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「やべ、傘忘れた」
他人事みたいに、三はそう言った。
雨がコンビニの自動ドアに当たる音がこの場に響く。
つい先程までは陽光が眩しくて、外に出ただけで目を細めるぐらいいい天気だったのに、突然雨降り始めたのだ。
「それなら、私持ってるよ」
私はそう言って、カバンの中から念の為常備持ち歩いている折り畳み傘を取り出そうとする。カバンの中には、なぜか丁度二本の傘があった。
そのまま、二人で使い分け……ようとした私の頭の中に、ふと考えがよぎる。
傘が一本しかないっていうことにしたら、三と相合傘できる。という、その邪すぎる考えが。
――そう。
私ことシロは、実はこの人。又理三に絶賛片想い中だ。
ここ最近神様はたまに私の味方をする。今日みたいに、偶然相合傘ができる状況になることとか。
「……ごめん、三。一本しかない」
無意識のうちに少し上擦ってしまった声。わざと目をバッチリ合わせながらそう言った。
胸が、静かに期待の音を立てる。
三は少し目を見開いた後、ほんの一瞬、何かを考えるみたいに目を細めた。
勘のいい彼のことだ。バレたかもしれないと言う考えが頭の中に浮かび、背中に冷や汗が伝う。
「そうか。じゃあ入れてくれ」
いつも通りの言葉に、私は安堵の息を漏らした。
傘を広げ、三も入れるよう腕を上げる。
……が。
「……う」
少し背伸びしないと三が十分に入れない。もげるんじゃないかと思うぐらい肘を伸ばしても、あまり変化はない。
そうやって頑張っているのに、三は揶揄うように目を細めて笑った。
「……チビだな」
その一言で、何かの糸がブチッと切れる音がした。
「傘入れてあげない。私先に帰っちゃうね」
それでも、引き止めてほしい気持ちが「帰っちゃう」という言葉にそのまま出てくる。
「すまんすまん、置いてくな。……俺が持つよ」
「分かった」
心の隅で安堵の息をつく。
傘を三に渡し、雨の中を歩き出す。自然と距離が近づいて肩が触れた。傘に当たる雨音より、自分の心臓の音の方が大きく感じる。
「……なんか、嬉しそうだな」
「え」
核心をつくその一言に、心臓がキュッと縮んだ。
「そんなことないよ」
慌てながらも平静を装って訂正し、三の様子を伺う。少しだけ、口元が緩んでいた。
気づいてる? ……それとも、ただの偶然なのか。
答えを掴むことができないまま、私達は雨の中を歩く。
それでも、心臓はずっと優しく高鳴っていた。
――この日の雨をきっと私は一生忘れないだろう。