千紘はにまにまとニヤけ顔がとまらない。数週間前にはこんなふうにはしゃぐ凪の姿など知らなかった。
子供のように喜んではしゃぐ凪なんて、きっと俺しか知らない。そう思ったら特別感たっぷりで自分は彼氏なのだと実感した。
少しずつでも知らない凪を知りたいと思った。クールで冷静な凪もカッコよくて好きだけど、甘えん坊で弾ける笑顔を見せる凪も可愛くて好きだ。
究極のツンデレとは凪のことを指すのではないかと千紘はだらしなく下がった目尻をそのままに思った。
可愛いなぁ……凪可愛いなぁ……。ちょっと高い宿だったけど、奮発してよかった。浴衣姿の凪なんて絶対色っぽいし、最高だろうなぁ。
3日間、朝から晩まで凪と一緒なんて最高のご褒美だ。写真いっぱい撮ろう。後から見直してオカズに、じゃなくて思い出に……
「おい、話聞いてたか?」
「へ? え?」
千紘の心の声を遮るように、凪が割って入ってくる。口角が上がりきっている千紘を見て、凪が顔をしかめた。
「ニヤけてんじゃねぇよ」
「ににににににニヤけてなんかっ!」
「お前、また変なこと考えてただろ」
「変なことなんて考えてないよ。俺はいつだって真剣に凪のことを」
「どうせお前のことだから、俺の写真でも撮るつもりでいたんだろ」
グッと眉間に皺を寄せて凪が詰め寄る。凪は決して写真を使って脅されたことを忘れたりはしない。
「しゃ、写真くらいいいじゃん! 一緒に撮ろうよ!」
「お前が考えてんの、一緒にとかじゃないだろ。ヤッてるところ撮り出したらスマホぶっ壊すからな」
「なぁぎぃー」
可愛い凪が一変して、鬼の形相で千紘の両頬をグイグイつねった。やはり2人には甘い雰囲気よりも、適度なじゃれ合いのほうがしっくりくるようだった。
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