最終話「これからも、貴方と」
冬の訪れを感じさせる冷たい風が、街を吹き抜けていた。
ネクストリンク本社の窓からは、今年初めてのイルミネーションが見えていた。
山下葵は、自分のデスクの横に並べた小さなカレンダーを指先でなぞる。
日付は12月23日。
社内の空気もどこかそわそわしていて、皆それぞれに年末モードに入っていた。
そんな中、彼女の心は少しだけざわついていた。
「……風滝さん、今日で最終日、なんですよね」
そう。風滝涼は、来月からグループ会社の戦略部門へ異動が決まっていた。
いわゆる“出世コース”だと囁かれているポジション。
同じオフィスで、顔を合わせる日々が終わってしまう。
付き合ってから2ヶ月。
隠れながらも、穏やかに、幸せに過ごしてきた。
だけど今日からは、オフィスでも、部署でも、もう一緒じゃなくなる。
「……なんか、寂しいです」
そう葵が言ったのは、ふたりでランチをしていた近くのビルの屋上。
風滝はジャケットのポケットに手を入れながら、彼女の言葉を静かに聞いていた。
「……俺も、めちゃくちゃ寂しいよ」
それでも彼は笑った。
「でも、このチャンスをもらえたのは、君が支えてくれたからだって思ってる。山下さんと付き合うようになってから、俺、本当に変われた気がするんだ」
葵はその言葉に、胸が熱くなるのを感じた。
「風滝さん……いえ、涼さんが頑張ったからです」
彼の名を、初めて仕事の場以外で口にした。
風滝も驚いたように微笑み、そっと手を握った。
「今日、話したいことがあるんだ。仕事が終わったら、少しだけ時間もらえる?」
葵は、小さく頷いた。
***
その夜、風滝は彼女を街のイルミネーションが美しい並木道へ連れ出した。
光に包まれた並木道の先に、静かな公園があり、ベンチに腰掛けると、彼はジャケットの内ポケットから小さな箱を取り出した。
「……え?」
驚く葵に、風間は真剣なまなざしを向けた。
「大げさな話じゃないよ。ただ……これから先も、君と一緒にいたいと思ってる。どんな職場にいても、どんな環境でも、関係ない。俺の人生に、君はもう必要不可欠なんだ」
そう言って開けた箱の中には、指輪ではなく、小さなゴールドのネックレス。
きらりと光るそのトップには、二人のイニシャルが刻まれていた。
「結婚はまだ先かもしれないけど……これを、俺の“本気”の証として受け取ってほしい」
葵は、涙をこらえきれず、彼の肩にそっと顔を預けた。
「……はい。私も、涼さんとこれからも一緒にいたいです。どんな未来でも、一緒に歩いていきたい」
ネックレスをそっと首元につけると、彼女の胸元でそれは微かに揺れ、星のように瞬いていた。
***
年が明けてしばらく経ったある日、ネクストリンク社内にふとした噂が流れ始めた。
「あの二人、実は付き合ってるんじゃない?」
けれど、その時すでに、風滝と葵は隠すことをやめていた。
「え?うん、そうだよ。ちょっと前から」
風滝があっさりと答えると、周囲は驚きながらも、どこか納得したように笑った。
「なんだよ、ずっと見てたけど、やっぱりな~!」
上司や同僚も、温かく祝福してくれた。
「むしろお似合いすぎて、隠してるのが変だったかもな」
そんな冗談に、葵も思わず笑いながらうなずいた。
***
それから数年後。
風滝はネクストリンクの中核を担う戦略担当として活躍し、
葵も開発チームのサブリーダーとして後輩から慕われる存在となっていた。
ある春の日曜日、二人が休日のカフェで過ごしていると、風滝がそっと言った。
「そろそろ、苗字、変えてもらおうかな」
葵は、カップを持つ手を止めて、照れたように目を細めた。
「急に……でも、嬉しいです」
桜が咲き始めたばかりの通りを、二人は手を繋いで歩いていく。
あの頃と同じように、少し照れながら、でも確かな愛を胸に――。
これからも、ずっと、あなたと。
最終話 おわり。
あとがき
最終話まで見てくださった方、ありがとうございます😭
この2人が幸せになってくれると良いですね!
さて、今回完結してしまいましたが!
報告があります。
このあと番外編が1話のみ出ます!やったー!
2025/09/23の18:00に出ると思います!
※時間は少し左右する場合がございます
皆様待っててくださいねー!