テラーノベル
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その日、ロキは酷く昂っていた。 練習で最高のゴールを決めた興奮か、あるいは若さゆえの抑えきれないエネルギーか。彼は、賢者タイムへの最短ルートを探すべく、スマホで「好みの画像」を検索していた。
しかし、トップアスリートの集中力は、あらぬ方向へ牙を剥く。
「……なんだ、この絵? 構図が、完璧すぎる……」
たまたま流れてきたツイコミの投稿。それは、m92が趣味で描いた『末弟の殉教』のワンシーン——長男が次男の首筋を噛み、それを末弟が虚ろな目で見つめる、あの「地獄の縮図」のような1枚だった。
ロキは、本来の目的(ヌクこと)を半分忘れ、その「圧倒的な執着の熱量」に惹き込まれた。
「……m92。……この筆致、どこかで……いや、まさか」
彼はその夜、速攻で電子書籍版をポチった。 読み進めるごとに、彼の”息子”は元気を取り戻すどころか、**「精神的な凌辱と背徳感」**という未知の快楽に打ち震えることになった。
宮奈は、新作ミステリー『偏差値76の共犯者』のプロットを練りながら、ロキが来るのを待っていた。 やってきたロキは、いつもより少し顔色が悪い……というか、何かを必死に堪えているような、複雑な表情をしていた。
「……宮奈。聞いてもいいかな」
「何? ロキ。そんなに深刻な顔をして。また監督と戦術で揉めた?」
ロキは、意を決したようにスマホの画面を宮奈に向けた。 そこには、m92のプロフィールページ。
「この、**『m92』**という作家……君、だよね?」
宮奈は、飲んでいたカフェオレを吹き出しそうになるのを、超人的な理性で抑えた。翡翠の瞳が、わずかに泳ぐ。
「……どうしてそう思うの?」
「文章の癖(ヘキ)だよ。mi.meの作品にある『選ばれた人間だけが共有する孤独』と、この作品にある『家族という名の牢獄』……。論理の組み立て方が、完全に一致しているんだ」
ロキの声は少し震えていた。
「……昨日、これで、その……凄く、お世話になったんだ。 ページを捲る手が止まらなくて、気がついたら朝だった。宮奈、君はなんて恐ろしいものを書くんだ。……太もものキスマの描写、あれは、物理学的な説得力すらあった……」
宮奈は、顔が熱くなるのを感じた。 自分の実の弟たちをモデルにした(歪んだ形ではあるが)妄想で、世界的なスターが「お世話」になったと告白されている。この状況は、彼女の論理を持ってしても「カオス」以外の何物でもなかった。
「……ロキ。それを読んだことは、一生の秘密にして。あと、**『お世話になった』**なんて報告、二度と私にしないでちょうだい」
「あ……ごめん。でも、本当に素晴らしかった。……特に、末弟が泣きながら受け入れるシーン。……君は、ああいうのが好きなんだね」
ロキの純粋で真っ直ぐな称賛が、逆に宮奈の心を抉る。
「……うるさいわね。あれは、ただの『排泄』よ。……さあ、その話は終わり! 今日はスタジアムの構造案について議論するわよ。……構造(ハコ)がしっかりしていれば、中の人間がどれだけ狂っていても、物語は成立するんだから」
宮奈は、無理やり話題を変えた。 しかし、彼女のノートの端には、無意識に**「泣き顔」「赤面」**というメモが、いつもより強く書き込まれていた
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