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「ヘロン! ペジオって『エルフ』なんでしょ? 今の会話を聞く限り『ニンゲン』ぽく聞こえたんだけどさ、なんで?」
ナッキが屈託(くったく)の欠片(かけら)も無い声でヘロンに聞いた。
ドラゴに対して話し続ける事に比べれば随分気楽だったのだろう、ヘロンはナッキに即答だ。
「はいそうですよ、ペジオ様は最初ニンゲンだったんですが、ご自分のスキル『混成(コンポジション)』を使用して自らキメラ化していたんですよ、そうして周囲に宣言していたんです、『自分はニンゲンではなくエルフだ』そう仰っていたんですよ」
「へー、ペジオも元々はニンゲンだったんだねぇー、じゃあ、ニンゲン即ち冷酷無比な悪魔って認識はやっぱり正確じゃ無かったって事かなぁ?」
この言葉にはヘロンだけでなく、先祖がペジオを慕っていたモロコやカエル達も頷きを返している。
昔の事を思い出し、少し落ち込んでいたドラゴがいつもより少し大きめの羽音を響かせるが、空元気とでも言うのか、無理をしている風に感じられた。
「ナッキ様、確かにかつて私が接したニンゲン達は、親切で使命感に燃えた立派な方々ばかりでした…… ですが、今から向かわれる水路の先に待つニンゲンが彼らと同じとは限りません! と言うよりも、これほどの殺意や悪意で自らの住処を守ろうとするとは、何(いづ)れやましい事がある証左でしょう! どうしても行かれると言うのでしたらこれ以上はお止め致しませんが、危険と察知した場合は無理せず引き上げる、どうかこの事をご留意下さいませ」
「うっ」
ヘロンも言葉を続ける。
「そうでした、ナッキ様の覚悟は理解しました…… 私も最早反対は致しませんよ、但し、コレだけは覚えておいて頂きたい! こと泳ぎに関してはニンゲンは決して得意ではない、と言う事です! 万が一の場面では深く急な流れの中に身を隠せば窮地を逃れる事も可能かと! 参考にして下さい!」
「ぐっ…………」
ナッキは思う。
――――くっそ! ビビッている所にメダカ達が無茶を言い出したから、諭(さと)す為に一旦池に戻ろうかと考えていたら、都合良く話題を昔話に持っていけそうなヘロンとドラゴの会話に割り込めたって言うのにぃ! なんでここで的確なアドバイスなんだよぉっ! ヘロンとドラゴの癖にぃっ! とは言え…… 事ここに至ってはもう…… 玉砕覚悟で行くしか無いなぁ、はぁー…… まあ、仕方ない、かな? そうだよ、僕は王様なんだからっ! 皆の為に努力するのが王様なんだっ! 良ーしっ! やってやるぅ、やってやろうじゃないのぉーっ! 一人で死地に赴いて、見事、人間を連れて帰って見せるぞっ! 見せてくれんっ、ナッキの本気をぉっ!
「ナッキっ! あーん!」
「あ、うん、あーん…… って、何してるのさっ! サニー!」
考えに没頭している最中に、いつもと変わらぬトーンで投げ掛けられたサニーのあーんに応え、大きく口を開けたナッキの口の中に納まったサニーは、いつもとは明らかに違うガクガクとした震えをナッキの舌にダイレクトプッシュしながら答える。
「な、何っていつも通り、二匹はどんな時も、い、一緒じゃないかぁ、し、し、し、(ゴクリ)死が二匹を別つ日までっ、で、でしょぉっ!」
「サニー? ば、馬鹿言っちゃイケないよっ! ほら出てっ! 外に、外にぃ! ペッ! ペエェッ! 痛たたっ! 舌を掴むのはずるいぞっ、サニーィっ!」
「ふんすっ! 離れるもんかぁっ! 一緒に行くぅっ! 行くったら行くんだーいぃっ!」
「ばっ、馬鹿サニーっ! 君まで死ぬ事は無いじゃないかぁ! はっ、離せぇぃっ! 離せってばぁっ!」
『了解! 『メダカの王様』ナッキ様、『メダカの王妃様』サニー様っ! メダカはお供するのでありまっすぅっ!』
二匹のやり取りにメダカ達が集合させた声を届けた後、彼らはピタリと音がして来そうな感じでナッキの大きな体に身を添わせたのであった。
フォーメーションは巨大なナッキを囲み込むようにギンブナ生来のフォルムを崩す事無く、六千匹もの数を頼りに数倍、大体十二メートル位の巨大な魚影を再現したのである。
「えっ? えええっ!」