第三章『戦線』
二人の放った爆発の煙でお互いは姿を消した。
「お前はここの世界から逃れることは出来ない。私がお前を殺す。」
煙が消えた頃、秋水がビトレイヤーの居た場所を確認するとそこには姿はなく煙に蒸発したかのように思えた。だが、一回の瞬きの間にビトレイヤーは目の前に現れた。どこから現れたのか、どこに行ったのかは誰も知りはしなかった。
「ちょっ、マジかよ!」秋水は驚きを隠せすことができずそれは口に出てしまう。
「火ノ極 紅拳(ぐけん)。」
ビトレイヤーの拳は紅い炎に染まり秋水の頭と腹に一発ずつ殴ったが秋水の体は水へと変化し川に溶け込んだ。
「ちっ、あいつを殺さないとここから離れることが出来ないのに一体どこへ消えた。」
『水ノ極』
ビトレイヤーの脳裏に秋水の声が聞こえ、技が飛んでくると察し構えるがどこにいるのかどこから技を放ってくるのかが分からない。すると、
『滝流し(たきながし)』
技が放たれると遠方に見える滝から洪水の如く川が氾濫しビトレイヤーの元に大波が押し寄せた。ビトレイヤーは波の流れるままに身が動くが、抗いながらもどうにか水面に顔を出すことが出来た。そこには棒立ちでビトレイヤーの流される姿を見る秋水がいた。
ビトレイヤーは大声で何かを言うため深呼吸をした。
「秋水流!!!!死んでも俺はお前を呪い殺してやる!!」
秋水はビトレイヤーの放った言葉に驚きを隠せず唖然とするがすかさず秋水は水の勢いを強くした。自分の名前を見知らぬ者に知られているということは、今後現世で何か不穏なことが起こるかもしれないと思い水の流れを強くした。
『神技併用。水ノ極 重水(じゅうすい)。』
水の流れに流されると湖の水の重さはいつもの10倍以上になりビトレイヤーはその重さに耐えられず湖の底へと沈んでしまった。
ビトレイヤーは息苦しい湖の底で水上へ戻るすべを考えていたが、上手く力が入らない湖の中をどう動こうにも上へは上がる計画は全て駄作に終わってしまう。
(お前はここままだと確実に死するな。)
ビトレイヤーは脳裏に流れてくる不思議な声に驚きを隠せなかった。顔を左右に向けて確認するが誰もいなかった。そんな中、脳に何者かが、いや、何かが問いかけてくるのはビトレイヤーにとって今回2回目の経験だった。
(我に任せて身体を譲れ。さすればお前の命を救ってやろう。)
(ここで抗っても埒が明かねぇ。いいぜ。お前のその提案に乗ってやるよ。俺の身体を貸すんだ。失望させるなよ。)
(よかろう。さぁ、久しぶりの身体に、久しぶりの世界だ。久しぶりに暴れるとしよう。)
ビトレイヤーの体は見知らぬものに明け渡すと共に身体はその強大な力を引き出すと共に変化を与えた。まつ毛のバサバサ部分が全体に広がり、ビトレイヤーの周囲を炎が囲む。その炎はビトレイヤーに伸し掛る重たい湖の水を蒸発されるほどの熱さだった。炎は200度を軽く越えていた。
【水上】
秋水は神技の連続使用や併用をしたことにより疲れていた。だがその時、湖が揺れ始めた。
「アイツがまだ生きていたか。」秋水はこの揺れの正体が分かると秋水はゆっくりと立ち上がり構えを取った。すると湖の底から現れるビトレイヤーの姿があった。その風貌は以前のものではなく目に瞳はなく理性で動くことが出来ない怪物のような姿であった。
「アキミズナガル、オレハオマエヲコロス。コロス!!!!」
理性の欠片もなく、秋水を殺すことしか脳にない獣、いや、怪物を見た秋水は驚きを隠せなかった。
「お主は我が殺す。全ては子奴の計画のために。」
「お前は加具土命(かぐつち)だな。」
「だからといってなんなのだ?」
「別にぃ?俺はお前のやることと同じことをするだけだ。俺はお前を殺すだけだ。」
「ならやってみろ。我より格下のお主はどこまでやれるかな?」
先手を取ったのは秋水だがそれは乏しく、水の攻撃は弾かれる。圧倒的な力量の中では水の攻撃など意味をなさなかった。
「火ノ極 紅蓮(ぐれん)。」ビトレイヤーは秋水に殴りかかったが秋水の神力はまだ残っていた。
「水ノ極 水泡(すいほう)。」彼からすれば、今の残っている神力というのは、最後の握りっ屁を嗅がせるような残りカスだった。
「これがお主の技か?この技で我に叶うと?フッフッフッ、笑いものだな。」
「違う。これはお前を殺す技だよ。」
「この泡がか?」
「そう。お前、水素爆発って知っているかい? 」
「まっまさか。お前、」
「ゼロ距離水素爆発さ。美味しく喰らって死ねや。」
秋水は水の泡を小さくすると同時に壁の厚さの増やした。水や酸素が混じり、ビトレイヤーの超高温によりゼロ距離大爆発を起こした。
水しぶきの中ビトレイヤーはまた湖の底に沈んだ。きっともう上に上がってくることは無いだろう。
きっと。
第三章『戦線』終わり。
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