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第二章 第一の犠牲者
翌朝――
雪原荘の廊下に、女性の叫び声が響いた。
俺はすぐにベッドを飛び出し、廊下へ出た。叫び声は、二階の東側、書斎のある部屋からだ。
ドアの前には杉山澪が立ち尽くしていた。顔は蒼白で、震える手でドアを指さしている。
「……中に、誰かが……倒れてて……」
俺は無言でドアを押し開けた。
そして――
部屋の中央、デスクチェアにもたれかかるようにして、**城戸圭介**が事切れていた。
首には細いピアノ線のようなものが巻きついており、皮膚には食い込んだ痕跡。明らかに、**絞殺**だ。
周囲に争った形跡はない。
部屋は整然としており、窓も鍵がかかっていた。内側から、だ。
「密室……?」
俺が思わずつぶやいたとき、他の宿泊者たちが集まってきた。
辰馬、名越、冴子も次々に駆け込んでくる。辰馬は城戸の遺体を見ると、ゆっくりと目を閉じた。
「やはり……起きてしまったか」
「なんだそれ……おまえ、予想してたのか?」と名越が怒鳴る。
辰馬は答えない。ただ静かに首を振った。
「誰かが、この“遺書探し”を、ゲームではなく“処刑”に変えた……そういうことかもしれない」
誰もが沈黙した。
密室での絞殺。
では、誰が? どうやって?
俺は部屋の中を一つひとつ見て回った。窓、ドア、通気口、床下――どれも密閉されている。誰かが外部から侵入した形跡はまったくない。
「まさか、鍵が……」
ドアの内側に取り付けられていた鍵は、**ラッチ式**のシリンダーロック。開け閉めは中からしかできない。
つまり、**外から施錠したようには見えない**のだ。
「自殺に見せかけた他殺……いや、それにしては不自然すぎる」
首に巻かれたピアノ線が、まるで「殺意の象徴」のように、美しくも残酷に光っていた。
澪が小さくつぶやいた。
「……昨夜、私、城戸さんが部屋に戻るのを見かけました。23時くらい。書斎で調べ物をすると言っていたんです」
冴子が眉をひそめた。
「それは本当に書斎に用があったのかしら。それとも……“遺書の在り処”を掴んでいたのでは?」
辰馬が口を開く。
「それは、否定できない。彼は……もしかすると、遺書に最も近づいていた人物かもしれない」
「だから殺されたって言いたいのか?」
「わからん。だが、これで分かっただろう。誰かがこの中にいる。私の遺書と秘密を封じようとする“敵”が」
名越が忌々しげに言った。
「ちっ、こんなことになるなら、こんな場所に来るんじゃなかった……!」
そう言い残して、名越は乱暴にドアを閉めて出ていった。
だが、その直後。
俺は気づいた。
**部屋の隅に、ほんの小さな異物**が落ちていたのだ。
薄いプラスチック片。それは、おそらく――**電子機器の部品**。
「なんだこれは……?」
それが、この事件を解く最初の“鍵”になるとは、まだ誰も知らなかった。