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半径五十メートルに満たない村から、花の都の異名を持つ大観光都市までカムリは走り、止まった。途中ごつい岩場の山谷もあれば、走っても走ってもポテト畑の平原もあった。車を降りて町を観光するたび、マレナはキヨシの傍にいるか、単独行動するかのどちらかだった。キヨシの傍にいるうちはいいが、単独行動するときは一人で勝手に歩いていってしまう。結果として道に迷うこともあり、コインパーキングの制限時間をオーバーしたりもした。その辺りを何度も彼女に指摘したが、効果はなかった。

だから、六日目に入り旅が終わろうとしていることは、健太にとって気分の悪いことではなかった。海沿いを六時間も南に下るうちに、海と山しかなかった風景に家が建ち並び始めた。それは、ついにホームタウンの淵に入った証でもあった。しばらく静かだった後部席は、キヨシが目を覚ましたことで華やぎを取り戻した。

「実は俺、引越し先探してるんだけど。誰かホームステイの受け入れしてくれる人、知らない?」

キヨシが隣に座るマレナに聞いた。

「なら、私の伯父さんのところに来れば」キヨシの隣に座るマレナは答えた「伯父さんのとこ、部屋余ってるよ。そんなことならもっと早く言ってくれればよかったのに」

マレナは近所の治安、学校へ行くときのバス停までの徒歩時間、スーパーマーケットの距離、部屋の広さを立て続けに話した。時折キヨシの「うん」「ああ」「なるほど」が聞こえてくる。

街中に入ってから一時間も走ると、道路標識に空港方面の表示が見えた。レンタカー会社は空港の近くにある。

「あのね、」珍しくマレナから健太に話しかけてきた「キヨシと相談したんだけど、この車、私達が返しておいてもいいわよ。そうすれば、キヨシの引越しはあなたの手を借りなくても私達だけでできるよ」

余裕を持って借りた方がいいと言ったのはマレナだった。借り先のレンタカー会社の場合、七日から十日の料金は同額なため、六日借りるところを十日で借りている。だから、返却日まであと四日ある。キヨシは「レンタカー会社に僕が返しておくのは構わないですよ」と言った。

健太の耳には、再びバアチャンの言葉が蘇ってきた。人を信用してはいけない、という例の言葉である。

「キヨシ」健太は言った「気持ちはありがたいけど、この車は俺のサインで借りている。だから自分で返すよ」

「事を荒立てないでください」キヨシは声を絞って言った。

「健太!」マレナは大声を上げた「あなたって人は……友達の引越しよりも自分の都合優先なのね?」

そんなつもりじゃないよ、と健太は反論した。

「じゃ、私達のこと信用できないっていうのね? 私とあなた、クラスメートでしょ? 最低」

キヨシは「今回は彼女の言い分もある程度スジが通ってると思います」と言ってから「そんなに杓子定規にならんでもいいと思いますけど」と付け加えた。健太は、レンタカーの返却はキヨシが責任をもってすることを条件に、マレナ宅への引越しにカムリを使うことを承諾した。

ハーバー共和国 (Ⅲ)

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