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僕は、自由の国では珍しい、国王直属の騎士兵の元に生まれた。
この傭兵の少ない国で、僕たち家族は重宝された。
「お前たちも、大きくなったらこの国を守るんだぞ」
そう話す父の手はすごく大きく感じた。
五歳にして、僕は早くも魔法を扱えた。
珍しいことだ、神童だと騒がれたのを覚えている。
「兄ちゃん凄いな! もう魔物も倒せるんじゃないか!」
「魔物討伐か〜。勝手に行って怒られないかな〜」
「倒せたらすごく褒められるよ! 凄いなって!」
親しみを持って僕を尊敬するのは、弟のカザン。
一つ下の弟で、魔法はまだ見られていない。
僕は、弟から幻滅されたくない一心か、その言葉に乗せられて、翌日には魔物の発生地区へと向かった。
「見て! ゴブリンがいる! 魔物見るの初めて!」
「よし、兄ちゃんが倒してきてやる!」
しかし、現実は甘くはなかった。
僕の魔法は、防具から風魔法を発生させる。
この魔法なら、敵を吹き飛ばせると思っていた。
「そんな……これ……防御魔法じゃないか……!」
ゴブリンの攻撃は弾き返せても、決定打になる攻撃が出来ず、次第に防御も追いつかず、僕は尻餅をついた。
「兄ちゃん!」
「カザン! 下がってろ、お前には魔法が……」
「炎魔法 エンザン!」
弟がかっこつけで持ってきたボロボロの剣からは炎魔法が発動され、ゴブリンの槍を燃やした。
ゴブリンは慌てて逃げて行ってしまった。
「お前……魔法が……」
「うん! 僕にも発現したみたいだよ!」
喜ばしそうに満面の笑みを浮かべたが、五歳で神童と呼ばれた僕より、一つ下で攻撃魔法を得た弟のことの方が、僕の胸を疼かせていた。
帰宅して、父からはかなり怒られたが、弟の魔法発現は噂が噂を呼び、かなりの注目を集めた。
そして、何年かが過ぎる頃には、僕とカザンの間には大きな壁が隔たれてしまっていった。
「なあ、カザン……。明日の任務なんだけど……」
「ああ、兄貴は後方支援でいいよ。俺が前衛部隊を指揮して一掃しておくから」
「あ、ああ……分かった……」
カザンは、最年少にして指揮官に昇格。
僕は後方支援の兵士の一人。
父も、誰も、もう僕のことは眼中になかった。
だから、努力して、努力して、努力して、努力……。
「あ、君は自由の国の兵士さんだね?」
なんだ……このガキは……。
「僕はなんとこの国の神様でーす! なんて言っても信じられないよね! アハハ!」
人をおちょくるにも程がある……親は何してるんだ……。
ある時、自分を神だと名乗る子供に浜辺で出会った。
水鉄砲を構えて、何やら遊んでいた。
そこに、「グアアア!」と声が聞こえた。
「こ、コイツ……十年に一度、自由の国近郊の海で現れるクラーケンじゃないか……!」
動揺する僕に対し、その子供は悠然と構えた。
「下がっててよ、兵士さん」
「は? 子供なんだから……早く逃げ……」
その瞬間、子供の放った水撃が爆発し、すぐにクラーケンを鎮圧させてしまった。
本当に……何者なんだよ……。
そこに、急いで駆け付けてきた兵士たちが来た。
「お前がクラーケンを倒したのか!?」
「え、いや、俺は……」
「お前、防御魔法しか使えないだろ! 本当は誰が倒したんだ!」
僕が言い淀んでいると
「なんか、楽園の国の船がたまたま来てて、倒して行ってくれたみたいですよ」
子供はそう言って誤魔化していた。
しかし、それは更なる誤解を孕むことになる。
他国の兵士に守られたと言う失態だ。
そして僕は、兵士たちからも壁を隔たれた。
なんなんだ……この世界は……。
「少年、力が欲しいですか?」
そして僕は、カエンさんと出会った。
「フーリン、魔法はこう扱うんですよ」
カエンさんはちゃんと名前で呼んでくれる。
防御魔法しか使えない俺を強くしてくれる。
龍族の一味は、仲間想いで、とても優しくて……。
「だから、もう他のモノは要らないんだ」
――
フーリンは、両手両足に風を纏い、笑った。
「僕に魔法の扱い方を教えてくれたのはあなたです」
カエンさんも、珍しく真面目な顔を浮かべる。
「今から、ちゃんとあなたの役に立ちますから……」
フーリンは、酷く苦い顔を浮かべていた。
「お前……その目……」
そして、次第に僕を睨み付ける。
「アイツらと……同じ目を向けやがって……!」
「エイレスくん! 彼は無理やり風龍の力をこじ開けています! 気を付けて!!」
すると、勢い良く僕の眼前にフーリンは現れる。
でも、前とは違う……目で追える……!
