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ランディリックがセレノに覚悟を求めてから、静寂のヴェールの内側には、さらに重い沈黙が満ちた。

セレノは、椅子の端で小さく拳を握りしめたまま、視線を落として動かない。

その横顔には、まだ拭えぬ羞恥と悔恨の影。異国の地へ単身乗り込んできて、最初のうちはピリピリと張りつめていた気持ちが、リリアンナらとゲームをしたり談笑をしたり……と汽車の中で馴れ合ううち、気が緩んでいたのかも知れない。

ウールウォードという名にほだされて、自分はとんでもない魔物を私室へ引き入れてしまった。今さら後悔しても何にもならないが、戻れるのなら昨夜ダフネがこの部屋の窓へ小石をぶつけたところからやり直したい。


そんな不毛な〝たられば〟を悶々と考え続けるセレノとは対照的に、ランディリックは静まり返った水面のように無表情だった。

だが、その瞳の奥では、たとえ火の粉ほどの嘘でも決して見逃さぬ鋭さが燃えている。


(それにしても時間が掛かり過ぎじゃないか?)

セレノの言い分を粗方聞いたあと、ダフネへの事情聴取へと移行することはウィリアムにだって分かっていたはずだ。この部屋からそんなに離れた場所にダフネを拘留しているとは考えにくい。


チラリと扉へと視線を向けたランディリックが、「さすがに時間が掛かり過ぎかと思います。少し見てまいりますので殿下はこのままこの部屋でお待ちください」と声をかけて立ち上がったと同時。

廊下の床板がきしむ微かな音が聞こえてきた。

「歩きにくいのかもしれんが、少し急いでくれ。寄り道したせいで、きっと中の二人をヤキモキさせている」


次いで聞こえてきたのはウィリアムの声だ。

どうやら静寂のヴェール、こちらの声は外へは漏れないが、外からの声は普通に入ってくるらしい。


ややして、扉の向こうで二人分の足音の止まる気配があった。


誰と誰が来たのかは言うまでもない。


ノックの音に続いて「遅くなってすまない。ダフネを連れてきた」と声を掛けてきたのはこの屋敷の主人、ウィリアムだった。先ほどウィリアムには伝え損ねてしまったが、ダフネを連れているからだろう。口調がセレノ殿下を意識してのものではなく、侯爵家の三男坊セレン仕様になっている辺り、さすがだと思ったランディリックである。

セレノがどこか戸惑いに震えた表情でランディリックを見つめる。

セレノとしては不安なのだろう。

ダフネの言い分如何で、自分の処遇が変わってしまうのだから。

ランディリックがゆっくりと頷くのを確認して、セレノが「どうぞ」と声を掛け、ウィリアムに背後からガッチリ逃がさないようにホールドされた状態でダフネ・エレノア・ウールウォードが入室してきた。

ダフネは着替えをする許可を与えられなかったのか、夜着の上に男物の分厚い外套を着て、その胸元をギュッと掴むようにして震えていた。羽織らされている深緑の上着はウィリアムのものだ。いつだったか辺境ニンルシーラのヴァルム要塞ようさいへウィリアムが王都からの使者として出向いてきた折に羽織っていたのを記憶している。

胸元に付いたペンループには、銀色の細いペンが差さっていたはずだが、今は見当たらない。

(別の服へ移したのか?)

なんとなくその辺りに違和感を覚えつつも、今そこは重要ではないと、ランディリックは頭を切り替えた。


「……またお前の顔を見る羽目になるとは思わなかったよ」


ランディリックがダフネを見下ろして冷ややかに発した一声は低く、氷を砕くような音を含んでいた。

ヤンデレ辺境伯は年の離れた養い子に恋着する

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