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93
ひな
44
翌朝。
目を覚まして、スマートフォンを見る。
昨日の夜。
ヨルと交わした最後のメッセージ。
『海、今度行こうね』
その文字を見ただけで、また頬が緩んだ。
「……本当に行くのかな」
まだ約束しただけ。
でも――
楽しみにしている自分がいた。
すると、スマートフォンが震える。
ヨルからだった。
『おはよう』
『おはようございます』
『今日、予定ある?』
「……え?」
昨日会ったばかりなのに。
また連絡をくれた。
『特にないです』
送信すると、少しして返事が来る。
『じゃあ、海行かない?』
「……!」
思わずベッドの上で起き上がる。
「今日……?」
昨日の「今度」が、
こんなに早く来るなんて思わなかった。
『行きたいです』
送信。
少しして、
『よかった』
そして、
『車で行こう』
その文字を見て、胸が高鳴った。
「……ドライブ?」
二人で車に乗って、海へ行く。
それだけなのに――
なんだか昨日より特別な一日になりそうだった。
⸻
待ち合わせ場所。
しばらく待っていると、一台の車が近づいてきた。
運転席にはヨル。
車が止まり、窓が開く。
ヨルが笑って、スマートフォンを見せた。
『おはよう。乗って』
「おはようございます」
助手席に乗り込む。
シートベルトを締める。
ヨルがこちらを確認してから、車をゆっくり走らせた。
『眠くない?』
「大丈夫です」
『ほんと?』
「はい」
『じゃあ、海まで行こう』
「お願いします」
ヨルが運転する姿を、私は横からそっと見る。
ハンドルを握る手。
前を見つめる横顔。
昨日まで画面の中にいた人が、
今は私の隣で車を運転している。
それだけで、なんだか不思議な気持ちになった。
⸻
高速道路に入り、車内の空気も少しずつ落ち着いていく。
ヨルがカーオーディオを操作した。
画面に曲名が表示される。
EXO ― Wolf
「……!」
思わず画面を見る。
懐かしい。
12年前。
私がEXOを知ったばかりの頃。
何度も見ていた曲。
ヨルがこちらを見る。
『知ってる?』
「もちろんです」
『好き?』
私は笑って頷く。
「はい」
曲が流れ始める。
私は音だけではなく、ヨルの口元や表情を見る。
そして――
ヨルのパート。
ヨルが小さく歌う。
「……」
私は思わず彼の横顔を見つめた。
12年前。
画面越しに何度も見ていた人。
その人が今、
私の隣で歌っている。
全部の音がはっきり聞こえるわけではない。
でも、知っている曲だからこそ、
ヨルのパートが来たことが分かる。
口元。
表情。
歌い方。
その一つ一つが、胸に届いた。
ヨルがこちらを見る。
『どうした?』
私は少し照れながら、
「……この曲、12年前に何度も見てました」
と伝えた。
ヨルが笑う。
『そうなんだ』
「はい」
⸻
『Wolf』が終わる。
次に流れた曲を見て、私はまた驚いた。
EXO ― Growl
「ウルロン……!」
思わず笑ってしまう。
ヨルがこちらを見る。
『これも好き?』
「はい。大好きです」
ヨルが笑う。
『知ってる』
「……もう、そればっかり」
二人で笑う。
そして、またヨルのパートが来る。
ヨルが小さく歌う。
私はまた横顔を見る。
不思議だった。
12年前は、
ただ画面を見ながら、
「かっこいいな」
と思っていた。
それが今は、
本人の隣で、その歌う姿を見ている。
⸻
そして――
次に流れ始めたのは、
EXO ― Overdose
「……Overdose」
思わず呟く。
ヨルが笑う。
『これも好き?』
「はい」
少しだけ間を置く。
私は画面を見つめた。
そして、ずっと言おうと思っていたことを、
今なら言える気がした。
「ヨルさん」
『ん?』
「私……」
少し緊張する。
何度も頭の中で考えた言葉。
12年間、自分の中にあった気持ち。
「『Wolf』とか『Overdose』を見て……」
ヨルがこちらを見る。
私は少し照れながら続けた。
「その頃に、ヨルさんに一目惚れしたんです」
「……」
言ってしまった。
急に恥ずかしくなる。
「……あの、今言うの恥ずかしいんですけど」
顔が熱くなる。
「でも、本当なんです」
ヨルはしばらく黙っていた。
そして、少し照れたように笑った。
『一目惚れ?』
「……はい」
『12年前に?』
「はい……」
『じゃあ、俺が好きになった頃からずっと?』
「……そういうことになります」
恥ずかしくて、窓の外を見る。
するとヨルが笑いながら、
