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みぅ🤍🥀です。第32話、読み終えました…。もうね、最初の「断られた」ところで胸がギュッてなったのに、そのあと「やっぱり行きたい」ってメール来たときの山下さんの「よかった…」って独り言、すごく沁みました。数ヶ月かけて少しずつ距離を縮めてきた二人だからこそ、最後の異人館巡りで突然「最後にしよう」って告げられたときの百子さんの動揺が痛いほど伝わってきました…。でもそのあとの告白シーン、山下さんの「結婚にこだわらなくていい、ずっと側にいてほしい」って言葉、すごく深くて。大人同士の恋愛の重みと誠実さがにじみ出てて、本当に素敵な話だなって思いました🌙
91 ◇二度目の異人館巡りを断られたあとの淡い期待
北野天満神社へ行った日に
『まだまだ見たいところが満載なのでまた来月こちらに来ませんか』
と百子さんを誘った。
そうしたら彼女が
『いいですね。次はどこに行きましょうか』と返してくれたので俺は
『百子さんのお好きなところへ行きましょう』と言った。
すると
『ありがとう。じゃあ、考えておきますね』
と彼女の前向きな言葉が返ってきた。
『ありがとう』
と答えた彼女が可憐で自分が自然と彼女に微笑んでいたのを記憶している。
ああいうのを幸せな瞬間っていうのかな。
……なのに翌々日に次の予定を訊くと
『脚の調子が芳しくなくて折角誘っていただいたのに行けそうもありません』という
返信メールが届き……。
そしてそのメールには続けて
『気心の知れた若い人たちと行かれたらいかがですか』と書かれていたのだ。
最初の一文だけならさほど首をかしげることもなかったと思うが
『気心の知れた若い人たちと云々』
は何か嫌な感情を芽生えさせるのには十分だった。
脚の不調で行けないという断りにどうしてそのような文を追加する必要があったのか?
自分が彼女に恋心を持っているせいかもしれないと思い、
山下はふっと感じてしまった嫌な感情を手放すことにした。
ようやく自分の気持ちを宥め、嫌な感情を手放したと思う間もなく百子から
『山下さん、こんにちは。先日は大変失礼致しました。
あれからまだ数日しか経ってないのですが思ってたよりも早く脚の状態が
良くなりましたのでやはり異人館街へご一緒させていただきたいと思います。
まだ大丈夫でしょうか? 可能でしたらぜひ宜しくお願いします』
と思いもよらない丁寧な文が届き、山下の気持ちはせわしなく
乱高下するのだった。
『参ったなぁ~』
百子に気持ちを揺さぶられる自分が滑稽ですらあった。
行けないと言われ、ガックリきた自分。
自分がどれほど落ち込んだのか彼女は知らないだろう。
そしてようやく自分の気持ちを立て直したと思ったらやっぱり
誘ってくださいという話に。
山下はたっぷりとその短文を3~4分は眉間に皺を寄せながら眺めた。
眺めながら山下はすでに予見していた。
うれしくて喜ぶ自分の気持ちを。
『よかった……』と独り言ちた。
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これでしばらく百子と接点を持ち続けることができるのだ。
月に一度か二度北野の異人館巡りを二人で楽しみながら百子に
自分という人間を知ってもらえればと山下は考えた。
百子のほうでも山下から
『じゃあ次は前回の流れで北野天満神社のすぐ横にあった風見鶏の館に
行ってみましょうか』
とすぐに返事をもらい、これから何かが始まるのかもしれないと……
そんな風に淡い期待を胸に抱かずにはいられなかった。
92 ◇異人館巡りは今回で最後にしようと思います
『じゃあ次は前回の流れで北野天満神社のすぐ横にあった風見鶏の館に
行ってみましょうか』
との山下からの提案で返事をもらった2月には、早速風見鶏の館へと
足を運び、前回同様穏やかで楽しい時間を百子は過ごした。
あちらこちらと何軒も梯子をしないので帰りには北野坂支店の
