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カーリーが暮らす村は、王都から遠く離れたのどかな場所だった。 朝になると鳥がさえずり、昼には子どもたちの笑い声が響き、夜には焚き火の光が家々を照らす。 誰もが穏やかに、そして少し誇らしげに暮らしていた。
なぜなら、この村は―― 伝説の勇者レオンの故郷だったからだ。
カーリーはそのレオンの息子である。 村の人々は、彼を見るたびに「勇者の血を継ぐ子だ」と目を細めた。
けれどカーリー自身は、そんな言葉に甘えるつもりはなかった。 父の背中は、あまりにも大きかったからだ。
―――
カーリーが物心ついた頃には、父レオンはすでに“伝説”になっていた。 魔王を倒し、世界を救い、王から最高の称号を授かった英雄。 だが、カーリーにとっては――
「カーリー、剣はこうだ。力じゃなくて、心で振るんだぞ」
優しく笑う、ただの父親だった。
レオンは戦いの話をほとんどしなかった。 代わりに、村の畑仕事を手伝ったり、子どもたちに剣の基礎を教えたり、 時には母に怒られてしょんぼりしたり。 そんな姿ばかりがカーリーの記憶に残っている。
だからこそ、カーリーは思った。
――父のような勇者になりたい。 ――誰かを守れる存在になりたい。
その想いだけで、毎日丘の上で剣を振り続けていた。
その日も、カーリーは朝日を浴びながら剣を振っていた。 風が草原を揺らし、遠くで羊が鳴いている。 いつもと変わらない、平和な朝、、、のはずだった。
「おーい! 大変だ、村のみんな集まれーっ!」
村の入口から、息を切らした配達人が駆け込んできた。 手には王都からの号外。 村人たちがざわめきながら集まる。
カーリーも剣を収め、駆け寄った。
配達人は震える声で読み上げた。
『魔王の子孫が復讐のために“新たな魔王”となり、軍勢を率いて出現』
空気が一瞬で凍りついた。 誰かが「まさか……」と呟く。
魔王は倒されたはずだった。 レオンが命を懸けて世界を救ったはずだった。
だが、号外は続く。
『二代目魔王、誕生』
村人たちの顔が青ざめる。 子どもが泣き出し、母親が抱きしめる。 老人たちは震えながら空を見上げた。
カーリーの胸はざわついていた。 恐怖ではない。 むしろ、熱いものがこみ上げてくる。
「……父さんが守った世界が、また危ないのか」
剣を握る手に力が入った。
その日の夕方、王都から魔法通信が届いた。 村の広場に設置された魔法石が光り、王の声が響く。
『国民全てに告ぐ! 今から勇者候補を15人連れてこい! それ以外は殺す! 急げ!』
村人たちは悲鳴を上げた。 あまりにも理不尽な命令。 恐怖と混乱が一気に広がる。
だがカーリーは、静かに前へ出た。
「……ボク、行くよ」
母が叫ぶ。
「カーリー! あなたまで行く必要は――!」
「行かなきゃ。父さんが守った世界を、今度はボクが守るんだ」
震えていたのは、母の手か、それともカーリー自身の心か。 それでも、決意は揺らがなかった。
こうしてカーリーは、勇者候補として王都へ向かうことを選んだ。
―――End―――