テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

朝。太陽は出ていたが、光にあたっても何もあたたかくなかった。


遥は昨夜の暴力のあと、ソファの上で眠るふりをしたまま、動けなかった。

身体の節々が痛む。呼吸ひとつに、ひっかかりがある。


キッチンの奥で、冷蔵庫が唸るような音を立てている。

誰も起きてこなければ、それでよかった。

でも──それはいつも叶わない。


「……まだ寝てんの?」


ゆるく扉が開き、足音がした。


玲央菜だった。


髪は乱れておらず、制服も完璧だった。

まるで「朝」が彼女に味方しているようだった。


遥が身じろぎもせずにいると、玲央菜はスリッパを履いたままソファに歩み寄った。


「颯馬さ、またやってたでしょ」


投げるような声。


「“昨夜のごはん、どうだった?”って訊いたら、笑ってんの。“ちょっと潰した”とか言ってさ」


玲央菜は遥の前にしゃがみこみ、顔を覗き込んだ。

その表情には、怒りも心配もない。ただ──退屈そうな興味があった。


「ねぇ、飽きないの? そういうの」


誰に言っているのか、はっきりしなかった。


でも、次の言葉でそれがわかる。


「……ま、あんたが“壊れない”から、でしょ」


笑っていた。

けれどそれは、微笑みではなかった。


「“泣かない”ってさ、正直ずっとムカついてたの。子どものときから」


ぽつり、ぽつりと落とすような言葉。


「こっちがどんだけ本気で叩いても、怒鳴っても、黙って、ただ目ぇ見開いて、さ。──馬鹿みたいだった。私のほうが」


遥は、視線を合わせなかった。

でも、玲央菜は構わず続ける。


「けどさ、最近ようやく“ひび割れてる”の見えてきた」


そこで、玲央菜は口角をゆるく吊り上げる。


「……楽しいよ、今のあんた」


喉が焼けた。


何も言えなかった。

なぜなら──彼女の言葉が、図星だったから。


「“何もされないのが不安”なんでしょ?」


玲央菜が囁いた。


「──ねぇ、バカじゃないの?」


その声はあまりにもやさしくて、あまりにも冷たかった。


「でも、いいよ。そういう“中途半端に壊れたやつ”が、一番おもしろい」


玲央菜は立ち上がる。

そして、遥の髪をくしゃ、と軽く撫でて言った。


「……壊すの、私の役目だから。忘れないでね」


まるで恋人に向けるような、甘く抑えた声だった。


足音が遠ざかっていく。

扉が閉まる。

その音だけが、やけに現実だった。


遥は──吐きそうだった。


(なんで──俺は……)


涙は出なかった。

出ないことが、地獄だった。



この作品はいかがでしたか?

16

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