『12年か……』
と呟いた。
そして、
『長いね』
私は頷く。
「自分でも、こんなに長く好きになるとは思ってませんでした」
ヨルは少し考えてから、
『嬉しいよ』
と文字を見せてくれた。
その言葉だけで、
胸がいっぱいになった。
⸻
次の曲。
EXO ― 나비소녀(Butterfly)
懐かしい曲が続く。
私は窓の外を眺めながら、12年前の自分を思い出していた。
二二を知ったこと。
そこからEXOを知ったこと。
『Wolf』を見たこと。
『Overdose』を見たこと。
『EXO’s Showtime』を何度も見たこと。
そして――
ヨルに一目惚れしたこと。
12年という時間が、
一本の線になってつながっていくようだった。
ヨルがスマートフォンを見せる。
『12年前、二二から始まったんだよね?』
「はい」
『じゃあ、いつか二二にも会えたらいいね』
「……え?」
思わずヨルを見る。
『今度、タイミングが合えば会えるかもしれないよ』
「二二に……?」
『うん』
胸が高鳴る。
「会いたいです……!」
思わず即答してしまう。
ヨルが笑う。
『そんなに?』
「だって……」
少し照れながら、
「私が最初にEXOを知るきっかけになった人だから」
そう伝える。
ヨルは頷いた。
『そっか』
そして、
『じゃあ、いつか紹介する』
「……本当に?」
『うん』
「……嬉しい」
12年前。
最初に知った二二。
そこから始まったEXOとの時間。
その二二に、
いつか会えるかもしれない。
そう思うだけで、不思議な気持ちになった。
⸻
しばらくして、ヨルがまた文字を見せる。
『他のメンバーにも会いたい?』
「……はい」
思わず笑う。
「できたら……みんなに会ってみたいです」
ヨルが笑う。
『欲張りだね』
「だって……12年間好きだったので」
『そっか』
少し考えてから、
『じゃあ、少しずつね』
と書いてくれた。
「少しずつ……?」
『うん。いきなり全員じゃなくて』
「ふふっ」
『まずは二二かな』
「……はい」
その「まずは」という言葉が、
これから始まる新しい思い出を予感させた。
⸻
しばらく走ったところで、ヨルがサービスエリアに入った。
車を停める。
ヨルがこちらを見る。
『コーヒー飲む?』
「飲みたいです」
『じゃあ、行こう』
車を降りて、二人で店内へ向かう。
歩いていると、人の流れで少し離れそうになった。
そのとき――
ヨルがふと立ち止まった。
私のほうを見る。
そして、そっと手を差し出す。
「……?」
ヨルは少し照れたように笑って、
『はぐれたら困るから』
とスマートフォンに打って見せた。
「……あ」
胸がドキッとする。
「はい……」
おそるおそる手を重ねる。
指が触れる。
そしてヨルが、ゆっくりと私の指に自分の指を絡めた。
恋人繋ぎ。
「……!」
一瞬、頭が真っ白になる。
12年間好きだった人と。
今、手を繋いでいる。
しかも――
恋人繋ぎ。
「……恥ずかしい」
思わず小さく呟く。
ヨルがこちらを見る。
『嫌だった?』
私は慌てて首を横に振る。
「違います……」
少し俯いて、
「嬉しいです」
と答える。
ヨルは安心したように笑った。
そのまま二人で店内へ向かった。
繋いだ手は、離れなかった。
⸻
コーヒーを買って、外のベンチへ向かう。
ヨルと並んで座る。
まだ手は繋がったまま。
私はコーヒーを持ちながら、隣を見る。
「……なんか、すごいですね」
ヨルがスマートフォンを見せる。
『何が?』
「12年前は、ヨルさんを画面越しに見てたのに」
少し考えて、
「今は隣にいて……手まで繋いでる」
言ってから、急に恥ずかしくなる。
「……言わなきゃよかった」
顔を伏せる。
ヨルが笑っている。
『俺も不思議』
「ヨルさんも?」
『うん』
そして少し間を置いて、
『でも、嫌じゃない』
その文字を見て、胸が温かくなった。
「……私もです」
二人でコーヒーを飲む。
何気ない時間。
特別な場所でもない。
でも――
繋いだ手の温かさだけは、はっきりと感じていた。
⸻
再び車へ戻る。
ヨルが運転席に座る。
私は助手席。
エンジンがかかる。
ヨルがこちらを見る。
『まだ眠くない?』
「大丈夫です」
『よかった』
車が走り出す。
しばらくすると、ヨルがスマートフォンを見せた。
『お腹空いた?』
「……ちょっと」
『俺も』
「海の前に何か食べます?」
『ラーメン食べない?』
「ラーメン?」
『うん。食べたい』
私は思わず笑った。
「いいですね」
『じゃあ決まり』
⸻
二人でラーメンを食べる。
向かいに座りながら、
