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ジェラードは私との話を終えたあと、ルークと二人で何かを話していた。

そのあとは私とエミリアさんと合流して、四人で少しだけ話をしてから――


「……それじゃ今日は遅いし、僕はもう帰るね。

僕が留守の間はルーク君、二人をよろしく♪」


「はい、分かりました」


ジェラードのお願いを、すんなりと引き受けるルーク。

お願いをしなくてもやってくれそうだけど、そこはそれ。きっと男の約束というやつなのだろう。


「ジェラードさんも気を付けてくださいね。

あ、そうそう。餞別に高級ポーションをどうぞ」


そう言いながら、瓶を5本ほど押し付ける。


「ありがとう、遠慮なくもらうよ。

このお返しは、戻ってきてからまた働いて返すね♪」


「待ってますね!」


「ジェラードさん、あまり無理はしないでくださいよ!」


「うん。エミリアちゃんも、アイナちゃんのことをよろしくね。

……それじゃ♪」


ジェラードは最後に笑顔を見せると、お屋敷から去っていった。



「――はぁ。ジェラードさんがいない間は少し心細いですが、しっかり頑張りましょう。

ルークも戻ってきてくれたし、大丈夫だとは思いますけど!」


「わたしも頑張ります!

……何を頑張れば良いかはちょっと分かりませんが、頑張ります!」


「基本的には、いつも通りで良いと思いますよ」


「それでは平穏な日々が続くように、とりあえず毎日お祈りをしておきますね」


「おぉ、さすが司祭様。よろしくお願いします!」


「お任せください!」


エミリアさんは自信満々に言い切った。これできっと、平穏な日々が訪れてくれることだろう。

さて、時間も遅いし、そろそろ――


「アイナ様、このあと少しよろしいですか?」


「え? どうしたの?」


「一応、お耳に入れておきたいことがありまして」


「了解、それなら客室で話そうか」


「アイナさん、わたしは部屋に戻ってますね。何かありましたらお呼びください」


「はーい」


エミリアさんはルークの空気を察したのか、そのまま部屋に戻っていった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――はい、どうぞ」


「ありがとうございます」


客室のソファに座って、二人分のお茶を入れる。

片方をルークに渡して、ゆったりとした雰囲気の中で話を進めることにした。


「それで、何のお話かな? ジェラードさんと何かあったの?」


「はい、ジェラードさんから少し話を伺いまして。

……私の故郷、クレントスの話なんですが」


――辺境都市クレントス。

私が転生してきた場所の、すぐ近くにあった街。そして、ルークが生まれ育った街だ。

この王都からは3週間ほどの距離があり、なかなか遠い場所、ということになる。


……思えば遠くに来たものだ。


「クレントスの話? ジェラードさんは『時事』って言ってたけど、何だろ」


「情報を得たので共有しておきたかった、ということでした。

特に何がどうというか……どうすることも出来ないというか、そんな話ではあるのですが」


「ふぅん……? それで、何があったの?」


「何でもクレントスに、王政に対する反乱分子が集まっているそうなんです。

まだ具体的な行動は起こしていないらしいのですが、それに対抗すべく、王国も動き始めているのだとか」


「反乱分子……?

平和そうな国に見えて、やっぱりそういうのもあるんだ――」


……と言い掛けて、そういえばと思い出す。

この国の王様って、他国への侵略を考えているんだよね。


「そして、そのリーダーは……アイーシャ・ルクス・アドリエンヌ、という方です」


「へー、女性なんだ――

……って、アイーシャ? ……え? もしかして、あのアイーシャさん……?」


「はい。信じられませんが、そのようで……」


アイーシャさんとは、クレントスで私が脚を治してあげたお婆さんだ。

そしてそのお礼に、私に立派な杖をくれた人。



『これはね、私の支援者に取り寄せてもらったの。脚を治してもらってからね、私にもやりたいことが出来たのよ』


『私も結構な野心家なのよ? 毒を食らわば皿まで。そうそう、アイナさん、ヴィクトリア様にちょっかいを出されていたんでしょう?』


『私の恩人にちょっかいを出すなんて、誰であろうと許しませんからね。うふふ、アイナさんがこの街に戻って来たとき、どうなっているかしらね……?』



――記憶を辿れば、アイーシャさんは別れ際に物騒なことを言っていた。

まさか、そんなに大それたことをするなんて……?


