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「好きに、なっちゃった…。凌くんのこと…。」
最初は冗談だと思った。だけど、潾の顔は真っ赤で、嘘なんかじゃないって訴えるように俺の目を見つめた。勿論、潾のことは好き。でもそれは、友達としての好き。でも潾は俺に恋愛感情を…?俺の脳内は困惑で混沌としていた。
…いや、とりあえず、断ろう。
「えーっと、」
潾が食い込むように言う。
「分かってる…!凌くんが僕に恋愛感情を抱いてないことなんて分かってる!だから、チャンスを欲しい!」
「…え?チャンス?」
「うん。僕はこれから凌くんに好きになってもらうためにアタックする。それで、もし僕のことが好きになったら、…付き合って欲しいの。」
潾の顔はさっきよりも真っ赤になって、俺のことを真っ直ぐ捉えてた目はそっぽを向いた。潾の首筋に冷や汗が通って湿っているのが分かる。
「…わかった。じゃあ俺今日は帰るね。また。」
あのまま個室に居ても、潾は顔を真っ赤にして固まったままだろうからすぐに帰った。
…潾は明日からどんなアタックをしてくるのだろう。
___________
次の日。
「あ、凌くん来てくれてありがとう。」
潾はいつも通りを装っているけど、俺には分かる。いつもより落ち着きがないし、顔も少し火照ってる。…こう見るとなんかちょっと可愛いかも。
「おはよう、潾。」
「うん!おはよう。」
潾がもぞもぞしながら言う。
「…あ、あのさ、昨日言ったこと、本気だからね…?」
「うん、分かってるよ。」
「そ、それでさ、アタックするって言ったの覚えてる?」
「覚えてる。」
「だから、今日ゲームしようと思って…。」
「お!いいね、なんの?」
「…ぽ」
「ぽ?」
「ポッキーゲーム…!」
「え」
「ほら、ポ、ポッキーゲームって顔が近くなるし…!だから、ドキドキして好きになってくれるんじゃないかって思って…!」
「いや、待って。ぷはっ、え、アタックってそういうこと?あからさま過ぎじゃない?ぷはははっ!」
「…ねえ、笑わないでよお!」
潾が頬をぷくっと膨らませる。
こういうとこ、潾は本当に面白い。そう、俺の人生の中で唯一面白い存在。潾につまらない瞬間なんてない。全てが面白くて、笑わせてくれて、楽しませてくれる。
徐々に笑いが収まって、咳払いを一つした。
「…ごめんごめん。笑い過ぎた。それじゃ、ポッキーゲームする?」
「え!あ!うん…!す、する…!」
「負けたらどうしようか。」
「えーっと、えーっと…。」
「…アタック、するんじゃないの?だったら、刺激的な罰ゲームが良いんじゃない?」
正直言って、俺はこの状況が楽しくて仕方がない。俺の言動一つで潾が顔を真っ赤にしてアタフタするさまが本当に面白い。
「じゃ、じゃあ、負けた方が勝った方のほっぺにキス…とか…。」
「お、いいね。」
「え、い、いいの…!?」
「うん、もちろん。じゃあほら、罰ゲームも決まったことだし、ポッキー咥えて?」
潾は言われた通りにポッキーを咥えた。
「潾、準備いいね?よし、じゃあスタート。」
俺も反対側からポッキーを咥える。顔を真っ赤にして噛み進めてない潾。少し待ってあげたけど、緊張して口が動かないのか全然噛み進めないので、こっちから攻めることにした。
ガリッガリッガリッ…。俺の咀嚼音だけが響く。ポッキーが短くなって、噛みづらくなったから潾の頭を後ろから掴んで固定した。
潾の心臓の音が聞こえる。すごく早い。緊張しすぎ。…もうすぐ唇が触れる。もうすぐ。
1mmほどポッキーを残してやめた。唇には触れなかった。キスしても良かったけど、好きでもないのにキスをすることを多分、潾は嫌うから。
「はあっ、はぁっ…。」
「潾は少しも噛み進めてなかったのに息切れしてるの?」
「だって、緊張で…!!」
「ポッキーゲームでそんなんじゃ、罰ゲームはどうなることやら。」
「ち、ちゃんとやる…!やるから…!」
「そう?じゃあほら、どうぞ?」
自分の頬を指でツンツンと指した。さっきのポッキーゲーム以上に顔を真っ赤にして、頬に近付いてくる。息がかかってくすぐったい。
「…早くして?」
「ちょっと待って…。心の準備が…。」
一分経ってもキスする気配がなかったから、潾の顎をクイッとあげて、俺の頬に当てた。
潾の唇はぷるっとしてて柔らかくて綺麗なピンクで、これを俺の唇で味わったらどんなに美味しいのか。
「んっ」
「潾が遅いから強引にしちゃった。ごめんね。」
「い、いや、ぜんぜん、ぜんぜんへーき…!」
沸騰する前のやかんくらいに潾の顔が赤い。
…これだから、本当に面白いんだよね。潾は。
「…昨日、俺にアタックするって言ってたけど、潾のほうがドキドキしてない?」
「あ!そうだ!やばい、アタック出来てない…!」
頭を抱える潾を横目に見ながら、ふと聞きたいことがあったのを思い出した。
「…そういえば、聞きたいことがあった。」
「…え?なに?」
「潾は、俺のどこを好きになったの?」
潾は真っ赤な顔から一変し、少し悲しそうな顔で下を俯いた。
「長くなるよ…? 」
「大丈夫だよ。全部聞くから。」
「…わかった。
僕、友達が一人もいなかったんだ。いなかったって言うか離れていったのほうが正しいかな。僕が病気で友達なんて諦めてた時に、お父さんが会社のツテで同年代の友達になれそうな子達を紹介してくれた。でもみんな、僕が病気だからって優しいんだ。それで一週間もしたら、みんな離れていった。僕を優しく扱うのに疲れたって。…でも僕は、優しく扱って欲しいなんて言ったこともないし、対等な関係で、ふざけたりして楽しく過ごしたかった。
…だから、嬉しかったんだ。凌くんが、庭で僕に鬱憤を晴らしてやるーって言った時。僕に優しくしないんだって。それが嬉しくて嬉しくて。勿論その時はちょっと怖かったけど…。
それから、凌くんは僕に普通の友達として関わってくれた。病気なんて一切気にしないで、関わってくれた。一ヶ月、ずっと。だから、それで、僕は凌くんのことが好きになった。凌くんが僕の出会った人の中で一番、かっこよくて大好きなんだよ。」
「そっか…。それで俺のことを好きになったんだ。」
「うん。… ごめんなんかちょっと重い話だったよね…!」
「いや、ありがとう。話してくれて。嬉しい。」
実は、潾が俺のことを好きなのは、周りにいる人間が俺だけだからだと思ってた。でも違ったんだ。これまでの経験で積み重なった全てで、俺のことが好きなんだ。
…なんかそれ、凄く良い。