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Lecter
楽座市を生き延びた下衆の一人が命惜しさにより強い妖術師を雇おうと情報屋を訪ねたのが一端。
訪ねた先がチヒロ達に協力的な店主・ヒナオのハルハルへ護衛依頼をかけたのがそもそもの運の尽き。
男の護衛を引き受ける体で、毘灼がバックについている他組織の内部を探るため潜入する、という目的のもと、男の指定する場所へ出向くことになった。
ハクリはまだ〝蔵〟を酷使したがため療養中だ。
柴さんは別件でタレコミがあったものの真偽が定かでないため「俺がこっちいくわ。おかしいて思ったらすぐ撤退すること!言っても無駄やろうけど」楽座市で撤退を拒否しまくったことを根に持っている。「言っても無駄やろうけど!」大事なことは二度言うらしい。
ヒナオさんはジェスチャーで携帯をワン切りする動きを見せてくれた。考案の天才的システムってやつだ。
指定されたのは老舗のレストランで喧騒に揉まれネオン街から外れた佇まいにあった。
時間は宵闇のころ、家族連れも多く賑わっている。大衆の場を選ぶとはよほど『残党狩り』を警戒してるらしい。
依頼人の名前を告げ、妖刀は帯刀したまま席に通される。
警戒は怠っていなかったはずなのに、背後からの異質な視線に、冷や汗が流れる。
———この感覚は身体が覚えている。
「六平千鉱」
一瞬の反射速度、全身に緊張が走り、淵天の束に手をかけるも背後から柄の先端、頭の部分を背後から抑えられる。振り向くことも許されない。
心臓の音がバクバクと鼓膜に響く。それを男の声は難なくすり抜けてくる。
「傷は癒えたようでなにより」
耳元で唇が触れんばかりに囁かれる声はチヒロをあざ笑うかのように愉悦に満ちて、手の甲にはまぎれもなくあの日、目に焼き付いた炎の紋章。
チヒロよりも一回り大きい骨ばった手は頭から柄へ、ゆっくり形を確かめるようにその先の、きつく柄を握り指先が白くなったチヒロの手の甲へ行きつく。
視界の端で、冷たい指先が関節と皮膚の下を確かめるように撫ぜて離れた。
「抜こうとすれば、…わかるな?」
「…」
眼球のみで周囲を見渡し、顔をしかめ視界が歪む。
緊張が走るフロアの最奥に位置したテーブルだけが異質、窓際に配置されたテーブルで何も知らぬ一般人が、談笑しながら夜景と食事を楽しんでいる。
なすすべなしと、刀身を抜くことなく束から手を離す。他人の命は犠牲にできない。
「あいかわらず頼もしい理性だ」
その隙を逃すまいと、カトラリーが行儀よく並べられたテーブルクロスの下では
妖術で顕現した松の枝が淵天のみならず下半身に絡みつく。
「食事を楽しもう。六平千鉱」
背後に立っていた男が姿を現し、悠々と向かいに座る。ウェイターに目配せし、その男も品定めをするかのようにチヒロを見据えた。
(こいつも妖術師か…)
背筋が冷たい。淵天を封じられ身体がこわばる。
———柴さんに連絡を?けど動けば奴の妖術であたりは血の海になる。いずれにせよ動けない。
逡巡しながらコートのポケットに入った携帯電話をなぞった。
「コートを失礼いたします」
長居しないからと預けることを辞去したコートは恭しくも流れるような所作で、チヒロが腰かけたままウェイター姿の男によって難なく回収され、携帯電話は男の手中に収まり、テーブルの端に追いやられた。
それを合図に、食事が運ばれる。
「食事中に携帯電話を触るのはマナー違反だ。父親に教わらなかったか?」
頭に血が上る。地に縛りつける妖術と2人の間を隔てる距離がもどかしくてならない。
