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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第10話 〚笑い声の裏側〛(澪視点)
放課後の教室は、
昼間より少しだけ空気が軽い。
鞄を机から下ろしながら、
えまが言った。
「一緒に帰ろ?」
しおりとみさとも自然に頷いて、
湊も「俺も」と静かに笑う。
五人で帰る準備をしていると、
湊がふと、天井を見上げた。
「そういえばさ」
嫌な予感がした。
「小学生の時、俺さ……」
そこで一拍置いて、
急に真顔で言う。
「ランドセル、前後逆に背負って
『今日の俺、最先端』とか言ってたよね」
一瞬、静かになって——
「は!?それ覚えてる!!」
えまが吹き出した。
「廊下で盛大に転んだやつでしょ」
しおりが笑いながら補足する。
「先生に“未来から来たの?”って聞かれてた」
「やめろ!」
湊が慌てて否定して、
みさとまで思い出したように言った。
「あとさ、傘さしてるのに
雨降ってない日とかあったよね」
「それは事故だって!」
五人の笑い声が、
教室に広がる。
私も、
気づいたら声を出して笑っていた。
胸が、軽い。
未来も、
心臓も、
今は関係ない。
ただ、楽しい。
——その少し離れた場所で。
海翔は、
廊下の端からその様子を見ていた。
視線を向けているのに、
気配は消している。
(……笑ってるな)
澪の表情を確認して、
小さく息を吐く。
守るために、
近づかない。
それが、
今の距離。
その時——
背後の違和感に気づいた。
別の視線。
ゆっくり振り返ると、
廊下の影に、西園寺恒一がいた。
澪の方を、
“見ている”。
見ているけれど、
近づかない。
(……やっぱりか)
海翔は、
迷わず一歩前に出た。
恒一の前に立つ。
「何してる」
低い声。
恒一は一瞬驚いた顔をしたが、
すぐに薄く笑った。
「見てただけだよ」
「用がないなら、帰れ」
言葉は短い。
でも、逃がさない目。
恒一は、
澪の方にもう一度だけ視線を向けてから、
肩をすくめた。
「……邪魔はしない」
そう言って、
静かに背を向ける。
足音が遠ざかるのを確認して、
海翔は、もう一度澪を見る。
まだ、笑っている。
(……それでいい)
放課後の校舎に、
夕方の光が差し込む。
誰も知らないところで、
守られている日常が、
確かに続いていた。