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天界では今日もチェスが行われている
「うぅむ…これは悩ましいな…」
「では、これでどうだろうか」
「やるじゃないか」
「でも…」
「まだまだ…だな」
「あぁ…」
騎士の駒が取られてしまう
「やはりお前は強いなぁ」
「俺にかかればこんなものよっ」
カタンッ
「ほら、調子に乗るから騎士が落ちた」
「拾えよ」
「はいはい…」
「あれっ?」
「ないぞ…」
「騎士がない」
「ほら見たことか」
「無くしてしまったではないか…」
side:M
僕はなんでも出来た
大人たちは一歳になる前から立っただとか
小学校低学年の時にはバク転が出来ただとか
テストは毎度学年一位だとか
とにかくなんでも出来た
みんなはそれがアイデンティティーだなんて言うけれど
僕にはそう思えなくて
だって愛する君を救えないんだから
だけど
徴兵されてから少しずつ実感するのは嫌だけど僕の自分らしさはこれなんだなと思えてきた
散らばってしまったアイデンティティーも
気付かぬうちに形になるようで
戦場では僕はとても自由に動けた
貴方は僕が徴兵されるのを嫌だと言った
僕だって貴方から離れたくない
だけどもこれは義務だから…
僕は生まれつき身体が弱い貴方を置いて、戦場に行った
僕はその時、光を纏った貴方の涙が
時間をかけて落ちていくのを見た
F「帰ってきてね」
「絶対」
「五体満足じゃなくてもいい」
「貴方がいればそれでいい」
「俺はずっと…」
「待ってるからね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
戦争とは恐ろしいもので
僕は呆気なく死んだ
前にいる敵に気を取られて、背後の敵に気付かなかった
何気ない日々の夜、戦場で
ひょんなことから死者の世界へ迷い込んだ
見慣れたものは何一つ無かった
そして僕は今
貴方の目の前に幽霊としている
M「どうやって僕の居場所に気づかせよう」
手を挙げて
叫んでいるのを
誰かがきっと見ているから
怖がらないで
貴方は貴方の
生命だけを
輝かせて
side:F
元貴が…行ってしまった
あぁ…この世はなんと残酷なのだろうか
なんで俺は弱い身体で生まれてきたの?
普通の人とおんなじ身体で生まれれば…
元貴と一緒に戦えたのに
なんでこんなにも惨めにならないといけないの?
そんなことなら生まれてこなけりゃ良かったのに
こんな想いせずに済んだのに
そもそも
戦争なんて無ければいいのに
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
元貴が徴兵されてから、戦死した通達が来るまでそう長くは無かった
その日は朝から晩まで、涙が枯れるまで泣いた
バイタリティーが奪われてしまったようだった
そこで俺は決意した
兵士になると
F「元貴…愛してる…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そこから俺は兵士になった
もう生きてる意味もないし
日々のトレーニングに耐えるだけで精一杯だったこの身体も戦場で動けるほどになった
奪われちまったバイタリティーも気付かぬうちに形になった
俺が戦場に出て戦う中で
あの時、俺が放った汚れを纏った言霊も時間をかけて澄んでいったようだ
この時に抱く感情を
言葉にするには勿体無いな
だけど
この時の感情を失わぬように
元貴との思い出が傷つかぬように
盾と剣を握りしめた
僕の世界と
手を挙げて
銃声が響いた
誰かがきっと泣いているから
怖がらないで
掲げた誓いを果たす為に
戦ってくれ
side:M
手を挙げて叫んでいるのも
誰かがきっと見ているから
怖がらないで
貴方は貴方の
生命だけを
M「涼ちゃん…」
僕にはわかる
涼ちゃん…ずっと無理してるよね?
だけど
もう大丈夫だから
僕はずっと見てるから
いつまで悲しんでいるの?
ここでちゃんと見ているから
もう泣かないで
霧が晴れたら
虹の元へ歩いてみよう
心の雨があがった
空が見えたら
傷が癒えたら
歩いてみよう
なんて
唄ってみるけれど
パンッ
F「 あがッ… 」
ドサッ
僕の声は
届かない