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猫みたいな彼女

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猫みたいな彼女

1 - 猫みたいな彼女

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2024年10月05日

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猫みたいな彼女







桃赤︎︎ ♀




















桃視点









「りうら、元カレに浮気されてからほんとに恋愛がトラウマになってて。

浮気だけは絶対にしないでほしい、したらりうら自殺するから」







ふと、付き合いたての頃に彼女がよく漏らしていた口癖を思い出した。




あのときの俺は、「りうらのことが好きで付き合ってるんだから、浮気なんてするわけがないでしょ」みたいなことを返したはずだ。




それを聞いた彼女の、心からほっとしたような、はにかんだ笑顔が今でも忘れられない。










初めて彼女と出会ったときの第一印象はまさに「猫」だった。



横幅が広くくりっとした赤い目、肩の辺りで綺麗に切り揃えられた髪。



大学のゼミで初めて話しかけたときは警戒されていたのか、会話をうまくかわされているような、いなされているような、そんな感覚すらあった。



野良猫を撫でようと近づいていくけど、うまく一定の距離を取られている感じ。



でも、存在がなんとなく気になっていたから、アプローチは続けた。



ゼミでの集まりのたびに声をかけ続けていると、少しずつ、彼女の反応が変わっていくのを感じた。



見せる表情は明らかに柔らかくなっていて、吐き出す言葉には本音が感じられるようになって、野良猫が懐いてくれたような、ごろごろと喉を鳴らしているような、そんな感覚があったのを今でも覚えている。



気づけば、俺のくだらない雑談LINEに乗っかってくれることも増えて、時間さえあまれば空き教室で顔を合わせるようになった。



「猫カフェ興味あるんだけど、一緒に行かない?」



初めて俺からの誘いに頷いてくれたのが、そのデートだった。



彼女も猫が好きだったからか、予定は案外すんなりと決まった。









当日、猫に夢中になる彼女と、その横顔をここぞとばかりに忍び見る俺。



初めて見るくだけた横顔は印象的で、時計の針はあっという間に進む。



「猫派だったんだ。」



聞くと、ちょっとだけ照れた様子で口元を隠しながら、



「もふもふした生き物は全部好きだけどね。

でもこうやって目の前にすると、猫が1番かも」

と笑う。



「てか、前から思ってたけど、りうらも十分猫っぽいとこあるよ」



「なにそれ、どういう意味。

誰にも言われたことないんだけど」



「顔も猫っぽいし、振る舞いなんて完全に猫だし」



「……なんか恥ずかしいけど、褒め言葉として受け取っとく」



ふと、猫カフェ用のオヤツで釣った猫が膝の上から去っていく。



やっぱり猫は自由気ままだななんて思っていると、彼女がぽつりと漏らした。



「でもりうら、1個だけ自分でも猫っぽいって思うことあるかも」



「なに?」



「……りうら、なかなか他人に懐かないけど、1度懐いたらもう絶対離れない」



直後、真っ直ぐに視線を向けてくる彼女の瞳に、やられた、と思った。



思えば、この猫カフェデートが大きな転機で、どうやら俺に懐いてくれたらしい彼女と順調に逢瀬を重ねて、まるでそうなることが必然だったかのように、俺たちは付き合うことになった。



