テラーノベル
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そんな柊吾の葛藤に気づいてか知らずか、島へ続く連絡橋を渡ると、潮の香りと吹き抜ける海風が一気に二人を包み込んだ。青く輝く海を背景に、瑞樹がふり返って柊吾へ爽やかな笑みを向ける。
「潮風がとても気持ちがいいですね。行きましょうか」
「は、はい!」
瑞樹の爽やかな笑顔につられるようにして、柊吾も深く息を吸い込んだ。鼻腔をくすぐる潮の香りと、突き抜けるような夏の青空。一歩足を踏み入れると、どこか遠くから来場客の歓声や陽気なBGMが聞こえてくる。
かつてトップアイドル・朝倉奏としてステージに立っていた頃は、常に帽子とマスクで顔を隠し、誰かの視線や盗撮のカメラを警戒しながら生きていた。プライベートでこんな開かれた娯楽施設を歩く自由など、どこにも存在しなかったのだ。そして引退してからは一転、世間の目を恐れて自宅に引きこもり、母の介護だけに追われる閉塞的な日々。
(僕……本当に、こんなところで遊んでいていいんだろうか)
ほんの少し前まで胸の奥にくすぶっていた引け目や遠慮は、瑞樹と並んで広場を歩くうちに、眩しい陽光のなかへ散っていくようだった。
「柊吾さん、まずはあの上に行ってみませんか?」
瑞樹が指差したのは、海に突き出すように聳え立つダイナミックな海上コースターだった。
背中を押されるまま乗り込み、安全バーがカチャンと重々しい音を立てて固定される。徐々に高くへ巻き上げられていくにつれ、足元にはキラキラと光を反射する広大な太平洋が広がった。
「うわ……すごい……!」
「絶景ですね」
隣で落ち着いた声を出す瑞樹とは対照的に、柊吾は目の前に広がる青一色の世界に息を呑んだ。
そして――頂点から一気に急降下する浮遊感とともに、視界が高速で回転する。
「うわあぁぁっ!?」
風を切り、叫び、激しい重力に体を揺さぶられながら、柊吾はいつの間にか大声で笑っていた。
普段、家の中で声を潜めて過ごしている自分からは想像もつかないような、腹の底からの笑い声。
髪をぐしゃぐしゃに乱されながら地上へ降り立ったときには、心の中に溜まっていた重苦しい澱のようなものが、すっかり吹き飛ばされていた。
「すごかった……! 黒瀬さん、見ました!? 海が真っ逆さまに見えて……!」
「ええ、すごくいい表情をしていましたよ、柊吾さん」
無邪気にはしゃぐ柊吾を、瑞樹は眼鏡の奥の瞳を和らげて見つめていた。
その優しい眼差しに気づき、ハッと照れくさくなった柊吾は「あ、ちょっと喉乾きましたね」と誤魔化すようにあたりを見回す。
敷地内をしばらく歩いていると、どこからか香ばしく甘い匂いが漂ってきた。
辿り着いたフードワゴンの看板には『出来立てチュロス』の文字。香ばしい油と甘いシナモンシュガーの匂いが、小腹の空いたお腹を猛烈に刺激する。
「美味しそうですね。買っていきましょうか」という瑞樹の言葉に頷き、注文を済ませる。出来立ての熱々で、シナモンパウダーがたっぷり塗された一本のチュロス。
紙包み越しにも伝わる温かさを感じながら、受け取った細長い包み紙を見つめ、柊吾はふと隣の瑞樹を見上げた。
コメント
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かんなさん、こんにちは!みぅです🤍 今回のお話、柊吾くんが遊園地で本当に解放されてる感じが伝わってきて、胸がじんわり温かくなりました…。特に絶叫マシンで大声で笑うシーン、あれは読んでてこっちまで嬉しくなっちゃいました。ずっと閉じこもってた子が、やっと自由を思い出したみたいで。瑞樹さんの「いい表情してましたよ」って台詞がもう、優しさに溢れてて泣ける…。 チュロスの香ばしい匂いの描写も、甘くてちょっと切ない空気感がぴったりでした。次の展開、気になります!続きも楽しみにしてますね🌙
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