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私は以前のマンションから駆け付けくれたふたりと弁護士の丸山氏に
礼を述べた。
「お忙しい中、ありがとうございました。
手ごわい相手なので、ほんとに助かりました」
「こちらこそ、ここで仇を果たせて留飲が下がりました」
「訴訟を起こされるとか?」
「ええ、あんな品性の欠片もないような人とこの先も同じマンションで
暮らすなんて子供たちもいることだし、追い出したいんです」
そうだよね、誰しも考えることは同じよね。
私たちだってすぐに逃げ出したもの。
わざわざ遠方から来てくれた人たちに別れを告げて
私は松尾さんたちとの会話に臨んだ。
「いやぁ~、年の功で親は偉大だと再認識しました。しみじみ……。
私は危うく不良物件を喜んで掴むところでした。
渚ちゃん、ご主人、本当にありがとうございました。
また後日改めてお礼させていただきたいと思います。
今日のところはこの辺で失礼します」
礼を告げて松尾家族もまた、帰って行った。
匠平とふたりきりになった部屋で改めてお互い見つめ合うのだった。
「なんか、やっと終わったっていう感じ」
「うん……そうだな」
「淳子さんがくだらないことを私に言って来なければ、私は松尾さんには
悪いけど何も言うつもりはなかったのにね」
「魔女は墓穴を掘ったってわけだ」
「魔女か……」
「いや、悪魔だな」
「どうしてあんなになっちゃったんだろう。
お金が原因だとしたら、お金って怖いよね」
「そうだな」
私は今回のことを計画するにあたり、言わないで秘密にしておきたかったことを……
そうクラブで働いていることを、匠平さんに打ち明けていた。
今回のことで俺は圭子からホステスしていることを打ち明けられた。
少し前から知っていたが知らない体で聞いた。
********
『圭子、今の仕事……まだ続けるのかい?』
この時、匠平はよほど聞きたかったがグっと堪えた。
彼女が以前のように心も身体も全て自分のことを受け入れられる日が来れば
止めるのかもしれないと考えたからだ。
そんな日が来ればいいのにと、願わずにはいられない匠平だった。