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白銀の月が見下ろす森の中、一人の男が作業をしていた。

年齢は、少年の域をようやく脱した程度。粗末なシャツとズボンの上に、初級魔術師であることを示す緑色のフード付きローブを羽織り、痩せた体を包みこんでいる。

古ぼけた木の杖を使って、森の中にできた小さな広場の地面に召喚陣を書き込んでいく。奇怪な文字や記号を使って、異界と現世を繋ぐ扉を作り上げると、今度は自分が魔物から身を守るための結界−−魔法陣−−を地面に書き上げた。

最後に、血を混ぜたインクを使って紙に呪文を書き連ねた呪符を、青銅でできたナイフを使って召喚門と魔法陣を囲む周りの木々の幹に打ち付け、全ての準備は整った。

作業を終え、大きく息をつくと少年魔術師・ラウスは、自分に言い聞かせるように独りごちた。

「さあ、やるぞ」

これを終わらせないと帰ることができないのだ。


数刻前……

ラウスは自分が所属する冒険パーティーのリーダーに詰められていた。

曰く。

「最近は、不景気でどこの冒険パーティーも経済的に余裕がない。ウチのパーティーもメンバーを切り詰めて生き残るしかないと思う。先ずは、お前だよラウス」

冷たい言葉が更に浴びせられる。

「メインの魔術師のオジーに何かあった時の予備として、お前を置いていたが「まさかの時」なんて起きる気配がないしな。予備の人員を置いとく方が、長期的に見て無駄だよな」

「そんなっ、僕、ここを追い出されたら、他に行くトコ無いんです」

戦士特有のガイの大きな手がラウスの襟元を掴んで揺すぶる。

「だったらよぉ。追い出されないように、努力とかしようや。なぁ」

揺さぶられた後、ラウスの細い身体は、パーティーが拠点替わりに使っている空き家の床に放り出された。

この家とて、元はちゃんとした住人が住んでいる家だったのだ。天災・戦争・疫病と飢饉ききんで世の中が乱れ、元の住人がこの家を手放して逃げていった後、野盗や山賊の一歩手前といった風体の冒険者たちが雨風をしのぐ宿代わりに使うようになっていた。

床に倒れたままのラウスに、ガイが近づく。

「なあ。お前が役に立つ所をよ、俺たちに見せてくれや」

「ど、どうすればいいの?」

すがるような目付きで見上げるラウスに、ガイは歪んだ笑みで答えた。

「お前、初歩の召喚術が使えるんだってな……」


世界制覇を目論む魔王が倒され、主だった地下迷宮ダンジョンがあらかた掘り尽くされたことで、世界の形が変わった。

かつての花形産業だった冒険者界隈も、一気に斜陽産業と化し、先見の明がある者たちは、それまでの冒険で蓄えた財産を元手に堅気の仕事へと鞍替えしていった。

一方で、堅気の仕事に馴染めぬ者。国王軍を不名誉除隊になった兵士や騎士。お尋ね者や傭兵、無宿人といった一般社会をドロップアウトした者たちが居場所を求めて大挙して押し寄せてきたため、冒険者界隈は一気にきな臭い物となった。

かつては厳格な掟で加入者たちを縛っていた冒険者ギルドも、上納金次第で大概の悪事を見逃してくれ、犯罪の斡旋すら行う悪徳組織へと姿を変えていった。

モラルを守っている冒険者も中には居るとはいえ、自らの帳尻を合わせるため、時には味方同士で殺し合いすら行う無頼の徒。それが、この時代、冒険者と呼ばれる者たちの本質だった。

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