「熱い……!」
思わず顔をしかめる。
ヨルが笑う。
『大丈夫?』
「大丈夫です……たぶん」
『たぶん?』
「……ちょっと熱かったです」
ヨルが笑いながら、水をこちらに寄せてくれる。
「ありがとうございます」
『ゆっくり食べて』
「はい」
そんな小さなやり取りが、なんだか嬉しい。
⸻
ラーメンを食べ終える。
再び車へ戻る。
ヨルが運転する。
目的地までは、あと少し。
窓の外に青い景色が見え始めた。
「……海?」
ヨルが笑う。
『見えてきた』
胸が高鳴る。
昨日話した海。
二人とも好きな海。
それを今日は、一緒に見る。
⸻
車を停める。
外へ出る。
潮の香り。
目の前に広がる青い海。
私は思わず立ち止まった。
「……綺麗」
ヨルも隣に立つ。
スマートフォンに文字を打つ。
『やっぱり海、いいね』
私は頷く。
「はい」
『俺、海を見ると落ち着くんだ』
「私もです」
『夜景も好きだけど、海も好き』
「私も夜景も海も好きです」
ヨルが笑う。
『本当に一緒だね』
「……はい」
なんだか嬉しくて、自然と笑ってしまう。
⸻
二人で砂浜を歩く。
波が寄せては返していく。
さっきまで繋いでいた手を、私は意識してしまう。
するとヨルが、またそっと手を差し出した。
今度は何も言わない。
私は少し照れながら、その手を握る。
指を絡める。
恋人繋ぎ。
さっきより自然にできた。
「……慣れちゃいました」
ヨルが笑う。
『俺も』
二人で海を見ながら歩く。
まだ恋人ではない。
でも、手を繋いで歩く二人の姿は、
少しだけ恋人に近づいていた。
⸻
夕方。
海に沈んでいく太陽を二人で眺める。
オレンジ色の空。
静かな海。
隣にはヨル。
繋いだ手。
私はふと思った。
12年前。
二二を知った。
そこからEXOを知った。
『Wolf』を見た。
『Overdose』を見た。
そして、ヨルに一目惚れした。
その「好き」が12年間続いた。
そして今――
私はその本人と海を見ている。
「……不思議」
ヨルがこちらを見る。
『何が?』
私はスマートフォンに打った。
『12年前の私に、今日のことを教えてあげたいです』
ヨルは画面を見つめる。
『なんて言う?』
私は少し考えた。
『「いつか、ヨルと海を見てるよ」って』
ヨルは少し照れたように笑った。
そして、
『それ、俺も12年前の自分に教えたい』
「……え?」
『今日、こんな出会いがあるって』
胸が温かくなる。
⸻
帰りの車。
運転席にはヨル。
私は助手席。
窓の外を眺めながら、今日一日を思い出していた。
『Wolf』。
『Growl』。
『Overdose』。
『나비소녀』。
ヨルの歌う姿。
「一目惚れした」という告白。
二二に会えるかもしれないという話。
いつか他のメンバーにも会えるかもしれないという約束。
SAのコーヒー。
初めての恋人繋ぎ。
一緒に食べたラーメン。
そして海。
どれも、忘れたくない思い出になっていた。
するとスマートフォンにメッセージが届く。
『今日は楽しかった』
『私もです』
少しして、
『次はどこ行こうか?』
その文字を見て、私は思わず笑った。
「……次もあるんだ」
小さく呟く。
そして、ゆっくり返信する。
『また一緒に行きたいです』
送信。
ヨルから返ってきたのは――
『うん。また行こう』
そしてもう一通。
『今度、二二に会えそうな日があったら連絡するね』
「……!」
私は画面を見つめる。
二二。
12年前。
私が最初に知った人。
そこから始まったEXOとの12年間。
その二二と――
いつか会える。
そして、その先には、
他のメンバーとの出会いも待っているのかもしれない。
私はスマートフォンを胸に抱えた。
「……楽しみ」
まだ恋人ではない。
でも――
二人の距離は、確実に近づいている。
そして次に待っているのは、
12年前の私が最初に知った、
二二との再会。
その日が、
少しずつ近づいていた。
第5話 終
コメント
1件
おお、第5話めっちゃ良かった……!12年越しの一目惚れを本人に伝えるシーン、胸がギュッてなったわ。しかもその告白が車の中のEXO曲タイムの流れで自然に出てきたのがリアルでさ。ヨルが「一目惚れ?12年前に?」って返すところ、なんか照れも混ざっててエモかった。 そしてSAでの恋人繋ぎ、何も言わずに手を差し出すヨルがスマートすぎる……。12年前の自分に「いつかヨルと海を見てるよ」って教えたい、っていう主人公の気持ち、めちゃくちゃ分かる。繋いだ手の温かさがこっちにも伝わってくるような話だったわ。次は二二か……楽しみすぎる!