「…黙れ。依頼人はお前の差し金か」
———動揺を見せるな。
ふむ、と男はしばし考える仕草を見せて、食前酒を口に含む。
「…恐ろしくなったそうだ」
「何がだ」
「〝金魚〟がな。非道な下衆どもを粛清しているらしいが…赤い瞳の、それはそれは美しい金魚だとか」
睨みつけるチヒロを気にする様子もない。
「噂に違わず見目がいい」
怯えに怯え護衛を依頼しに、お前たちの拠点を訪ねたというから利用させてもらった、ととるに足らない戯れと言わんばかりに嗤う。
「その男の末路はわかるだろ?」
食前酒のグラスを掲げ、琥珀色の液体越しにチヒロを射抜く。
「自業自得だな。お前もいずれそうなる。…必ず殺す」
男の仲間であるウェイターが食前酒を差し出す。
十中八九なにかあるはず。毒物か、だが今、この男が自分の命を奪うことはしないという確信はある。
視界の端で窓際の客からの視界を遮るようにカーテンが引かれていく。
「俺はその時真打を振るう。存分に殺しあおう」
乾杯と、グラスを掲げチヒロを煽る。2人同時に一気に液体を飲み干し宣戦布告の意を込めた。
顔は火照り視界が回る。息も心なしか上がっている。けれど大丈夫、動ける。問題ない。そう自分に言い聞かせた。
鮮やかな前菜に口を付けずにいるチヒロとは対照的に男は洗練された所作で口に運んでいく。
「…何を入れた?」
「さあな。なんのことか」
「…身体があつい」
「誘っているのか?」
「そんなわけないだろ……!」
依存性はない。話をするために少々な。と、さも当然というように言い放つ。
「お前が食事をしているところが見たい」
「食事をする気分だと思うか?」
「食事をしないならこの場で犯す。全員殺してからな」
「クソ野郎」
なかばやけくそ気味で前菜を胃に納める。
その間も男はチヒロの食事風景を満足げに眺めるのだ。
そういえば、と思い出したように男が告げる。
「お前の保護者も餌に食いついているようだ。見目の良い女を見繕って俺たちに関する情報を食わせるよう指示してある。少なくともこの逢瀬が終わるまでは」
子どものお前でもナニをするかわかるだろ?と言いたげに薄笑いを浮かべる。
服をきっちり着込んでいるのに、丸裸にされて視姦されているような気分になる。
優位に立ちながら舌なめずりをし、捕食のタイミングを狙っている。
「お前の瞳の色はルビーのようだな」
気障ったらしい台詞を吐く男だ。男の身体の部位を宝石に例えるとは。
嫌悪感を露わにした視線も意に介さず、男は話を続ける。
「ピジョンブラッドといってな。ルビーのなかでも希少性が高い。鮮やかで、情熱的な色合いから鳩の血に例えられている。実に美しい」
真白な皿にはまさにその鳩の肉という皮肉。ステーキナイフで断面が露わになり血がじわじわと滲み出る。死んだものから溢れるものはかつての色を失っている。
「お前は生きたまま手に入れたいな。鮮やかで情熱的な瞳のまま」
食物となった生き物には興味を示さず、男は恍惚とも言える表情でチヒロを一心に見つめた。
「お前が殺した父と同じ瞳だ。知ってるだろ」
「さあどうだったかな。絶命すると濁ってしまうんだ。鮮度を保つのにコツがいる」
怒りで視界に星が散る。脳が痺れて気を失うのではないかと疑うほど。
そうだな、お前はあの日あの場にいなかった。冷たくなる父の横で、お前らを必ず殺すと淵天を握りしめていた俺を知らない。
「なんでこんな意味のないことをする」
視線に耐えられずカトラリーを置いて食事を中断する。
「お前の『なぜ』に六平国重はすべて答えたか?」
真打の恐ろしさ、語ろうとしなかった真実がある。持ち主によっていくらでも変貌しうる妖刀の恐ろしさ。
