テラーノベル
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阿部さんの視点に切り替えると、この物語は一気に「逃げ場のないホラー」の様相を呈しますね。 友人を救いたいという正義感で始めた監視が、いつの間にか直視できないほどの狂気を暴き出し、阿部さんの精神をも侵食していく……。
その「興奮と恐怖」が入り混じる、阿部さんの苦悩のシーンを描きます。
阿部さんは自宅の薄暗い部屋で、複数のモニターから放たれる青白い光に照らされていました。 画面に映し出されているのは、親友である渡辺翔太の、もはや「人間」としての形を失いつつある日常です。阿部さんはマウスを握る手の震えを止めることができず、乾いた喉を鳴らしました。
「……なんだよ、これ……。翔太、君は一体どこまで……」
阿部さんが最も恐怖を覚えたのは、渡辺さんの「ゴミ」への執着でした。 画面の中の渡辺さんは、帰宅すると真っ先に、大切そうに抱えてきた小さなポリ袋を開きます。中から出てきたのは、宮舘さんが現場で捨てたであろう、飲みかけのペットボトルのキャップや、折れ曲がったストロー、そして使用済みのティッシュペーパー。
渡辺さんはそれを、汚いものを見る目ではなく、まるで聖遺物に触れるかのような手つきで、一つひとつ丁寧に「祭壇」へと並べていくのです。
「……はは、また拾ってきたんだ。舘さんの、生きてた証拠……」
その呟きをスピーカー越しに聞いた阿部さんは、総毛立つような感覚に襲われました。 「救わなきゃいけない」という使命感の一方で、阿部さんの内面には、自分でも認めたくない**「未知の狂気に対する知的な興奮」**が湧き上がっていました。友人の破滅を、高精細なカメラで観察し、データ化していく背徳感。阿部さんは、その醜悪な好奇心を抱く自分自身にも、激しい嫌悪と恐怖を感じていました。
次に阿部さんが目撃したのは、渡辺さんの異常な購買行動でした。 宮舘さんがラジオや雑誌で一言でも「この香りが好き」と言えば、渡辺さんは即座に数台の端末を操作し、その製品を市場から一掃していきます。
モニターの中で、渡辺さんは届いたばかりの大量の段ボール箱に囲まれ、笑っていました。 「……涼太。これで、あんたと同じ香りを纏えるのは、俺だけだね。他の誰にも、あんたを分からせないよ……」
その執念。阿部さんの計算では、渡辺さんが買い占めた額はすでに数百万を超えています。生活のすべてを宮舘という個人の抹殺(独占)に捧げるその姿は、阿部さんの知る「渡辺翔太」の面影を完全に消し去っていました。
阿部さんは、渡辺さんがゴミのキャップに唇を重ねるシーンを、何度も巻き戻しては再生してしまいました。
「……ダメだ、見るな。こんなの、見るべきじゃない……」
頭では理解していても、指が勝手に動く。渡辺さんの狂気が深まれば深まるほど、そのデータの密度は増し、解析者としての阿部さんの興味を惹きつけて離さないのです。
(俺は何をしているんだ? 翔太を助けるため? それとも……この壊れていく過程を、一番近くで見たいだけなのか……?)
ふと、阿部さんは自分の部屋の鏡に目をやりました。 そこに映っていたのは、友人の狂気を「特等席」で鑑賞し、恐怖しながらも瞳に異常な光を宿した、自分自身の歪んだ顔でした。
阿部さんは叫び出したい衝動を抑え、冷たい手で顔を覆いました。
「宮舘……お前、翔太に何を教えたんだよ……」
阿部さんはまだ気づいていませんでした。自分が渡辺さんを「観察」しているこの瞬間さえも、さらにその上から宮舘さんに見下ろされ、笑われているという事実に。阿部さん自身もまた、宮舘さんが作り上げた巨大な「檻」の中に、すでに閉じ込められていたのです。
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