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その人を初めて見たとき泣いているように見えたんだ-


(·····もう、二度とここには来られないのかな)


ガランとした部屋の中、寂しさともつかない気持ちを抱えながら、手のひらの多孔質の石を固く握りしめる。


父親が愛し、自分が生まれ育ったこの家。


けれども家主を失ったことで自分たち家族はここを離れ出ていくことになった。


「マサキ、そろそろおじさんが迎えにくるから、家の外で待ってなさい」


そう急かされ、顔を上げて母親の方を振り向き立ち上がる。


玄関を出て白いアーチ型の門の前で佇んでいると、ブレーキの音と共に海外製の緑のワゴン車が滑り込んできた。


重いドアを開いて後部座席に乗り込む。


キャンキャンと吠える犬が膝に絡みついてきたのでなんとかあやしつけている間に、少し遅れて母親も助手席に座った。


車がゆっくりと加速していく。


行き先は、都心に近い住宅街だ。


母親の実家のある街であり、ここよりもずっと人が多くて賑やかだと聞いている。


母親は地元に戻れることを喜んでいたが、自分にとってはどんな生活が待っているか、ほとんど想像もできない未知の場所だ。


窓の外に視線を投げかける。


見慣れた風景が右から左へと次々に流れ去り、その上には雲一つない青空が広がるばかりだった。


「高速、混んでるかしら」


「五・十日だからちょっと渋滞してたよ。でも、まだ早いからそんなんでもないんじゃない」


前に座るふたりの会話をぼんやりと聞きながら、遠く晴れた青空に漠然とした不安を感じていた。


静かの海 (上) その切ない恋心を、月だけが見ていた

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