あの不気味な侵食、無差別に生命を吸い尽くす、まさに殺戮兵器。
脳裏にはかつて討った双城の姿が蘇る。
思考を止めたのは、携帯電話のバイブレーションだった。男は自分のものであるかのように画面を確認する。きっといつもの報告メールだろう。
「…なんだ、あの男は。不能なのか?」
「…?」
どうやら男の目論見から外れ、見目の良い女には堕ちなかったらしい。
柴は最短で情報をもぎとったのだろう。柴がチヒロやハクリには見せない〝裏の顔〟だ。
「残念だな。短い逢瀬だがそれもいい」
———みすみす逃がすことになるのか
ぐらぐらと視界が揺れる。身体のほてりは全身に回り、男は悠然と立ち去ろうとしている。
陰が落ちたその時、あの日の象徴として残したこめかみの傷に男の唇が触れた。
認識した瞬間、大きな目が零れ落ちんばかりに見開かれる。
後ろ髪を遠慮のない力で引かれたかと思うと、首筋を晒し真上を見上げている
「んぐ…っぅ」
振り払おうとするも、樹木がひじ掛けの腕にまで巻き付いておりされるがまま、男の執拗な口づけを受入れ、唾液を流し込まれる。
『飲め』というように、控えめなチヒロの咽喉を撫でさする。左右に逃げようとするも男は逃がしてくれない。
なんでなんでなんで、なんでこんなことを
わけがわからない、息が苦しい、咄嗟に口内を這い回る男の舌に噛みついた。
確かに口内に血の味が広がっているのに、この男はびくともしない。
「はっ…やめ…や…っ」
「千鉱。口を開けろ」
男の親指が割って入り、口を閉じることも出来なくなる。
じゅるじゅると音を立てながら、血液交じりの唾液の交配は続く。
いつの間にか椅子への拘束は解かれ、体制は逆転。
男はチヒロの座っていた椅子に座り、跨がせるようにチヒロを抱いている。
「華奢な腰だ」
目まぐるしさに頭がついていかない。
後ろ手に樹木はまとわりつき、拘束はなおも固い。両脚は浮き、体制は不安定なまま顎を掴まれ急所である首筋を晒される。
隙間のないくらい腰同士を擦り合わせれば、スラックスの下で兆した性器の形がより明らかになる。
「固くなってるな」
「やめ…っやだ、さわるな…ッ」
耳を食みながら双丘を揉みしだき、疑似セックスのように昂りを押し付けられる。
肌を打ち付ける音が聞こえるのではないかというほど、強引で、性的な愛撫。意志に反して身体は昂ってしまう。
「はっ…いずれ、っここに挿れる」
男も息を乱す。揺さぶられながら、こいつも人間なんだな、などと呑気にも気を逸らしていれば、ベルトのバックルを外す金属音で現実に戻される。
「んぅ!」
後頭部を引き寄せ声を封じながら、腰を抱き寄せ局部だけを擦り合わせる性急さ。
あの目に灼きつけた印が、自分を蹂躙している。
「千鉱…」
「…っ呼ぶ、な」
背中を丸め快楽を逃そうとするも無駄なあがきだった。ビクビクと身体が跳ね、視界が明滅する。
「ぁ…ん」
絶頂に達した余韻で天井に向かって声にならない声で喘いでいる。
仕切りはカーテンのみ、二人分の精液を先ほどまでテーブルを彩っていたナプキンが受け止めていた。
ぐったりとしたチヒロの輪郭を確かめるように、長い舌が首筋に溢れたの唾液を舐めとる。噛みつく気力も残っていなかった。
「この妖術は時間が経てば消える。いい子にしていろ」
舌先の感触を残しながら徐々に弱まる拘束の終わりを告げた。テーブルの端に追いやっていた携帯をたぐり寄せ柴の連絡先をタップする。
「反応が楽しみだな」
息も絶え絶えになりながら、奴の言う通り拘束が引くのを待つしかない。
呼び出し音は2コールしか鳴らなかった。