夕方の図書館。
木の机の上に、柔らかな光が落ちていた。
翔太が入ってくる。
少し周りを見渡し、窓際の席に座る目黒を見つける。
目黒は本を開いたまま、ペンを走らせていた。
「……またいた」
翔太は小さく呟いて、向かいの席に座る。
机をトン、と軽く叩く。
目黒が顔を上げて微笑む。
翔太はノートを開き、ペンで書く。
『また会ったな』
目黒は頷いて、ペンを受け取り、「期太、また勉強?』
太は眉をひそめて、ペンを走らせる。
『俺、そんな真面目そうに見える?」
目黒は小さく笑う。
声は出さない。でも、笑い声が聞こえる気がした。
「…..なんだよ、その笑い方」
翔太がぼそっと言う。
目黒は、少しだけ視線を落として書く。
『翔太、変わらないね』
翔太のペンが止まる。
少し照れたように頭をかきながら、
「あたり前だろ」と小さく呟く。
静かな時間が流れる。
ページをめくる音だけが、二人の間にあった。
翔太がふと、目黒のノートを覗き込む。
消された文字の跡。”音””声”“聞こえる”。
太は何も言わず、ノートを開き直す。
『今度、手話教えてよ。』
目黒の目が丸くなる。
太は視線をそらして、「…..ほら、紙より早いし」と呟く。
目黒は笑って、手を動かす。
ゆっくりと、指で「ありがとう」。
翔太も真似をする。
少しぎこちないけど、ちゃんと伝わる。
目黒が笑う。翔太もつられて、口元が緩む。
その笑顔の間に、言葉はいらなかった。
静けさの中に、少しだけ温かい音がした気がした。







