こんなことをしていれば普通は留年や何かしらの処罰があってもいいようなものだけど、マナに関して言えば全く何もなかった。たぶんマナの父親が都議会議員のお偉いさんだから、何かしらの措置がとられていたに違いなかった。そんな風に特別な待遇を受けていたマナだけど、学校にいる間は先生から特別扱いされることはなかったし、普通の生徒と何ら変わりなく扱われていた。いや、それ以上に容赦なく怒られていたような気がする。まぁ――普通の生徒と同じように怒ったのでは全く効き目がないし、実際効いていないので、どんどんやってもらった方がマナのためになる。先生たちも、それがわかった上でマナと接しているようだった。
「明石、五十嵐を見なかったか?」
「1時間目の授業が終わるまではいたと思います――」
「ちょっと探してきてもらえないか?」
「別にいいですけど――」
「悪いな」
この男性教師は、俺のクラスの担任で大場守、49歳。科目は国語の担当しており、学年主任も任されている。冗談は通じないし融通が効かないような頭がガチガチの真面目一辺倒の先生だ。だから校長や教頭からの信頼は厚く、今の校長が定年後は次期教頭とも言われている。
「別にいいですよ。最近じゃ俺はアイツの世話役みたいになってますから」
「君みたいな学年でトップを取るような優秀な生徒が、五十嵐のような落ちこぼれの人間の面倒を見てやる必要はないと思うんだがな」
「どうしようもないヤツほど放っておけない性分なもので、仕方ないんですよ」
「君がいいなら何も言わないけど、ほどほどにした方がいいぞ。君にプラスになることなんて何もないんだからな。それどころか足元をすくわれることにもなりかねないぞ」
「お気遣いありがとうございます。肝に命じておきます」
マナを知っている先生からは、そんな風に言われることが多かった。だからといって、マナを見捨てるほど俺は薄情な男ではなかったし、損得でマナといる訳ではなかったから、誰の言葉にも聞く耳を持たなかった。
そして今日も授業が終わると、部活をしていない俺とマナは、駅まで一緒に帰っていた。
「圭ちゃん、お腹空いたよ。何かおごって?」
「自分で買えよ。毎日小遣いもらってんだろ!」
「そんなにもらってないって。持ってると全部使っちゃうから、ママがあんまりくれないんだよ」
確かにマナは、お金があればあるだけ使ってしまっていた。だから昼食代と1日分の小遣いの千円以外は、殆んどお金は持たされていなかった。それでも本当に必要な時は俺や友達に借りているから、特に不便はしていないようだ。でも、貸した金が返ってきたことなど殆んどなく、今では返ってくるなどと期待してはいない。たぶんお金を借りたことなどマナ自身憶えていないだろう。とはいえ、俺は諦めているからいいけど、マナの友達の中には、そうはいかない奴だっている。マナのだらしなさが嫌で2度と貸さない奴もいたし、マナから離れていく奴も沢山いた。金の切れ目は縁の切れ目とはよく言ったものだ。だから俺の知っている限り、マナの友達は俺ともう1人しかいない。別に嫌われていた訳ではないし、イジメにあっていた訳でもないが、みんなマナとは関わりたくないというのが本音のようだ。
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