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晴天

2 - 銅色の君

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2024年06月30日

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(emside)

(教室で授業受けてみたいなあ…。)

私はイネ科ジャポニカ種の胚乳の一部を炊いた食べ物「パン」を食べながら溜め息をつく。

私は昔から病気にかかりやすく、季節の変わり目は絶対に体調が悪くなる。それに加え、中学生の時のいじめから立ち直れず今も教室に行けていない。

保健室の先生は「無理に行く必要は無いよ」と言ってくれるものの、自分的には行きたい気持ちが強い。だが階段を登ろうとすると吐き気を催す為3年生になっても保健室登校だ。

自分で言うのも何だが頭はいい方だと思っている。高校は誰も知らない所に思い切って行ってみようか。

そんなことを考えている内にもう学校へ行く時間だ。普通の高校生よりは軽いカバンを背負い私は学校へ向かった。


にしても、最近は凄く暑い。保健室はいつも涼しいが、教室は暑いのだろう。暑いのは苦手だ。私が好きなのは保健室の窓から虫を眺めることぐらいだ。綺麗な模様なら尚更良い。まあ、蝶と蛾の違いもよく分からないが。

校門を通り、靴箱へ向かう。走っている人、友人と話している人。羨ましいなあ。私は保健室登校なのでどう考えても友人と呼べる人がいない。保健室の先生じゃダメやろうか。

靴箱は砂と汗の匂いが混ざってなんとも言えない香りがする。青春の香りってやつか…。

午前8時

保健室に入ると、いつも通り先生が出迎えてくれた。いつも思うが保健の先生は美人な人が多いんか?人相から優しさが滲み出ている。私も親しみやすいよういつもニコニコしていよう。

いつもは保健室の奥の方にある一室で本を読んでいる。今日は日差しが強いのか少し眩しい。薄いカーテンをして再び本を開く。ミステリーは好きだが恋愛系はあまり好きではない。決して自分が惨めに感じるからではない、信じて欲しい。

ページを繰る。この紙と手が擦れる音が私を落ち着かせてくれる。不安が山積みだが本を読んでいる時は自分が違う世界に居るような感覚になる 。

そんな感覚が好きだ。

「先生、??さんが……」

ガラガラと音を立てて戸が開いた。

急に本の世界から追い出されたことで少し憤りを感じる。体調不良者なら仕方ないか、自分だけの保健室でもないし。だが、こんな朝から来ることは滅多に無い。怪我でもしたんだろうか。

何となく息を潜めて聞き耳を立てる。話によると体育でボールが顔面に当たりその場で倒れたらしい。そんな面白い理由あるだろうか。寝ている時にこっそり顔を覗いてやろう。


ベッドに横たわった病人の顔を覗く。少し焼けた肌に茶色の髪。フードを被っていかにも不良生徒と言った見た目だ。私も高校に入ったらこんな感じにしてみようか。

それにしても中々起きない。別に起こしたいわけでも無いがこの人がどんな人間なのか気になる。先生に悪態を付くならすぐにでも注意してやる。

ベッドで安らかに眠るそいつを見ていると、何だか不安な気持ちになった。もう一生起きないんじゃないか?私が起こしてあげないとこのまま起きないのかもしれない。勇気を出して声を振り絞る。

「だ、大丈夫ですか?」

そう言うと、その人は銅色の目をゆっくりと開き、重い腰を上げた。

「やっと起きましたか」

私はほっとして胸を撫で下ろす。銅色の瞳が私をいぶかしげに見る。

「一生寝ているかと思いましたよ。不安になります。」

また思ったことを口に出してしまった。迷惑に思っているだろうか。そんなことを頭の中で巡らせていると、その人は眉間に皺を寄せ口を開いた。

??「…誰や?」

一言目がそれなのか、と私は思わず噴き出す。そんな私を相手は不信そうに見つめている。

??「なんで笑うんや…?」

銅色の瞳を丸くしている。

「いや、一言目がそれなのがなんだか面白くて…」

思い出してまた笑ってしまう。そういえば、 学校で先生以外と話したのは久しぶりだ。

??「で、名前はなんなん?」

「エーミールと申します。」

??「珍しい名前やな。」

よく言われる。中学生の頃はその事と容姿から少しいじめを受けていた。私はメンタルがあまり強くない方だ。

「そう言うあなたは?」

ゾム「俺はゾムって言うんや。」

「君も結構珍しいやん笑」

私が笑うと、ゾムさんも歯を見せて笑った。…歯がギザギザや。珍しいなあ。


それからゾムさんと他愛もない話をした。朝はパン派だとか、ご飯派だとか。

話の中で、ゾムさんの外見以外の事が分かってきた。好きな食べ物は餃子、嫌いな食べ物はエクレア。偏食家らしく私とはあまり似ていない。外見も、ゾムさんは男らしい感じがするが、私はいかにも「運動してません」って感じだ。羨ましい 。

「そういえば、授業には行かないんですか?」

そう言うとゾムさんは時計を見て、急に急ぎだした。

初めて見た時は不良で授業に出ていないのかと思ったけれど。真面目なんやなあ。

ゾム「じゃあまたな、エーミール」

ゾムさんは片手を上げヒラヒラさせている。もう行くみたいだ。

私も手を振り、見えなくなったところで手を下げた。

銅色の瞳に、茶色い髪。ギザギザの歯と少し焼けた肌。

保健室の窓からは眩い光が射し込んでいた。


今日はいい日になりそうだ。

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