テラーノベル
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ボーダー本部。訓練後、ぐったりと床に寝転がる私の前に、ふいに差し出されたペットボトル。
「ほい、おつかれ。めっちゃ汗かいてんじゃん、これ飲みな」
見上げると、いつもの調子で笑う“あの先輩”。
『……ありがとう、出水先輩』
はあ、と深く息を吐いてペットボトルを受け取る。
中身はオレンジジュース。私が好きなの、なんで知ってるの?なんて思ったけど──
「え、ナマエってオレンジ派だったっけ?たまたま当たってたら天才じゃん俺」
あ、たまたまか。
ちょっとだけ、期待した自分が恥ずかしい。
でもその横顔が。
隊服に、ちょっと乱れた髪に、じっとこっちを見て笑う目。
──ドキッ
「……」
心臓が、一拍だけ大きく鳴った。
(え、なに、これ……)
あのときの鼓動、きっと忘れない。
恋に落ちた、ってわかったのは……その夜、布団にくるまって思い返してたとき。
「……やば。私、出水先輩のこと、好きだ」
⸻
出水目線
その日、ナマエはちょっとだけミスが多かった。
いつもなら余裕あるツッコミもするのに、どこか上の空で。
(あー、なんか疲れてんのかな)
訓練が終わった後、彼女はだらんと床に寝そべっていた。
「ナマエー、干からびるよ。はい、オレンジ」
『……ありがとう、出水先輩』
ペットボトルを受け取る華奢な手。
赤く火照った頬。
汗をぬぐいながら、静かに笑う顔。
(あー……)
──あれ。
今の、すごい、かわいかったな。
「……」
ちょっとだけ目をそらして、自分の鼓動を確認する。
(なんだこれ。俺、ナマエのこと……)
気づけば、何気ないやり取りも、他の誰かと話してる姿も、目で追うようになっていた。
声を聞くだけで、少し元気になってしまう。
任務より、訓練より、強くなりたいって思ってしまう理由が変わっていた。
──そう、あのときから。
俺はあいつに、恋をしてる。
⸻
『……好き、かも』
「……好きなんだろうな、俺」
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