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#転生
コシ
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耀聖(ようせい)
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『偽りの無能、真の覚醒〜転生皇女はすべてを奪い返す〜』
最高級ブティックを店ごと丸ごと買い占めるという、お兄様の凄まじいシスコン大暴走から数日後。
私たちは今、いつもの豪華な皇宮の馬車ではなく、帝都の市営乗合馬車に揺られて、普段は滅多に足を運ぶことのない第三街区――活気あふれる『下町(下層商業区)』へと向かっていた。
「たまにはこうして、正体を隠して3人で街を歩くのも、新鮮でとても素敵な休日ですわね」
私はいつもの華美なドレスではなく、先日のデートで仕立てた、動きやすくて可愛らしい淡いコットンの町娘風のワンピースに身を包んでいた。髪もリンの手によって、お茶目なサイドポニーテールに結い上げられている。
「うん、本当に素晴らしいよ、ローゼマリー。その素朴な装いも、君の持つ高貴な美しさを全く隠せていないけれどね。……というか、むしろ周囲の男たちがさっきから君をチラチラと不届きな視線で見ている。今すぐ僕の幻惑魔法で、彼らの視界を一生強制遮断してあげようか?」
私の隣に座るアルベルトお兄様は、上質な仕立てではあるものの、一般的な高級平民が着るようなシンプルなシャツと乗馬ズボンを纏っていた。けれど、その隠しきれない異次元の美貌のせいで、町娘たちからの視線を一身に集めていることに本人は全く気づいていない。
「お兄様、お忍びなのですから物騒な魔法は禁止ですわよ。……リン、そちらの調子はいかが?」
「ええ、ローゼマリー様。お兄様がいつ周囲の羽虫を氷漬けにしても良いよう、私の『影の隠蔽結界』で周囲十メートルの因果を常に操作しておりますわ。いつでも安心してお忍びをお楽しみください」
おっとりとした笑顔で、とんでもなく高度な隠密工作を平然と維持している侍女のリン。彼女もまた、今日は可愛いエプロンを外したシックな町娘風の装いだ。
最強の3人が正体を隠して下町へ降り立つ――。それは、世界を救った英雄たちの、最高に贅沢でちょっぴりズレた『お忍びデート』の始まりだった。
◇
馬車を降りると、そこは平民たちの熱気と、あちこちの屋台から漂ってくる香ばしい匂いで満ち溢れていた。
果物を売る威勢の良い声、香辛料で炒めた肉の匂い、そして楽しそうに行き交う人々の笑顔。前世のバロア王国では、悪役令嬢として常に格式高い夜会や義務的な公務に縛られていた私にとって、この泥臭くも温かい下町の空気は、新鮮でどこか愛おしかった。
「ローゼマリー様、あちらの屋台で売られている『串焼き肉の特製タレ絡め』が、この街区で一番人気のB級グルメだそうですわ。何でも、家畜の端肉(はにく)を秘伝のスパイスで焼き上げたものだとか」
リンがスッと、香ばしい煙を立てている屋台を指差した。
「端肉……? 普段、皇宮の宮廷料理では絶対に使われない部位ですわね。面白いわ、ぜひ頂いてみましょう!」
私が目を輝かせると、お兄様は大急ぎで平民用の財布から銅貨を取り出し、手際よく3人分の串焼きを購入してくれた。
「さあ、ローゼマリー。僕が毒見を……いや、職人が目の前で焼いていたから大丈夫だね。はい、お忍びのご褒美だよ。あーん」
お兄様は、下町の雑踏の真ん中であるにもかかわらず、全く躊躇することなく、私の口元へと焼き立ての串肉を差し出してきた。
「も、もう……お兄様、ここでは目立ちますから、自分で食べますわ!」
私は少し顔を赤らめながらも、お兄様の手から串を受け取り、上品に一口齧(かじ)りついた。
「――っ! お、美味しいですわ……っ!」
口の中に広がる、ジューシーな肉汁と、ピリッと辛くて甘酸っぱい濃厚なタレの旨味。宮廷料理のような繊細さはないけれど、ガツンと脳を揺さぶるような、力強くて最高にクセになる美味しさだった。
「本当ですわね、ローゼマリー様! この、洗練されていないからこそ美味というジャンクな味わい……。皇宮のシェフたちにも、一度このお掃除(研究)をさせたいくらいですわ」
リンもおっとりとした笑顔で串を頬張り、その美味しさに目を細めている。
「君がそれほど喜んでくれるなら、この屋台ごと丸ごと買い占めて、皇宮の庭園に移設させようか?」
「お兄様、今日はお忍びなんですってば!」
大真面目な顔でまたしても買い占めを提案するお兄様に、私はすかさずツッコミを入れ、3人で顔を見合わせてドッと笑い声をあげた。
◇
その後も、私たちの賑やかな下町デートは続いた。
平民の子供たちが遊ぶ広場の片隅で、冷たいレモネードを飲みながらお喋りをしたり、
安価だけれどカラフルで可愛いガラス細工のアクセサリーショップへ立ち寄ったり。
お兄様は、私が少しでも興味を示したガラスの髪飾りを「全部買い占め――」と言いかけては、私に「めっ」と窘(たしな)められ、嬉しそうに頬を緩めていた。
リンはリンで、私のポニーテールに似合うリボンを真剣に選んでくれ、その場でおっとりと結び直してくれた。
魔王も、魔女も、カイルたちの未練も、もうここには存在しない。
ただただ、大好きな二人と並んで歩き、美味しいものを食べて、笑い合う。そんな当たり前の『平和』が、今の私にとって、何よりも愛おしくて、何よりも守りたかった本物の幸福だった。
「ローゼマリー。世界を救って、本当に良かったよ。君がこうして、下町の小さな光の中でも、世界で一番幸せそうに笑っていられる日々を、僕は一生をかけて守り続けるからね」
夕暮れ時、オレンジ色に染まる下町の帰り道。アルベルトお兄様が私の手をそっと優しく握り締め、深く語りかけてきた。
「ええ……。お兄様とリンがいれば、私はどこにいたって世界一幸せですわ」
私は二人の温かい手を引き寄せ、夕日に照らされながら、
心からのハッピーエンドに満ちた、
最高に幸せな微笑みを浮かべるのだった。
コメント
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読了しました🌙 今回の第37話、心がじんわり温かくなりました…!いつもは戦いや陰謀が渦巻く物語ですが、こういう「ただ幸せな日常」を3人で過ごす姿が本当に愛おしい。下町の串焼きを「あーん」しようとするお兄様、いつでも影の結界を張るリン、そしてそれを微笑ましく受け止めるローゼマリー…3人の関係性がぎゅっと詰まってて、読んでて自然と頬が緩みました🤍 「世界を救って良かった」ってお兄様が言うシーン、胸に刺さりました…。この平和こそが彼らの戦ってきた意味なんだなって。次も楽しみにしてますね!