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中間までの1週間、宇野や川瀬が全ての休み時間を使って教えてくれたおかげで、俺は今までの人生で一番の高得点を取ることができた。小っ恥ずかしくて本人には言えないが、俺が一問正解する度に自分のことのように喜んでくれる宇野の存在が、地獄のテスト期間を生き延びる唯一のモチベーションだったのだ。
テストが終われば、いよいよ文化祭準備期間に入る。
今日は午前授業という名目ではあるが、主に文化祭の出し物を決める日である。
『文化祭の出し物案』
文化祭実行委員の佐々木さんが、黒板に丁寧な字でそう書いた後に教卓の元に立った。
「えーっと!席自由に移動していいので、9時15分までに友達と出し物について話し合ってください!」
高い位置に括ったポニーテールを揺らしながらよく通る声でそう指示した後、佐々木さんも女子のグループに入って話し合いを始めた。
それを合図に、気持ちの昂り表すような話し声や笑い声が教室中に響き始めた。
「来橋はなんか文化祭したいことある?」
当然の事ながら俺達はふたりで話し合いを始めた。
「ん〜何だろうな、どうせなら食べ物系がいいな」
己の食欲を包み隠さずそう言うと、宇野は甘い声で笑った。
「意外によく食べるもんね」
「おう…ってか、宇野は出し物何がいいの?」
そう聞くと、宇野は少し悩む素振りを見せて答えた。
「うーん…来橋と一緒なら何でもいいかな」
付き合って1週間程経った今でも、宇野のド直球な発言には慣れない。
上手い返しが出ずに言葉に詰まっていると、宇野は首を傾げた。
「…ねえ、俺と文化祭回ってくれる?」
「え」
最初から宇野と回るつもりでいた俺は、本当はまだ約束も何もしていなかったことを思い出した。
「え、もしかしてもう誰かと約束しちゃった?」
「あいや…..そうじゃなくて…」
恥ずかしいのでできるだけ口には出したくなかったが、宇野があまりに心配そうな顔をするので俺は渋々白状した。
「…..元から回るつもりで..想像してたから…….ごめん………恥ずい……っす」
消え入るような声でそう言うと、宇野は両手で顔を覆って低く唸った。
「もー………可愛すぎるのはやめて….みんなにバレたくないって言ったのは来橋でしょ……..」
「は?!ちょ….ご、ごめ…ん…?」
思わぬ反応に訳もわからず咄嗟に謝ると、宇野は真っ赤な顔をしたまま俺の頭を撫でた。
「周りに来橋の可愛い発言聞かれたくないから…」
「ぅん….はい…気をつけます..。」
…それと、付き合ってわかった事だが、俺には宇野のこういうシンプルな重い発言がかなり刺さる。いつも余裕があってリードしてくれる宇野のたまにでる末っ子らしさは俺の兄心を刺激しまくる。正直とてつもなく可愛い。
「はーい!!15分になったのでみんな自席に戻ってください!!」
時間に正確に動く佐々木さんの指示に合わせて、クラス中が席に着く。
「話し合いの結果何か案が出た人挙手して教えてほしいです!」
俺と宇野がそうだったように、大半の生徒は”話し合い”の時間に全く関係のない話をして終わったらしく、挙手する生徒はいなかった。
だが少しの沈黙の後、話し合いの時間に1番騒いでいた男子集団の1人が勢いよく手を挙げた。
「はい!!!案あります!!」
「お、じゃあお願いします!」
「メイド喫茶、どうっすか!!!!!!!!!!」
その発言を援護するかのように他の男子が湧き、思いの外女子も盛り上がっていた。
「私メイド服結構着てみたかったんだよね」
「えわかる、めっちゃ可愛いもん」
各々が反応し教室中がザワザワする中で、今度は教卓にいる佐々木さんが手を挙げた。
「私たちのグループで男女逆転喫茶って案が出たからそれと合わせて、執事服とメイド服のクジ作って全員がそれ引いて、書いてある方着るのはどうかな?」
くじ引きという良い感じに間欠強化を刺激する佐々木さんの案に全員一致で賛成し、俺たちのクラスの出し物は『男女混合メイド喫茶』となった。
出し物が決まった後の休み時間に実行委員が全員分のくじを作ってくれたらしく、担任が実行委員お手製のくじを入れた紙袋を持って教卓に立った。
「んじゃあ適当に並んでくじ引いてけー」
うちのクラスはこういう時にだけ行動が早いので、あっという間に綺麗な列が形成された。
「えっ私執事だった、意外に着てみたいかも」
「俺メイドなんだけど!?!!」
歓声や悲鳴が響く中、俺と宇野は同時にくじを引いた。
「せーの」
宇野の声に合わせて二人で紙を広げると、宇野の紙には「執事」、俺の紙には「メイド」と書かれていた。
「……終わった、黒歴史確定。」
頭を抱えて天井を仰ぐ俺と対照に、俺たち2人のくじをみたクラスメイトはドッと盛り上がった。
「優光メイドだってよ!!笑笑笑」
「こいつに関しては女子より可愛くなるだろ」
「えやった宇野くんの執事!!!!!」
「やばい念願….佐々木さんまじナイス…。」
「来橋くん私にメイクさせて!!!!てかウィッグも買おうよどうせなら!!!」
勢い良く迫ってくる女子達に若干気圧されながら俺は両手をあげて頷いた。
「もうなんでも好きなようにしていいよ」
