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秋が深まる頃、屋敷の庭は紅葉で色づいていた。
朝の空気は冷たく、吐く息が白くなる。
少し早く起きてしまって、何をしようかと台所で悩んでいる時にふと目に入る。
書院の灯りはもうすでに灯っていた。
普段から、いつものように目黒は夜明け前には離れを出て書院へ向かう。
当主としての仕事は尽きない。
帳簿の確認、商家とのやり取り、領地の観察。
日が暮れる頃には、疲れが肩に積もっている。
「旦那様。」
廊下に佇みながら庭を見つめる目黒に話しかける。
「お茶、淹れました。
一緒に飲みませんか?」
mg「…あぁ、ありがとう」
最近は、この一言が自然と口に出るようになっていた。
それが嬉しく感じて、思わず小さく笑ってしまう。
静かに隣に座って、庭を眺める。
目黒は何も言わなかった。
でも、その距離感が妙に居心地が良かった。
数日後
朝から屋敷は慌ただしかった。
何故かって、今日は本家の親族が集まる宴の日だ。
「若様、本日は皆様がお泊まりになります。」
使用人の言葉に目黒は分かった、と短く頷いた。
親族が集まれば、決まって飛び交うのは後継ぎや家の話。
政略結婚であることを知る者は少なくない。
だからこそ、二人は”仲睦まじい夫婦”を演じなければならなかった。
宴が始まると、案の定だった。
「若様もようやく身を固められましたな。」
「奥様は屋敷に慣れましたか?」
最初は穏やかに受け答えする。
そんな中、一人の年配の親族の方が笑いながら言った。
「若様は昔から人付き合いが苦手でねぇ。奥様も苦労しておられるでしょう。」
場がどっと笑いに包まれる。
私も笑おうとした。
でも、その時だった。
mg「苦労はさせています。」
隣に座っていた目黒が静かに口を開く。
「ですが、阿部は家のことをよく支えてくれています。
ですから、とても感謝しています。」
その言葉に広間が静まり返る。
なぜなら、目黒が自分から家族を褒めることなどほとんどないからだ。
その言葉を聞いて、驚いて振り向く。
目黒は盃を持ち、それ以上は何も語らなかった。
宴が終わった頃には、すっかり夜も更けていた。
「お疲れ様でした。」
部屋へ戻る途中、隣で歩く目黒に声を掛ける。
目黒は小さくあぁ、とだけ言う。
「それと…今日は助けてくださって、ありがとうございました。」
mg「助けた?」
目黒はなぜ?という顔をして見つめる。
「皆さんの前で、あんなふうに言ってくださったから」
目黒は少し、考えるように黙った後口を開く。
mg「……本当のことだ。」
「でも。」
mg「嘘は言ってない。」
その言葉を聞いて、嬉しくて、笑みが溢れる。
「それだけで十分です。」
mg「…そうか。」
少し歩いたところで、縁側へ腰を下ろした。
夜風が紅葉を揺らし、一枚の葉が池へ落ちる。
静かな水音。
しばらく誰も話さなかった。
そんな時、目黒がぽつりと口を開いた。
mg「最初は」
「はい?」
mg「この結婚は失敗だと思ってた。」
淡々と発するその言葉を聞いて、なぜか胸が少し痛む。
政略結婚、好きなわけない。
私も好きなわけじゃない、それなのに、なぜ、傷んだのだろうか。
自分の思いに不思議に思いつつも、それでも、目黒の言葉の続きを待った。
mg「お互い、不幸になるだけだろうと。」
「… 」
mg「でも、お前は毎日笑う。
どんなに俺の返事が素っ気なかったとしても。」
突然の言葉に少し驚いて目黒を見つめる。
目黒は庭を見つめながら淡々と続ける。
mg「絶対、毎日おかえりって言う。」
mg「絶対、行ってらっしゃいって言う。」
「….。」
mg「そういう、人なんだなって。」
夜風が二人の間を通り抜ける。
少しだけ俯いて、笑った。
「旦那様」
mg「何」
「私は、旦那様が笑ったところを見てみたいです。」
その言葉に、目黒は少しだけ眉を動かした。
mg「お前は難しいことを言う。」
「時間は掛かってもいいです。」
目黒を見つめながら言う。
「待つのは、得意なので」
目黒は、返事をしなかった。
ただ、ほんの僅かに口元が緩んだように見えたのは、私の気のせいなのだろうか。
いや、気のせいではないだろう。
私は気づかないふりをした。
なぜかって、それはきっとこの人がようやく見せてくれた、小さな小さな変化だったから。
紅葉の葉がもう一枚、静かに庭へ舞い落ちる 冷たい秋の夜。
二人の間に流れる空気だけが、少しだけ柔らかくなっていた。
続__
番外編 mg.side
秋が深まる頃、屋敷の庭は鮮やかな紅葉で色づいていた。
朝の空気は冷たく、吐く息は白く映った。
いつものように書院へ向かう。
当主だからと沢山の仕事が山積みで、尽きることはない。
毎日、日が暮れる頃には肩に疲れが積もっていた。
ab「旦那様」
庭を見つめいると、廊下の向こう側から阿部が歩いてきた。
手には湯気の立つ湯呑み。
ab「お茶、淹れました。
一緒に飲みませんか?」
「…あぁ、ありがとう。 」
最近は、意識をしていなくても、「ありがとう」という一言の言葉が出るようになっていた。
阿部は嬉しそうに微笑むが、それ以上は何も言わない。
無理に話しかけてこない。
静かに隣へ座り、庭を眺めるだけ。
その距離が、俺には心地よかった。
コメント
6件

ありがとうございます🙇♂️

口下手な旦那様🖤 そこに静かに寄り添う💚 語らなくてもお互いが大切凄く伝わります。 🖤側があったのは良かったです。 続き待ってます♪楽しみ😊
すきー!!