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「人を殺した」


確かに渡邉さんは言った。


「その頃、息子は不登校だわ、旦那とはまぁ結婚当初から上手くいってなかったんだけどさ。ケチな男で。だから私は働くしかなかった。家にもいたくなかったしね」


私は黙って彼女の話に聞き入る。


「私ばっかりが我慢してると思っていたら、旦那から離婚届を渡された。ダメ息子も旦那の方についていくって。笑っちゃうよね。もともと要らない家族だったけど、私が要らないと思われていたなんて」


「腹立っちゃって」


私もついこの間まで家族をないがしろにしていたから少しわかる。


「仕事はするしかなかったけど、毎日虚しくてつまらなかった。そんな時にね、受け持ちの患者のおばあちゃんが私に懇願したの。楽にしてくれって。末期がんで痛い痛いと毎日苦しんで、家族もお見舞いに来ない。もしかしたら、私の未来もこんな風に孤独で悲惨な死を迎えるかもなんて」


まさか…


「だから、そのおばあちゃんにモルヒネを過剰投与したの」


「それで、そのおばあちゃんは…」


「死んだと思うよ、致死量を点滴したもん」


「死んだと思うって…その後はどうなったの?」


「感情に任せてやってしまったけど、冷静になったら逮捕されて刑務所に入るのも苦痛だなって。病室からすぐに逃げ出した」


恐ろしいほどに渡邉さんの思考は勝手だ。

こんな人に出会ったことがない。

サイコパスとかいうやつか。

平気で人を殺せてしまう人には独特の雰囲気が醸し出されている。


「よく考えたらどこに逃げたってすぐ捕まるのにね。とりあえず、走って病院の外に出たところで」


「車にはねられた」



私は驚いた。

「えっ、車に?それで、まさか…」



渡邉さんが笑って言う。


「気がついたらこの世界にいた」



渡邉さんの話を聞く限り、彼女は車にはねられた後にこの夢の世界に来た。

私は憶測でしかないが、電車の脱線事故がきっかけでこの世界に来た、ということは。


「私たち死んでるのかな?」


渡邉さんが言う。


「もし、ここが死の世界か地獄だっていうなら納得できない?」


確かに、確かにそうだ。

何度も殺されるのも地獄での試練なのかもしれない。

不思議の国のアリスのようなファンタジーよりは納得がいく。

しかし、アリスも夢オチだ。


それなら。


「でも私はハッキリとこの世界が何なのかわかるまでは諦めたくない」


「そっか」

そんな私の言葉に、興味なさげに渡邉さんがタバコを吹かす。


今の私にわかっていることは、


黒い服の女に逆らった者は何らかの方法で殺されるが翌日には生きて戻って来る。

それだけだ。


しかし、さっきの渡邉さんの言葉で気にかかったことがあった。

それは死んだ兵士達のこと。


「ねぇ、さっき亡くなった兵士が゛現実ではどうなったかわからない゛って言ったよね?それってどういう意味?」


「んー、今までにも何回か怪我人の救助の仕事があったんだけど」


仕事。そもそも何故、私達はそんな仕事を与えられているのか。


「ちょっと前に大国の大統領が暗殺されたみたいで、運ばれてきた」


その事件なら知っている。

数ヶ月前に日本のニュースでも騒がれていた。

確か反政府派に銃で心臓スレスレのところを撃たれたのだ。


「知ってる顔だったからびっくり、というか有名人に会えてちょっと興奮したけど」


「それでどうしたの?」


「今日、櫻田さんに渡した薬をその大統領にも飲ませたの。兵士達と同じ、死んだと思った」


しかし、私は知っている。

現実での大統領のその後を。


「櫻田さんはスマホで赤字で流れてくるニュース見たことある?」

「うん」


「その夜、大統領が助かったって流れてきたの 」


そう、覚えている。

他国の大統領とはいえ、奇跡的に助かったと後日報道され、良かったと思ったことを。


「この世界では死んだのに、現実世界では大統領は助かっている…」


「そう、だから今日の兵士達も現実世界では生きてるんじゃない?」


渡邉さんがあっけらかんと言う。


私の罪悪感が少しだけ消えた。

彼らにはどうか無事でいて欲しい。


「ねえ、もしかしたらあの薬を飲めば私達も元の世界に戻れるっていうことはない?」


「でもあの薬、確か日本では承認されていない医療系の相当強い麻薬よ?健康な人が飲んだら苦しむよ」


確かに現実に帰れるという確約もないのに飲む勇気は出ない。

それにこの世界に瀕死状態で運ばれてきた者たちにだけ効く薬なのかもしれない。


頭がまとまらない。


「渡邉さん、今までにこの世界から逃げられた人っていないの?」


「うーん…。あっ、でも逃げようとした人は居たよ」


「でも、あの黒服の女に殺されるんじゃ…」


「夜は、あの女いないからね。この世界に耐えられなくなったのか、パニックになった男の人がいたの。叫びながら、このオフィスの窓から外に飛び降りたの」


「飛び降りたって…ここ7階よ?」


「私、窓から下をのぞいたけどその男性の死体もなくて、翌日も戻ってくることがなかった」


その男性はどこに行ったのだろう?

死んだとしても生きて戻されるこの世界なら、男性は現実世界に戻れたのだろうか。


少なくとも、ここでダラダラと過ごしていても仕方がないということだけはハッキリとした。

貴方も退屈しているの?

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