テラーノベル
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マジルはシンシアの髪を乱暴に引っ張り上げ、彼女の顔を覗き込んだ。
「へっ、ありふれた顔だな。まあ、いいか」と冷ややかに呟き、
写真を撮り始めた。シンシアは慌ててチャットモードから音声モードに切り替え、現実の声で叫んだ。
「君たち、やめたまえ!」48歳の中年男性の声が、シンシアのアバターから響く。
しかし、マジルはそれを聞いて大笑いした。
「おじさんの声はさすがになえるな」と言って、シンシアの音量を強制的にミュートにした。
彼は笑みを浮かべながら、シンシアを無理やり押し倒し、強引にキスをした。
シンシアの中のおじさん「こんな奴に私のシンシアを奪われたくない!」
シンシアのアバターは押さえつけられ、必死に抵抗しようとするが、相手とのレベル差があり、
何もできなかった。彼女の体力はじわじわと削られていく。
フクはその光景を目の当たりにし、叫んだ。「シンシアさん!このままじゃ……死んでしまう!」
トラストはフクの言葉に振り向き、ニヤリと笑った。
「さあ、次はお前の番だ」と言いながら、フクを力任せに押し倒した。フクは叫んだ。
「やめろぉ!!」
(なんで、こんな目に毎回合わなきゃいけないんだ……なんなんだ、このゲームは……)
「よーし俺のも見せてあげよう」
その時、トラストが下半身を露わにし、フクは驚愕の表情を浮かべた。
「なんでそんなところまでリアル!!」
そのリアルさに驚愕し、守は思わず現実世界のキーボードに手を伸ばした。
電源を切ろうとしたその瞬間――
「バァン!!」
強烈な銃声が響き、トラストの体が吹き飛ばされた。
「っつ……てめぇ!」トラストが立ち上がり、怒りに満ちた表情でその方向を見ると、
そこには昨日助けてくれた女性アバターが立っていた。
その冷ややかな表情から、相手を見据える目が光る。
彼女の隣から、かわいらしい少女がひょっこり顔を出し、にっこりと微笑んだ。
「お兄さんたち、まだやるの?無駄だと思うけど」とその少女は挑発するように言った。
「くそが!」トラストは苛立ちながら吐き捨て、マジルと共に姿を消した。
少女は、「あ~あ逃げちゃった」とつぶやいた後、フクの方を振り返った。「大丈夫?」
フクはあまりの展開についていけず、ただ「ありがとうございます……」と震えた声で礼を言った。
隣で倒れていたシンシアは、すでに体力が底を突いていた。
昨日助けてくれた女性アバターは、シンシアに回復薬を渡したが、彼女は何も言わなかった。
その沈黙は、彼女がどれほどショックを受けているのかを物語っていた。
少女は優しく微笑みながら名乗った。「私はマリア。こっちはルナだよ。」
フクは驚きながら返事をした。「昨日も助けてくれましたよね?」
ルナは静かに頷くだけだった。マリアは笑って説明した。
「この子、キャラに合わせてあんまり話さないようにしてるんだって。」
「そうなんですね……僕たち、まだこのゲームを始めたばかりで……」とフクは苦笑いしながら答えた。
マリアは軽く肩をすくめた。
「そっか。このゲーム、実はクソゲーで有名なの知らなかったの?
特に女の子キャラを選ぶと、ひどい目に合うことが多いんだよ。」
フクは驚きとともに頷いた。「そ、そうなんですか……」
その瞬間、フクの胸には複雑な感情が湧き上がった。このゲームの闇の深さと、
自分が関わってしまった世界の危険性――それを理解するには、まだ時間がかかりそうだった。
フク「シンシアさん、大丈夫ですか?」
シンシアはしばらく沈黙していたが、やがてぽつりとつぶやいた。
「……なんで、女の子がこんな目に遭わなきゃいけないんだ……」
マリアは少し悲しそうに頷いた。「そうだよね。でも、それを楽しんでるユーザーが多いのも事実なんだ。
悔しいなら、私たちみたいにレベルを上げるしかない。それか、このゲームを辞めるかだね。」
フクは戸惑いながらも、マリアに問いかけた。「どうして助けてくれたんですか? マリアさんたちは……」
マリアは軽く肩をすくめながら答えた。
「私たちはパトロールしてるの。私たちのチームの合間を縫って、こういう奴らを懲らしめてるんだよ。」
その言葉を聞き、シンシアはゆっくりと立ち上がった。震える声で、
彼女は語り始めた。「許せません……何も知らないプレイヤーを、
こんな風に傷つけるなんて……。ボクが殴られてる間に、何人かここを通り過ぎたんですよ。
助けてってチャットで送ったのに、誰も無視して、知らんぷりだった。
一瞬、立ち止まって見てるだけの奴までいたんです!」
その言葉には、深い悔しさと悲しみが込められていた。
フクも、シンシアの言葉に思わず頷く。確かに、何人かが通りかかったが、
誰一人として助ける素振りすら見せなかった。彼らの無関心が胸に重くのしかかる。
「シンシアさん……」フクは心配そうに声をかけた。
シンシアは強い決意の表情を浮かべ、マリアに向き直った。
「マリアさん、ボクもパトロールに連れて行ってくれませんか!」
マリアは驚いて目を見開く。「え?」
フクも動揺していた。「シンシアさん、それは……」
しかし、シンシアは涙ながらに続けた。
「ボクも強くなりたいんです。こんなことが繰り返されるのを、もう見過ごしたくないんです!」
その決意に満ちた言葉に、マリアは一瞬沈黙したが、やがて優しい微笑みを浮かべた。
「パトロールは私たちが勝手にやってることだから、別にいいけどね……でも、
私たちのチームはレベル70以上じゃないと入れないんだよ。」
シンシアは真剣なまなざしで頷いた。「それでも構いません。ボクはただ、パトロールについて行きたいんです。」
「フクさん、一緒にいきましょう」
「う、うん……わかった。僕も一緒に行くよ。」
真剣に訴えるシンシアを見て、
フクはただのゲームの中での出来事ではなく、仲間として、
その背中を押してやりたいという思いが胸に強く芽生えたのだ。
こうして、フクとシンシアは、新たな戦いに向かう決意を固めた。
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