テラーノベル
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「ブレーカーが落ちてる。びっくりした。玄関に入った瞬間、真っ暗になったから」
すぐに電気が復活し、心配げに私を見守る彼がそこに立っている。
「急いで帰ってきた。大丈夫?」
「……っ」
「なんでテーブルの下に隠れてるの」
「えっ」
気づけば私は、自己防衛本能でテーブルの下に隠れていたらしい。
「まあ傷つくぐらいなら逃げてくれた方がいいけどね」
カバンをソファに投げ捨てると、テーブルの下で役立たずになっている私を見て笑った。
「おいで。怖かったな」
「行かない。行きません、行かないです――っ」
それでも雷は止まず、降り続ける。
目の前で木に落下したときの、地面にびりびりと響く雷。
目で追えないほどの速さで光って落ちてくる稲妻に、避けれるわけはなかった。
「何もしないから、震えてる華怜さんを抱きしめさせて」
肩は濡れて冷たかった。
それなのに強引に引き寄せてきた彼の手は熱くて、抱きしめてくれた体温は温かくて、他人の心音が聞えてくるのがとても安心してしまった。
怖かったんじゃないの。
憎かったんじゃないの。
雷を理由に、なんで抱きしめられて、なんで抵抗しないの。
「大丈夫。大丈夫だよ」
抱きしめられた。
引き寄せられて抱きしめられて、彼の匂いに包まれていく。
抵抗できない自分が、抵抗できない弱くて口だけの自分が大嫌い。
トラウマの犯人に抱きしめられて安心してしまう弱い自分なんて大嫌いだった。
「いや、やっぱちょっと駄目だ。華怜さん、良い匂いがする」
「……はい?」
「ホラー映画でも見よう。すっげ怖い奴」
彼は私を片手で引き寄せたままソファに座ると、突然リモコンを操作して映画を物色し出した。
なぜ今、ホラー映画? そして腰を引き寄せるこの手はなに。
色々悩んでぐるぐるしていたけど、やはり彼の手は怖くない。
怖くないのだけど、今、引き寄せられているのは何か違う気がする。
「お、これこれ。怖いって聞いてたんだ。ヘッドフォンで聞こうか」
ワイヤレスイヤホンを耳に装着してくれた。これで窓に背を向け、彼が隣にいてくれると確かに少し気がまぎれる。
「でも、私どうせ見るならホラーじゃないほうが」
「駄目。今、隣のいい匂いがする好きな人を守るために無心になりたい。怖がる女性をこの隙に押し倒すような男は、信用できないだろ?」
なんと答えていいのだろうか。
つまりこの人は、お風呂上がりの私が隣にいるのが落ち着かないので、ホラー映画で気を紛らわすと言いたいのか。
さっきまでの、心地の良い強引な引き寄せとか抱きしめてくれた甘さが嘘のよう。
でも確かに甘い雰囲気に流されて、押し倒されても困る。
「ホラーは大丈夫だけど、スプラッタは無理だからね」
「分かった」
雷はしばらくカーテンの隙間から光っているのが見えたけど、隣に彼が居てくれたので大分気持ちが落ち着いていた。
飲み物を取りに行く時も朝作っておいたご飯を温める時も、隣に居てくれたのは本当に感謝している。
「部屋を暗くしなきゃホラーもそう怖くないでしょ?」
「うん。あの、ありがとう」
いつの間にか雷なんて消えていたのに、どちらとも気づいていたのに言わないまま、隣に座っていた。
彼は肩が濡れたままのスーツのままだったにも関わらず、優しく微笑んだ。
「お礼より、そろそろステップアップしない? 俺たちの関係も」
「ひ!?」
隣にいるのは平気だったけど、彼が手を伸ばしてきたので反射的に目を閉じてしまった。
なに? ステップアップ?
抱き寄せられた次は、何?
でも契約ではセックスなしでしょ?
混乱する中で、ふと気づく。セックスはなしでもキスとか?
キスさえ未経験だったけど、目を閉じて待っていたら彼がリードしてくれるのであれば。
「そろそろ、俺の名前ぐらい呼んでよ」
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砂原 紗藍
#再会