ルークの顔を見てみれば、自分で言っておいて信じられない……そんな表情をしていた。

私は物騒な台詞を本人から聞いてはいたけど、ルークとしては、アイーシャさんがそんなことを言うイメージは無いだろう。


「うーん……。

アイーシャさんは没落貴族の方で、ルイサさん曰く、『悪い連中』が接触を持とうとしていた……みたいなんだよね」


『悪い連中』……というのは、今の流れでは『王政への反乱分子』……ということになるだろう。

確かに平和な世界において、それを壊す者がいるとしたら……『悪い』と言われても仕方が無い。


「……そうだったんですか。

私はルイサおば……ルイサさんからは何も聞いていませんでしたから、まったく知りませんでした」


「ルイサさんにとっては、ルークはいつまで経っても、子供みたいなものだからね……」


「そうですね……。

それでジェラードさんが言うには、ここまでが1か月前に伝えてくれようとした情報、だそうです」


「うん? そうすると、続きがあるの?」


「はい。最新の情報によれば、クレントスの周りの都市から派兵が始まったそうです。

ミラエルツやメルタテオス……それ以外にも多くの都市が、王都とクレントスの間にはありますので」


「えぇ……? それって大丈夫なの……?」


「どうでしょう……。

私は過去のアイーシャおば……アイーシャさんは知りませんので、どれくらいのことが出来るのかはまったく……」


「ふーむ……。ちなみに一番兵力があるのって、やっぱり王都なんだよね?」


「そうですね。王都からも少人数ではあるそうですが、派兵されたようです」


「……めちゃくちゃ心配になってきた。

でもこんなところから、クレントスまで派兵するんだね。さすがに遠すぎない?」


片道3週間。

そんな場所から派兵するのは、やっぱりコストが掛かり過ぎる気がするんだけど――


「王都からは、主に物資補給が目的だそうです。

やはり王都は流通が最も盛んなので、他の場所では調達しづらいものを大量に送り込めるのだとか」


「へぇ……?」


「戦いが激化すれば、消耗品もたくさん必要になりますからね。

怪我をすれば薬も必要になりますし、戦いを効率的に進めるには爆弾なども使用されますし――」


……え。


「爆弾――」


「はい。全員が全員、魔法を使えるわけではありません。

やはりそういう道具があるのと無いのとでは大違いです。……どうかされましたか?」


「え? う、ううん、何でも無いよ!?」


……なんて、そんなことは無い。

先日、王国軍の第二装備調達局から受けた依頼の……爆弾。


ルークの話から察するに、あの依頼で納品した爆弾も、クレントスでの戦いに使われるかもしれない。

そういえばジェラードも、調達局の動きを追っている中で、私のところに来たことがあったし――


「……そうですか? アイナ様、顔色が悪いようですが……」


「そんなこと――

……いや、違う。ごめん、王国軍からの依頼で、爆弾を作って納品しちゃったんだ……」


そのことを隠すには何か後ろめたく、ひとまず正直に話すことにした。


「なるほど。……しかしアイナ様が作らなくても、他に作る方はいたでしょう。

アイナ様が王都に来る前でも、そういう道具は普通に流通していたのですから」


「……威力は普通のものより高いけど、大丈夫かな……」


「そ、そこは……まぁ……」


私の問いに、ルークは何とも答えづらいように言葉を詰まらせた。



「――……私、クレントスに戻った方が良いかな……?」


しばらく沈黙が続いたあと、私は何となくそんなことを言ってみた。


「アイナ様が、何故?」


「いや、爆弾を作ったのもそうなんだけど、アイーシャさんの脚を治したのも私だし――」


……しかし戻ったところで、何がどうなるということも無い。


「ご心配されるのは分かりますが、この件はアイナ様とは関係の無いことだと思います。

ジェラードさんが私にこの話をしたのも、そもそもはクレントスが私の故郷だからです。

ですので、あまり気に病まないでください」


「うん……。ごめんね」


「いえ。

……実は私も、こう見えて結構動揺しているんですよ」


「そうなの? あんまり、そうは見えないけど……」


「ははは。それも例の修行のおかげでしょう。

精神を安定させるのは、特に力を入れましたからね」


「はぁ、凄いね……。私もその修行、受けてみたいかも……」


「滝から飛び降りたりしますが、大丈夫ですか?」


「……うそ。前言撤回」


「ははは、それが賢明です」


「そう? そうだよね、あはは……♪」



最後は強引に笑い話に持っていって、今日はそこで話を終わることにした。


私の作ったものが、仲間の故郷で、知り合いを倒すために使われる。

そう考えるだけで、何とも心が強く締め付けられてしまった。


――いや。

正直、本当にしんどいかも……。

異世界冒険録~神器のアルケミスト~

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