そう一言言うと、女子たちは爆発的にテンションを上げて俺のぱーそなるからー?とやらを調べ始めた。
「…….メイド服って、足出る?」
宇野がそう聞くと、佐々木さんが顔を赤くして答えた。
「え?!え、う、うん。膝下だと引っかかって転んだらいけないし…..す、スカート丈は膝上かな…」
「……そう」
佐々木さんの返答を聞いた宇野は不機嫌そうに眉をひそめて俺の腕を引いた。
「……ほんとに着るの?」
表情を見てだいたい察した俺は、宥めるようにして宇野の背中をポンと軽く叩いた。
「まぁー….着たくはないけどみんな張り切ってるし」
「当日絶対俺から離れないで、あと衣装届いたら一番に俺に見せて」
圧のあるイケメンほど威力のあるものはなく、俺は考えるより先にOKサインを出していた。
「いやてか、俺も心配….なんですケド。」
「?何が…?」
こいつ。俺には散々言うくせに自分のこととなると惚けやがって。
「宇野クンの執事なんて絶対かっけえしモテるじゃんか」
負けじとそう言うと、宇野はさっきまでの表情とは打って変わって優しい笑顔を浮かべた。
「来橋もそういうの思ってくれるんだ….嬉しい…。でも俺去年も無口っていう設定で一言も来客と話さず済んだから….大丈夫だよ。」
「….イケメンってそういうのもできんのな」
大きな安心感を抱きながら肘で小突くと、宇野はまたふにゃっと柔らかく微笑んだ。
すると先程話しかけてきた女子がまたこちらへ近づいてきて、俺の手を握って言った。
「ねえ大体のコンセプト決めたいからさ、今ちょっとだけメイクさせてくれない?!」
「「 え 」」
突然の提案に唖然としていると、他の女子たちもこちらへ寄ってきて懇願するように手を合わせてきた。
「えぇー……それちゃんと落ちる?」
「もち!!メイク落とすまでちゃんと私達が責任もってするし!!宇野くんもほら!見てみたくない?!」
俺たちの関係こそバレていないものの、宇野が俺に対して過保護だというのはクラス中が知っているらしく、この子はそれを逆手にとって狙いを宇野定めた。
「え…………うーーん…」
「美術室借りてするからさ!!どうかな?!」
俺が女子と接触するという代償に相当な葛藤を抱いたようだが、結局は宇野も女子に賛同した。
「お手柔らかにー…..」
俺も根負けしてそう言うと、早速部屋移動をさせられ椅子に座らせられた。
「え、来橋くんこれすっぴん?」
「ん?うん。」
「いやもう自信なくすわ。肌綺麗すぎでしょ…。でも一応下地塗るから目瞑ってね!!」
「それは普通に女子の方が綺麗でしょ」
言われた通り目を瞑り、ひんやりとした日焼け止めのようなものを塗られながら笑ってそう答えた。
「来橋くんお姉ちゃんか妹さんいるでしょ」
「….え、すご。妹がいる。」
「やっぱりね!!今の発言とかそうじゃなきゃでないもん」
名推理と言わんばかりのドヤ顔に思わず吹き出す。
「あ、動かないでよー。いやまつ毛長。」
あまりに楽しそうにメイクをしてくれるので、引き受けてよかったなと思いながら大人しくしていると、20分ほどで完成の合図が出た。
「……いややば。可愛くしすぎた。この顔で男子の前行かない方がいいかも。」
「え?」
「来橋、終わっ…..」
ジャストタイミングでこちらへ向かってきた宇野が俺の顔を見て動きを止めた。
「….あちゃー。あ、来橋くん落としたいとき言ってね」
そう言ってそそくさと退散する女子。
「え、宇野?ごめんそんな似合ってない?俺全然見てなくて」
別にどんな滑稽な姿になっても良いのだがあまりにも宇野が動かないので、人が思考を止めてしまう程の化け物に仕立てられたのかと思い始めた。
おーい、と宇野の前で大きく手を振っていると、数秒後大きな体に全身を包まれた。
「……..聞いてない。」
「何を?」
「こんな可愛いなんて聞いてない。元から意味わかんないくらい可愛いのに…….絶対他の奴に見せられない。」
たまたまここが美術室だからよかったものの、教室だったら全員に熱い抱擁を見られてしまっていた。
「ちょ、宇野….?」
抱きしめられながら背中を叩くと、宇野は熱を帯びた顔で少し俺を見つめたあと、すぐにスマホを取りだしてカシャカシャと連写し始めた。
「おい流石に恥ずいって!!!」
「あと200枚撮ったら落としてもらうから大丈夫….誰かに見られる前に」
「何が大丈夫なん…?」
全く成り立たない会話に辟易としながら俺は抵抗を辞め、カメラに向かって変顔し始めた。
「可愛い…..」
「笑ってくれよ頼むから」
そんなやり取りをしている間に宇野は恐らく300枚くらいを撮り終えて、やっと俺はメイクを落とせた。
本格的な文化祭準備は明日からなので、教室に戻ったときにはもう大半の生徒が帰宅していた。
帰り道、宇野は浮かれた様子で微笑みながら俺を撫でた。
「やっぱりメイクしてなくてもずっと可愛い」
「…..変わった趣味ですこと」
照れ隠でそう言うと、全てお見通しなのか宇野は俺の手を優しく握った。
「….ていうか、お前の衣装が届いたときも俺が1番に見たいから」
「当たり前。来橋にしか見て欲しくないよ。」
そんなやり取りを交わして、我ながら随分染まったなと思いながら喜びを隠さずに宇野の手を握り返した。