にしむら珈琲店に立ち寄り互いの近況や立ち寄った異人館の話題で
二人はコーヒーを味わった。
そんな風にして二人は続けて3月には土日を利用して二度、うろこの家・
展望ギャラリー、ウィーン オーストリアの家へと。
そして4月にも二度、香りの家オランダ館、英国館へと出かけた。
もう山下から百子が行きたいところを尋ねられることはなく、場所を決めて
いついつどこそこに行きましょうという誘いのメールが届けられるように
なっていた。
どこでも山下となら百子はうれしかった。
行き先の予定に始まり、行く先々でやさしくエスコートしてくれ、
一緒に食事のできる男性がいるなんて何て素敵。
それは百子にとって素晴らしく生きる活力になった。
その後も山下は頻度も同じ感覚で誘ってきた。
5月には萌黄の館と神戸トリックアート・不思議な領事館、
そして6月にはラインの館を訪れた。
その日は大安の日だった。
いつもはそんなこと気にしたこともなかったのに、何でだろう。
たまさかの偶然としか言いようがないのだが。
たまたまいただきもののその辺に埋もれていたカレンダーに気付き、
もうお気に入りのカレンダーを使っているので紙の日にでも捨てようかと
丸めたのだが、途中で山下との約束の日が目に入ってきて
『へぇ~、大安なんだ。一応縁起のいい日なんだ』
なんて記憶していたのだ。
6月は一度目に出掛けることになったのがすでに20日を過ぎていたので、
今月はもしかすると異人館巡りが一度になるかもしれないなぁ~などと、
帰る道々ぼんやりと考えていた。
ふたりはいつものように……
お茶も済ませてタクシーを拾いJR三宮駅で降りた。
そしていつものように……
この駅で東西別々に帰らなければならない別れの瞬間を
迎えた。
◇ ◇ ◇ ◇
「さよ……」
と挨拶しようとした私に山下さんが
「百子さん、実は次の予定は立てていません。
異人館巡りは今回で最後にしようと思います」
と言ってきた。
93 ◇動揺
あまりに突然であまりに迷うことなく告げる彼の言葉に
私は動揺してしまった。
「ちょっと柱の方に行きましょう」
そう言われ私たちは通行人のじゃまにならない位置まで移動した……
ものの、私はどう反応すればいいのか途方に暮れた。
とても彼の顔を見ていられなくて時間稼ぎも兼ねてとっさに俯いた。
そんな私の動揺を知ってか知らでかすぐに彼から声が掛かった。
「百子さん、自分は上手く話せる自信がありませんがその、私の話を
聞いていただけませんか」
『どんな? この先会えない話なら聞きたくはないんだけど』
「はい……どんな……しなのでしょう?」
「短い期間ではありましたがこの数か月で私の人となりを知って
いただけたのではないかと思います」
「……そう……ぅですね」
「実は一年以上前から百子さんのことが気になっていました。
百子さんが離婚される前からです。
いけないことですがあなたが離婚される日をずっと待ち続け、今年の1月に
いただいたハガキで離婚されたことを知り、自分のことを知ってもらった上で
告白しようと決めました。
私と今までのようにずっと一緒に仲良くしていただけないでしょうか?」
何を告げられるのかとドキドキして待っていたら違う意味で
ドキドキするようなことを言われ驚いてしまった。
「……はい、喜んで」
私はちゃんと本意を伝えるため、山下さんの目を見て答えた。
「すみません。
いい年をした四十路男がちゃんとしたプロポーズもせずに
仲良くしてほしいだのと情けないことを。
ですが、その……百子さんにはお子さんもいて普通の結婚を望むのは
難しいのかなと思いましてね。
私としてはもちろん叶うならば結婚という形で
あなたとこの先一緒にいたいです。
でももしもそれが難しいのであれば結婚という形に拘らなくてもいいのかなと
思っています。
願いはこの先ずっとずーっとあなたに側にいてほしいということなんです。
はぁ~、照れますね」
最後に山下さんは他人事のような言葉で締めくくった。