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この気持ちは、いつからだろう。
君のことを徒競走で初めてみたときだろうか。
君の消しゴムを拾ったときだろうか。
君に教科書を見せたときだろうか。
君が問題を盛大に間違えたときだろうか。
君が、末崎君と放課後共にいるのを見てしまってからだろうか。
第二音楽室が開いてなくて、第二美術室に行ったら君がいて、一緒に昼食を食べたときだろうか。
思い出せる印象的な事はこれくらいだ。いつの間に君を好きになっていた。いつの間にか惹かれた。恋していた。これだけならあまりにも都合が良くて、都合の悪い恋心だろう。
私は、放課後がたまらなく恐ろしい。
「花園ちゃん?聞いてる?」
「あ、うん聞いてるよ」
「も~ぼーっとしすぎー!徒競走、花園ちゃんアンカーでいい?」
「ん。いいよ」
高校一年生。体育祭の徒競走の順番を決めていた。私はクラスの中でも特に足が速いらしく、後半に行くにつれ早い順にしたので私がアンカーになった。うちのクラスは、今までの練習から打倒1組状態だったので、末崎君に少しでも追いつける陸上部の私に有利な順にしたのだろう。末崎君は、この学校でもトップに早い。部活にも行っていないらしく、驚愕ものだろう。 私は逆に部活に行っていないと思われることが多い。
そんな風に体育祭の準備が行われていく。そのせいで私はいつもより帰るのが遅くなった。
帰り道には末崎君がいた。知らない男の子とだべりながら帰るのを見ていた。その子は、これ以上ないってくらい楽しそうな顔をしていた。人の気持ちとかあまりわからない私でも、なんか明らかに楽しそうだったので覚えている。見ていると心地よくなるような。表情はすごく上機嫌ってわけでもないけど。
それから。高校2年生に進級した。末崎君は5組らしい。それと、知らない男の子。冨土原くんというらしい。実際に接してみるとガタガタしている小動物みたいな人だと思った。背も私の方が高い。背が低いわけじゃないけど。特別何か変わった子っていうわけじゃないけど、一緒にいると安心した。それ何故だかは、思い当たる節が無いわけじゃない。昔、とある女子グループに居たけど、みんな気が強くて喧嘩したり陰口を言ったりしていたのが少し怖くて、あまり自分から行動は起こさなくなった。もう高校生だから、面と向かってからかうやつもいなかったけど、それでも居場所が欲しかった。進級して、前のグループから一時的に離れて、第二音楽室に入り浸るようになった。それでも、いつでも開いているわけじゃなかった。そこで、もう一つの使われてない教室、第二美術室に行ったとき、冨土原君がいた。何度か冨土原君と第二美術室で昼食に取るようになってから、自分は冨土原君と一緒にいるのが心地よいと感じるようになっていた。というより、冨土原君の、内気でほかの人と馴染めない性格に、自分が他の人のような恐れを感じなくて、つけこんでいたのかもしれない。
高校三年生の終盤、私は、冨土原君に告白をした。
なのに、付き合いたいとは言えなかった。言いたくなかった。
冨土原君は、私の気持ちを受け取ったのか、あまり深く考えていなかったのか、それとも私と似たようなことを考えていたのか、「はい」でも「いいよ」でもなく、ただ「うん」とだけ言った。
二人して内気な私たちの関係は、これで終わるのかもしれない。ならちょうどいい機会だろう。
夕焼けとともに頬を染めた冨土原君は、酷く怯えているように見えた。
これは、きっと不変を望んでしまった私への罰。