テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
『偽りの無能、真の覚醒〜転生皇女はすべてを奪い返す〜』
戦いのご褒美お茶会から数日後。
私は今、アルベルトお兄様と専属侍女のリンと共に、帝都の第一街区にある最高級ブティック『白銀の仕立て屋(マゾン・アルジャン)』を訪れていた。
世界を救った最強皇女への「戦いのご褒美」として、お兄様が直々に私の新しいドレスを仕立ててくれるというのだ。
「ローゼマリー、こちらのエリアのドレスは、今期に帝都の最高峰の職人たちが魂を削って織り上げた新作ばかりだよ。さあ、どれでも好きなものを試着しておくれ。君が着ることで、これらの布切れにも初めて『芸術』としての価値が生まれるんだからね」
お店に足を踏み入れた瞬間から、アルベルトお兄様は完璧な公爵の微笑みを浮かべつつ、相変わらず極度に行き過ぎた過保護発言を連発していた。お兄様にとって、世間の職人たちが何ヶ月もかけて作った至高のドレスすら、私の前ではただの「布切れ」扱いらしい。
「ふふ、お兄様。お言葉は嬉しいですけれど、お店の方々が困惑していらっしゃいますわ」
私がクスクスと微笑むと、出迎えてくれた店主やデザイナーの女性たちは、憧れのアルベルト公爵閣下のあまりの溺愛っぷりに、頬を赤らめながらも深く恐縮して一礼していた。
「ローゼマリー様、アルベルト様のおっしゃる通りですわ。まずは、こちらの夜の星空を溶かしたようなサファイアブルーのドレスなどいかがでしょうか? ローゼマリー様の美しい黒髪に、信じられないほど映えると思いますの」
リンが私の斜め後ろからスッと、上品で落ち着いたトーンの美しいドレスを差し出してくる。
「ええ、とても素敵ね、リン。では、まずはこれを試着してみるわ」
私は二人の期待に満ちた視線を浴びながら、フィッティングルームへと足を踏み入れた。
◇
数分後。
カーテンを開けて、サファイアブルーのドレスに身を包んだ私が外へと一歩踏み出す。
タイトなシルエットの胸元には繊細な白銀の刺繍が施され、歩くたびに夜空の星のようにキラキラと上品に輝く最高の一着だ。
「お待たせいたしました、お兄様、リン。……いかがかしら?」
私が少し照れくさそうに首を傾げると、フィッティングルームの外で待っていた二人の動きが、文字通り完全にフリーズした。
「ろ、ローゼマリー……っ!」
アルベルトお兄様は、あまりの美しさに息を呑み、その整った美貌を驚愕と、それ以上の深い感動で染めて私の両手を握り締めた。
「完璧だ……! なんて神聖で、高貴で、可憐なんだ……! 夜の女神すらも君の前に跪(ひざまず)いて涙を流すレベルだよ! このドレスを作った職人に、今すぐ国家最高位の勲章を授与しなければならないね!」
お兄様のテンションが、かつて魔王の迷宮の壁を力技でブチ抜いていた時と同じくらいの領域まで跳ね上がっている。
「ローゼマリー様、本当に、言葉を失うほどにお美しいですわ。私、今すぐこの姿のローゼマリー様の肖像画を、お抱えの絵師に100枚ほど描かせますね」
リンもいつものおっとりした笑顔を消し、伝説の暗殺者としての本気の眼光で私のドレス姿を網膜に焼き付けていた。二人とも、私のことになると本当にブレーキが壊れる。
「ふふ、ありがとう。……じゃあ、次は店主さんが勧めてくれた、この淡いピンクのフリルのドレスを着てみるわね」
私がクスクスと笑いながらカーテンを閉じ、次々と試着を繰り返していく。
清純な白のシフォンドレス、気高き深紅のイブニングドレス、そしてリンが選んでくれた、少し背中が開いた大人っぽい漆黒のドレス――。
私が着替えて出てくるたびに、お兄様は「素晴らしい!」「至高だ!」「世界の宝だ!」と大絶賛し、リンは「お見事ですわ」「最高に目の保養になりますわ」とパチパチ小さな拍手を送り続けた。
◇
そして、合計十着ほどの試着を終えた時のこと。
「ふぅ……、どれも本当に素敵で、どれにしようか迷ってしまいますわね、お兄様」
私がいつもの深紅のドレスに戻り、楽しそうに微笑みながら尋ねると、アルベルトお兄様は実に見事な、そして不敵な笑みを浮かべて、懐から最高級の『魔導公爵クレカ』を取り出した。
「迷う必要なんてどこにもないよ、ローゼマリー」
「え……?」
「店主。今、我が妹が試着したドレスを、すべて包んでおくれ。……いや、待てよ。これからローゼマリーが『着たくなるかもしれない』ドレスが、まだこの店の中に眠っている可能性があるね」
お兄様は銀髪をさらりと揺らし、真面目な顔で店主を見つめて告げた。
「このブティックにある、全てのドレス、すべての既製品、そして今期調達した最高級の反物(生地)を……丸ごと、この店ごと買い占めよう。今すぐ総額を計算してくれたまえ。一括で支払うよ」
「「えええええええええっっっ!?!?!?」」
店主とデザイナーたちが、あまりの桁違いの暴走シスコン発言に、驚愕のあまり文字通りひっくり返って絶叫した。お店が丸ごと公爵家のクローゼットになろうとしているのだ。
「お、お兄様!? お店を丸ごと買い占めるなんて、いくらなんでもやりすぎですわ!」
私が大慌てでお兄様の腕を引っ張ると、お兄様は「我が妹に似合わない服など、この世に存在しないんだから当然だよ?」と、どこまでも爽やかな笑顔で私の頭を優しく撫でた。
「アルベルト様、そのお掃除(買い占め)の提案、素晴らしいですわ。皇宮のローゼマリー様専用の衣装部屋のスペースを、今すぐ私の影魔術で十倍に拡張しておきますね」
「リンまでお兄様に便乗しないでちょうだい!?」
おっとりとした笑顔でさらに暴走を加速させるリンに、私は思わず盛大なツッコミを入れてしまった。
魔王や魔女との戦いのときよりも、ある意味で激しい二人の熱量に呆れつつも、私は心の底から可笑しくて、最高に幸せな笑い声を響かせるのだった。
世界を救った最強の3人による、平和で、どこかシュールで、愛に満ち溢れた帝都のドレスデート。
私たちは誰にも邪魔されない、最高の幸福を噛み締めながら、
これからの終わらないハッピーエンドに向けて、
賑やかに歩んでいくのだった。
ねむ
74
#転生
コシ
103
耀聖(ようせい)
1,401
287
コメント
1件
お兄様とリンの「妹を甘やかしたい」熱量が暴走しすぎてて笑いました(笑)。店ごと買い占めようとするお兄様に、影魔術で衣装部屋を拡張しようとするリン。世界を救った強者たちの日常が平和すぎて、読んでてすごくほっこりしました。ローゼマリーのツッコミも冴えてますね!