「そうか……彼の身にはアイツが宿っていたのか……」
すると、ふいにグレイスさんはフーリンと相対する。
「あ、危ないですよ!?」
「大丈夫だ」
そう言うと、グレイスさんはフーリンを抱きしめた。
「な、なんでだよ……! リューダ……!」
「君、リューダは戦いの道具じゃない」
「な、何が起こって……」
「エイレスくん、私たち龍族の一味は、龍たちを洗脳して操っていると思っているでしょう」
「は、はい……」
「それをしたのはガンマだけです。私たちは、龍たちに協力を願い、友人になっただけなんですよ」
そして、カエンさんはフーリンの肩に手を置いた。
「七龍は初まりの祖。バベルの意志を継いだ産物です。人を殺めてしまったあなたに、もう力は貸さないでしょう」
そうして、フーリンから暴風は解き放たれた。
「おや……?」
すると、暴風はグレイスさんに纏わり付いた。
「リューダ……?」
「風龍はどうやら、貴方をご指名のようですね」
「しかし……俺は死人……それに、友人を道具のように使うなどしたくは……」
「違いますよ。風龍はあなたの力になりたいのです」
「そうか……それなら、力を借りることにしよう」
半ば置いてけぼりになっている僕は、更に外野に置きやられたルーフさんに訊ねた。
「あ、あの……どうなってるんですか……?」
「どうやら、グレイスと言う男は生前に風龍と親しき仲だったんだろう。そして、加護を受けられるのは龍族の血が強く残っている者のみ。彼もまた、俺たちと同じ濃い血が残っていたと言うことだろうね」
そして、フーリンは膝を突き、涙を流した。
「僕は……僕はどうしたら……」
そんなフーリンの肩を、カエンさんは叩いた。
「君は安静に暮らすといい。争うことも、誰かを憎むことももうしなくていいんだ……」
「僕はそんな……そんな事の為に龍族の一味に加わったわけじゃない! 憎き七神を殺して……この世界を……」
「もういいんだ……」
カエンさんの言葉を最後に、フーリンはそのまま頭を垂れて何も言わなくなってしまった。
「行こうか、エイレスくん」
「でも、コイツは……」
「いいんだ」
見向きもせずにカエンさんは歩き出してしまい、それに続くように、グレイスさんもルーフさんも、歩き出してしまった。
どうして……こんなに苦しそうなのに……。
仲間じゃなかったのか……? やっぱり、龍族の一味は使い合うだけの存在なのか……?
「おい、異郷者……」
戸惑う僕に、フーリンは声を掛ける。
「僕のことはもういい……。悔しいけど、カエンさんのこと、頼んだぞ……」
涙を浮かべながら、ニヤッと笑った。
「うん……。うん……! 絶対に……守るよ……」
そう告げて、僕はフーリンに背を向けた。
僕は、カエンさんたちが直ぐにフーリンに背を向けた意味が分かったような気がした。
僕は、まだまだ子供なんだ。
沢山の魔法を得て、沢山の知見を得て、沢山の敵を倒して来て、少し背伸びしていたのかも知れない。
僕も、フーリンと同じ、まだまだ視野が狭いんだ。