テラーノベル
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紙包み越しにも伝わる出来立ての温もりに、胸の奥までじんわりと温かくなるような気がした。柊吾は受け取った細長い包み紙を見つめ、少しだけ躊躇してから、隣に立つ瑞樹をそっと見上げる。
「あの……半分、食べますか?」
何気なく、けれどほんの少しの勇気を出して差し出した瞬間――瑞樹の動きがぴたりと止まった。
いつもならどんな時でも崩れない余裕のある佇まいが、一瞬で固まる。眼鏡の奥の切れ長で端正な目を丸く見開き、口元へそっと手を当てたまま、まるで人生で一度も経験したことがないような奇跡を眼前に突きつけられたかのように絶句していた。
「……っ、……ありがとうございます」
低い声が、わずかに震えている。
差し出されたチュロスを受け取る指先まで、普段のスマートさからは考えられないほど強張って見えた。そのあまりの動揺ぶりと、分かりやすすぎる反応に、柊吾は思わず目を瞬かせる。
(……もしかして、照れてる……?)
いつも自分をスマートにエスコートしてくれて、落ち着いた「大人の男性」として振る舞っていた瑞樹。その彼が見せた、年相応でどこか初々しい隙。自分の一言にここまで動揺してくれているという事実が、柊吾の胸の奥をくすぐったい熱で満たしていく。
(可愛いな……なんて、口に出したらさすがに怒られるだろうか)
自分の前で見せてくれたその可愛らしい一面に心臓がトクンと跳ね、柊吾はむず痒いような気恥ずかしさを覚えた。
瑞樹は慎重な手つきでチュロスの端をほんの少しだけかじり、「美味しいですね」と溢れるような笑みを浮かべた。その薄い唇がチュロスから離れる瞬間を、柊吾の視線は吸い寄せられるようにじっと追いかけてしまう。
(……あ)
ふと、あの唇の感触が脳裏をよぎった。ほんの少しだけかさついていて、でも温かかった、あのアパートの玄関先で重なり合ったときのリアルな触感が、記憶の底から鮮明に蘇ってくる。
途端に顔から火が出るほど熱くなり、耳の奥まで真っ赤に染まった柊吾は、慌ててチュロスから目を逸らした。首を振って妄想を振り払おうとするが、一度意識してしまった熱はなかなか引いてくれない。
「し、シナモン、結構効いてますけど……っ」
「ええ。でも、俺はすごく好きです」
何の気なしに言われた「好き」という言葉にさえ余計な意味を感じてしまい、跳ね上がる心臓を落ち着かせるのに必死になる。
「そ、そうですか。なら良かったです……」
瑞樹が口をつけた側とは正反対の端へ、柊吾はおそるおそる口をつけた。サクッとした歯ごたえの後に、シナモンの香りと砂糖の甘さが口いっぱいに広がる。同じ一本のチュロスを二人で分け合って食べているだけ。ただそれだけのことなのに、頭の中は「同じものを口にしている」という事実でいっぱいになり、どうしようもなく甘い痺れが全身を駆け巡った。
(間接キス、とか……。男同士で、そんなの気にする方がおかしいだろ……僕は何を考えてるんだ……!)
必死に自分に言い聞かせ、平然を装おうと伏せ目になる。だが、そんな柊吾の混乱を見抜いたように、上頭から低く優しい声が降ってきた。
「柊吾さん?」
「な、なんでもないです……っ!」
勢いよく裏返った声で答えすぎてしまい、瑞樹が忍び笑いを漏らすように肩を小さく揺らす。その笑い声にからかわれているわけではないと分かってはいても、柊吾は自分の不甲斐なさと恥ずかしさで、ますます顔を上げられなくなってしまった。
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コメント
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柊吾が「半分食べますか?」って差し出した瞬間、瑞樹のあの余裕ある大人の佇まいが崩れて、固まっちゃうところがもう…! 普段あんなにスマートなのに、チュロス一つでここまで動揺するんだって思うと、二人の距離が確かに縮まってるのが伝わってきて胸がきゅってなりました。それに柊吾が「可愛いな…」って思う流れも、間接キス意識しちゃうところも、全部が初々しくて甘くて、読んでるこっちまで照れちゃいました。素敵なエピソードをありがとうございます。