼ! アリエッタ待つのよ!」
「ア…リエッ………にげ……」
アリエッタは言葉が違う事も忘れ、叫びながらミューゼの元へと走った。
「アレは! みつけた! ダレかおそわれてるのか!?」
生物を追跡していたピアーニャが、離れた場所から良くない状況だと判断し、飛ぶスピードを上げる。
見えたのは、生物が倒れている人物に向かって、口を開けているところだった。
「マズい、まにあうか!?」
『みゅーぜ!! 駄目えええええ!!』
「なっ、こどもだと!?」
自分が逃がしてしまった生物が、外で誰かを…しかも子供まで巻き込まれているとなれば、ピアーニャにとっては大失態である。
これ以上は一瞬たりとも観察している場合ではないと考え直し、白いボールをスパイラル状の槍に変化させ、白い板の上で狙いを定めた。
次の瞬間、アリエッタが強い光を発し、突然弾丸のようなスピードで白色の平べったい何かを纏いながら、生物に突進した。
「ギャウッ!?」
「なんだ!?」
「えっ!?」
勢いよく吹き飛ぶ生物。しかし蔓に繋がれていた為、すぐ近くに落下する。
突然の出来事に、ピアーニャは動きを止め、パフィは目を見開いて驚いた。
「アリ……エッタ……?」
ミューゼを守るように降り立つ少女。その髪の先端は7色に輝いている。そして誰にも聞こえない程の小さな声で呟いた。
『ごめんなさいアリエッタ、私のせいで……』