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第15話:声なき反応、光による接続
都市樹の深層、“接続根帯(せつぞくこんたい)”。
ここは枝でも葉でもない、都市の最下層で樹機械が情報をつなぎ合わせる根の領域。
ふつうのハネラは立ち入らない。
声が届かず、命令歌も響かない“沈黙の領域”だからだ。
だが今そこに、羽の音を立てずに降りていく二羽の影があった。
シエナの羽は、湿り気を帯びた根の空気を受けて、
ミント色から少し灰がかった薄緑に見えていた。
尾羽は静かに揺れ、透明な膜が周囲の苔の光を淡く写し出している。
肩に乗るウタコクシは、じっと沈黙しながら、翅だけをゆるやかに震わせていた。
その後ろを飛ぶのは、ルフォ。
金の羽はこの場所では目立ちすぎるほど明るい。
しかし、彼はその光を抑えるように、羽の角度を調整して飛んでいた。
「音が、ぜんぜん響かないな……」
ルフォの声は自分の耳にしか届かないほど小さい。
声は、ここでは意味を持たない。
それは、都市が“声による接続”をここでやめている証拠だった。
代わりに、この空間には——
光がいたるところに流れていた。
苔の表面、根の細胞層、そして空気の粒まで。
すべてが、微弱な光を放ち、一定の間隔で点滅していた。
「これは……命令じゃない。
パターン、だ。周期と色の組み合わせ。
都市が“自分の中身”を、光で繋いでるんだ」
ルフォの目が細くなる。
操作士としての訓練で、彼は情報転送パターンを読み解く技術も学んでいた。
シエナは、ゆっくりと尾羽を広げた。
そして、反射光を根の表面に向けて送る。
強くもなく、命令でもない。
ただ、「ここにいる」という合図だけを持つ静かな光。
すると、根の一部がやわらかく光を返した。
「……声じゃないのに、応答があった」
ルフォが言う。
それは命令でも共鳴でもない。
存在への“接続”だった。
彼女の光に呼応するように、周囲の光パターンが変わる。
苔の明滅が少しだけ早まり、
根の奥から、別のリズムが“接続”されてくる。
ウタコクシが震える。
その微かな羽音は、リズムと合わさって、
まるで“新しい歌”のようだった。
「この都市、音じゃなくても繋がれるんだな……」
ルフォは思った。
命令で制御されていたと思っていた世界が、
実はもっと、やわらかい繋がりでできていたのかもしれない。
光で繋がる。
声がなくても反応がある。
都市は、意思そのものを待っていた。
命令されるのではなく、
歌うのでもなく、
ただ共に“存在する”ための接続。
それが、根の奥で脈打っていた。