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「誰だよこいつ」
「いや僕だよ」
「嘘つけお前」
なんて会話を、収録の待合室で話していた。
同じメンバーのセラフ・ダブルガーデンと渡会雲雀は収録中であり、風楽奏斗と四季凪アキラは収録を終えたところだった。
四季凪アキラの手には写真が一枚持たれている。
「どうよそれ、かっこよくない?」
「顔が良すぎて腹立つ」
「褒めてくれてるんだよね?褒められてるんだよねそれ」
「あーはいはい褒めてる褒めてる」
「よしよしよし、流石に褒めてくれなかったら拳銃ぶっぱなしてるところだったわ」
「おま、お前同期で同じメンバーの人に平気で拳銃ぶっぱなすのやめろよお前、それはもう事案なんだよ」
「アキラならいいかなって!」
「良くねぇよ!」
なんてぎゃあぎゃあと騒ぎながら雑談している姿を、自分達以外は誰も見ていない。
手元の写真に写っているのは今日発表されたであろうジューンブライド2024の風楽奏斗の写真だった。
爽やかな笑顔を此方に向けながら花束を持っている彼は、やっぱり顔が良いんだと四季凪は再確認しながらも目の前にいる本人と見比べる。
いつもはこんなにも騒いでて、たまに幼児退行したり馬鹿をして周りからはクソガキという名が称号になっているのに、写真の中の風楽奏斗はもう全て、何もかもが違いすぎて四季凪は頭を抱えた。
これが世の女性がよく言うギャップ萌えと言うやつなのだろうか。
こんなかっこいいからモテるんだろうな。
キレそう、は?キレそう。
「ガチ恋勢には死んでもろてとか言ってるくせに狙いにいってるだろこれ」
「いやちょっと、なんの事だか。
だってジューンブライドよ?一生幸せになれるって言われてる結婚よ?」
「だから貴方のオタクは死んでんだよ、実質お前が殺してる」
「やだなー!今死なれたらリスナー減っちゃう」
「でもほんとに顔良いね、この写真の貴方」
「ん?今の僕はかっこよくないって?」
「いやまあそんな事ないけど、お前はいつでもかっこいいだろ言わせんなよ分かってんだろ」
「いやー、どうもどうも!」
「殴ってもいいんだからな?!」
ガタリと座っていた椅子から立ち上がり、奏斗の目の前に拳を突き出す
きゃー暴力罪!なんて奇声を上げて笑いながらそう言うものだから、ほんとにこいつぶん殴ってやろうか、とも思ったけどじっと奏斗がこちらを見つめていたから、何も言えなかった。
黙っていると、彼の口が開く。
「指輪、今度見に行こうよ」
そう微笑みながら言われ、ずるりと眼鏡が落ちてきた。
一瞬頭が空っぽになったような感じだった。考えていた事が全て抜け落ちたような、そんな感じ。
眼鏡を掛け直しながら、ドギマギする心臓を落ち着かせふと気になった事を彼に聞いた。
「貴方指輪とかそういうアクセサリー好きでしたっけ?」
「結構好きだけどな、イヤリングとか結構付けてるでしょ?」
「ああ確かに、私も超学生さんの貰ったやつとかはあるけど、新しいの見つけるのもいいかもしれないな」
「でしょ、今度の休みに行こうよ」
「でも奏斗最近のスケジュールいっぱいいっぱいじゃなかったっけ、別に忙しくなくなってからでも」
「休みに出かけるのは自由でしょ、ちゃんと休んでるから大丈夫だよ」
「そう?別に休みの使い方に干渉はしないけど、貴方の休みの日に合わせますよ」
「じゃあ後でスケジュール帳確認して休みの日にち送っといて、とびきりのデートにしてあげるからさ」
「デートて、まあ楽しみにしてる」
「アキラの指に合う指輪あるかな、細っこいんだよなお前の指」
「流石にあるでしょ、そんな細くも無いし」
「いーや、細いね」
なんて笑いながら手を握られた。
こういうところがこいつの悪いところなんだよな。
普段は馬鹿ばっかなのに、たまにこうやってかっこよくなるのがずるい本人はきっと分かってやってるんだと思う、いや知らないけど。
「写真の僕でもいいけど、今の僕が一番かっこいいでしょ」
「それを自分で言わなかったらもっとかっこよかったよ馬鹿野郎」
でも確かに、綺麗に着飾ってる彼は十分かっこいいけど、今みたく沢山笑いながら拳銃を持ってる方が一番かっこいいと思うよ。
本人には言ってやらねぇけど。
だけど結局好きだなって思ってしまうから、話を逸らすように違う話題にすり替えた。
「私、このグッズの指輪買おうかな」
「待って?さっき指輪見に行こう言うたのに、嘘だったのね?!」
「いでででで!!痛い!そんな強く握るなばか!!」
「浮気なんてしたらあたし許さないわよ!?」
「どっちもお前だよ!!!」
「ああそっか、確かに」
「怖い怖い、切り替えの速さが怖い」
「そんなそんな、褒めても指輪しか出ないよ」
「それはそれで怖いよ」
なんてわちゃわちゃと会話を続けていれば、控え室の扉が開く音がした
きっと収録が終わったセラ夫とたらいが帰ってきたんだろう。
奏斗は握っていた手を離し、たらい達に手を振っている。
「おつ〜」
「おつー!なんか話し声聞こえてたけど何の話してたん?」
「んー?内緒、ね、アキラ」
「まあ、一旦内緒か」
「二人で内緒話?俺らは入れてくんないんだね、うえーん」
「あー!セラ夫泣いちゃったやんかどうすんだよ!」
「こらそこの186cm、泣き止みなさい。」
「どういう慰め方なんだよ」
「つか腹減ったくね?飯食い行こうよ4人でさ」
「まあじゃあ一旦ラーメンか!」
奏斗が飯を提案して、4人で行くことになった。
いつもの様にラーメン屋をたらいが提案していて、セラフはまたかよと笑いながらもいいねと言っている。
平和だな、今日も。
いつの間にかセラ夫とたらいは控え室には居らず、廊下で何食うか笑いながら話していた。いや早すぎ、そんな腹減ってたの。
自分も帰り支度をして、店に行くため控え室から出ようとした時、不意に奏斗に手を引かれた。
どうしたのか聞いてみると、さっきまで楽しそうに笑っていた顔が此方を向いて微笑んでいた、なに、その顔ずるい。
「アキラは僕のこと好きだし、OKしてくれると思うから返事は要らないけどさ」
その後の言葉に、不覚にもきゅんとしてしまったのは致し方のない事だろうと言い聞かせた。
貴方、一度カッコよすぎることを自覚した方がいいんじゃないか。
そう思いながら、奏斗の手を握ってたらいとセラ夫に追い付くように歩き出す。
きっと、次の休みにはお互い左手の薬指に世界でふたつのアクセサリーが付いているんだろう。
コメント
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神です!このカプ少ないから助かります!