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第9話 一念発起
空はどこまでも澄み渡り、まるで昨日も今日も、何ひとつ変わらなかったかのように晴れていた。
けれど──私の胸の奥は、まだざわついたままだった。
「……」
長い沈黙が流れる。けれど、不思議と重苦しさはない。
むしろ、何かが始まる前の静けさのようにも感じられた。
その沈黙を破るように、ウフツがふと口を開いた。
「思ったんです。僕たちの存在は……『矛盾』じゃないんじゃないかって。」
その言葉を聞いた瞬間、胸の靄が少しだけ晴れた気がした。
自分おかし存在じゃないのかもしれない──ウフツの声は、そう語っているように聞こえた。
でも、すぐに疑問が浮かぶ。
昨日の記憶は消える。それがこの世界の理なのでは無いだろうか。
そう思い、すぐに質問をする。
「……なぜ、そう思ったんですか?」
私の問いに、ウフツはどこか嬉しそうに、小さく息を吐いてから口を開いた。
「だって……『矛盾』するものは、消えるんですよね。なら、どうして僕たちは……まだここにいるんでしょう?」
私は息を呑んだ。
確かにこの世界では、“昨日”という概念すら失われている。
“記録”が残らない世界──そんな理に従えば、私たちはとっくに消えていてもおかしくない。
「……でも、この世界は、昨日の記憶すらも……」
言いかけた私に、ウフツは静かにうなずく。
「わかっています。だからこそ思うんです。
──僕たちは、たぶん、この世界を変えるために『残された存在』なんじゃないかって。」
その言葉が、胸にじんわりと染み込んでいく。
私の中で、何かが音を立てて変わっていくのが分かった。
ずっとこの世界が怖かった。気味が悪くて、意味がわからなくて。
それでも、変えたかった。だから私はこの世界に存在しない『記録』を書いたんだ。
そして今、ようやくわかった。
私は……私たちは──変えられる。
「──ありがとう、ウフツさん。」
私は彼に向かって、まっすぐにそう言った。
心の奥から湧き上がるこの想いを、ようやく言葉にできた気がした。
「私は……この世界を、変えてみせる。」
その声は、雲ひとつない空に、まっすぐに届いていく気がした。