そんな猫みたいな彼女は、付き合い始めると徐々に心の不安定さを垣間見せた。



「実は元カレに浮気されたことがある」



「それがトラウマで、男の人とは距離を取っていた」



「今もあなたのことを信じきれてはいない、というか男というものが信用出来ない」



「浮気されたら死ぬかもしれない」



特に、お酒を飲んだときに彼女から吐き出される過酷な経験と歪んだ愛情は、想像していたものよりもあまりにも重かった。



俺はその言葉を受け止めて、ときに死を仄めかす彼女を絶対に支えようと心に決めた。



めんどくさいとは思わなかった。



嫌がることは絶対しない。



疑わせるようなことも一切しない。



元カレと俺は違う。



真正面から向き合って、今まで彼女が感じてきた痛みを和らげてあげたい。



それが自分の使命だとすら思えた。



彼女に要らぬ心配をかけるかもしれない、女友達がいるような飲み会には顔を出すのをやめた。



断り続けたせいか、そのうち誘われることはなくなった。



彼女が隣で不安そうな顔をしたら、抱えてるだろう不安を全て聞くようにした。



小さい種のうちに、不安は潰せていたはずだ。



少しでも時間が作れたら、片道1時間電車に揺られ彼女のもとへ会いに行った。



彼女がうちに来ることはあまりなかった。



ちょっとした記念日には、プレゼントを渡した。



「こんなことしてもらったことない」



と、彼女は泣いて喜んでいた。



やりすぎだと思われるかもしれないけど、全ては、彼女の重たい過去を俺との時間に塗りつぶすためだった。



そんな俺の想いが通じたのか、彼女の心の具合は日に日によくなっていった。



「死にたい」なんて物騒な台詞をついには聞かれなくなった。



『今何してるの』なんて、疑いの込められた通知も届かなくなった。



『今日は疲れてるからひとりで寝たい』なんてLINEが届いたりもして、彼女は俺がいない夜を過ごせるようになっているようだった。



本当によかったと思っていた。



よくやく信頼されたんだ、と思った。















「宅急便時間指定してるから、もしピンポンきたら代わりに受け取っといてほしい」



親指をぐっと立てながら彼女は浴室へ向かった。



俺もふたつ返事で了承して、最近入れたばかりのスマホゲームを起動させる。



いわゆる安定期と言うやつなのか。



大学のゼミも履修し終わり、就活に奔走している俺たちは、前ほどの頻度では会えなくなっていた。



今日だってようやく予定が合って1ヶ月ぶりに彼女の家に来られたくらいで、物理的な寂しさはあれど、互いに信用できるようになったんだ、と思うようにしていた。



部屋の隅にあるメイク用のテーブルには付き合って半年記念に渡したピアスが置いてあって、使ってくれてるんだなあと、心が弾んだ。



ふとインターフォンの音に呼ばれて、玄関口まで足を運ぶ。



クロネコヤマトの配達員とお決まりのやり取りとサインをして、荷物を受け取り、お兄さんが離れるのを見送ってから音を立てないように静かにドアを閉める。



リビングに戻ってから、ふう、と一息つくと、インターフォンの画面が点滅し続けていた。



近付いてよく見てみると、【確認していない履歴が12件あります】【再生する】【削除する】の文言が、怪しく光っている。



俺は一瞬迷ってから、【再生する】を押した。



どくどくと嫌なリズムで心臓が動いている。



換気扇の回る音が、やたらうるさい。



インターフォンの映像を前にして、俺は、ぼんやりと立ち尽くしている。



気慣れたはずの彼女の部屋の、インターフォンの、再生履歴に、同じ装いをした男が、何度も何度も、映っていた。



金色のメッシュの入った、襟足の長い男。



憎たらしいほど綺麗な顔をしている。



震える人差し指を気力で押さえつけながら、過去の映像を遡ってみる。



その男は、特定の期間に渡って、何度も、何度も、この家を訪れているみたいだった。



配達員に紛れて、その男は映る。



画面越しに何度も目が合う。



カメラに向かってのんきに手を振っている映像もあって、思わず目を逸らすと、画面の端に男がこの家に訪れた日にちが表示されていた。



彼女が、今日は疲れてるからひとりで寝たい、と言ってきた日だった。



俺はその顔に見覚えがあった。



昔この部屋に飾られていた写真に、仲睦まじそうに写っていた、あいつだ。



忘れられるわけがない。



こいつは、彼女が心底恨んでいるはずの、元カレだった。



暗くなる視界の中で、俺は彼女に信頼されていたわけじゃなかったんだと思った。



彼女の心を一時の間埋めるためだけの存在で、ただのリハビリ相手たっただけだ。



彼女も猫ではなかった、それだけだ。



とっさに荷物を掴んで彼女の家を出る。



1年前、彼女が放っていた心の叫びが無意味に頭の中で繰り返される。



「私、元カレに浮気されてからほんとに恋愛がトラウマになってて。

浮気だけは絶対にしないでほしい、したらりうら自殺するから」



彼女はどんな気持ちであの言葉を吐いて、どんな気持ちで浮気をしたんだろう。



どんな気持ちで、元カレを繰り返し部屋に招いたんだろう。



どんなつもりで愛の言葉を吐いて、はたしてそれはどんな意味を持っていたんだろう。



どこまでが本当の思い出でどこからが偽物の思い出だったんだろう。



君は、君だけは、浮気しない人なんだと思っていた。



吐きそうになりながら、もう二度と来ることのないだろう駅にたどり着く。



彼女が住んでいる意外何の面白みもない駅の改札は、仕事帰りのサラリーマンであふれている。











猫みたいな彼女

𝑒𝑛𝑑



























りうちゃん視点も書く🫶





















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