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一刀斎対万城目総司
ワッ!と歓声が上がった。
「いいぞ爺さん!」
「良くやった!」
「全く凄ぇ爺さんだ!」
見物衆が口々に誉めそやした。
「お爺ちゃん!」志麻が慈心の首に齧り付いた。「良かった無事で・・・」
「心配をかけたの、意外と強ぅて手こずった」
慈心は志麻の頭をそっと撫でた。
「しかし、ありゃ相手にはどう見えてるんだ?今度俺にも見せてくれよ」
「あれはお前さんには効かん、気位の多寡で決まるからな」
「ふ〜ん、そうなのか・・・」
「それよりも次はお前さんの番だ、儂の相手より強そうじゃ、気を張って行けよ」
「ああ、まかしときな」
一刀斎は決闘場に佇む若い男に目を向けた。
*******
「万城目総司と言います、お手柔らかに」万城目は折り目正しく礼をした。
「一刀斎だ」
「苗字は?」
「ねぇ」
「きっと名のある方なんでしょうね?」
「名なんかあっても不自由なだけだ」
「いいなぁ、僕も早くそんな境地に立ちたい」
「お前ぇにゃ無理だ、欲で目がギラギラしてらぁ」
「お見通しですね」
「悪いこっちゃねぇ、だが欲が過ぎると怪我をする」
「覚えておきます」
「なら始めようか?」
「お願いします」
互いに二、三歩後退った。どちらも鍔元に手を掛けたまま、脳天を空から吊るされたように立っている。
つまり、力が抜けて肩が落ちている。自然体と言っても良い。
互いに右回りで間合いを詰めた。
歩み足で移動をし、いつでも抜ける所に右手がある。
最初の斬撃は、居合勝負のようだ。
渦の中心に向かうように互いに間合いを詰める。上体が前に倒れ左手の鍔が徐々に眉間に近づいて来る。あと三歩で間合いに入る、二歩・・・一歩、動きが止まる。
次の瞬間同時に死地を超えた。
膝が抜け腰が落ちる。左半身が後方に開くと、剣が鞘走り真っ向から斬り下ろした。
寸分違わぬ同じ動きだった。
互いの鼻先を掠めて剣が落ちて行く。目標を失って中段で止まった剣が進路を変えて相手の首筋に向かう。
中空で一瞬刃が噛み合って火花が散った。
互いに飛び退って向き合った。
「居合は互角のようですね」
「そのようだな」
「では、剣術勝負と参りましょう」
「望むところ」
一刀斎が剣を上段に上げると、万城目は下段に取った。
「これで同じ動きは出来ませんね」
「一気に勝負を決めようと言うのかい?」
「まさか・・」
万城目は右足を引くと剣を後方に引き、膝を折って腰を落とした。一刀斎の動きに合わせて技を出す構えだ。
一刀斎の剣が真上から来れば下から掬い上げ、斜めに来れば車に回して袈裟懸けを狙う。
本来上から落とす剣の方が早いのが道理だが余程の自信があるに違いない。
一刀斎は敢えて万城目の策に乗ることにした。
左足から摺り足で間合いを詰める。
万城目の頭が下がった。
一気に打って出る。
万城目の剣が膝を狙って迫せり上がって来た。
咄嗟に打ち下ろした剣を右に流して体を入れ替える。
間一髪で膝を守ったが態勢が崩れた。
万城目の剣が軌道を変えて追って来る。
崩れた勢いのまま前に飛んで受身を取ったが、立ち上がれば背中を見せる事になる。
そのまま膝をついて蹲った。
「もらった!」
万城目が背後から覆い被さるように斬ってきた。
地を蹴って背中で体当たりをするように反り返る。
二人の躰がドン!とぶつかって動きを止めた。
「凄いなぁ・・・こんな技があるなんて」
万城目の腹から背中に剣が突き抜けていた。
一刀斎が肩に担いだ剣を引き抜くと、背中に生温かいものが流れ落ちた。
「古流剣術の『徹底』という技だ・・・」
万城目がドウ!と倒れた。
一刀斎は立ち上がると万城目の鼻腔に手のひらを近付けた。微かに息があるがもう助からないだろう。
「すまねぇな、悪く思うな・・・」
踵を返して志麻と慈心の待つ方へ歩いて行った。