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8月5日であなたは止まって

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8月5日であなたは止まって

4 - 第四章 お前さえいなければ

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2025年08月07日

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第四章 お前さえいなければ
「やっぱり、ミナトくん……変だよ」


ヒナノのその言葉も、もう何十回も聞いた。

声のトーンまで、そっくりに。


「うん、そうだな」


俺は素直に頷いた。

もう隠す必要もない。

優しさも、もう持っていない。

ずっと同じ日を繰り返していたら、

優しさなんて、腐る。


ヒナノは、まだ俺を信じようとしていた。

その姿が、もう腹立たしかった。


「でも、大丈夫だよ。私、ミナトくんのこと、――」


「もう黙れよ」


その瞬間、ヒナノがピタリと口を閉じた。

怖がったのかもしれない。

でも、そういう表情すら、もう見飽きた。


この日を壊す方法は、もうそれしかないんだ。



ヒナノの誕生日を祝うはずだった放課後、俺は彼女を呼び出した。

「渡したいものがある」って言えば、あいつは素直に来る。

そういう女の子だ。

馬鹿で、無垢で、優しい。


その全部が、ループによって罠に変わった。


人気のない公園。

落ち葉が風に舞って、空気が湿っていた。


ヒナノは小さな声で「どこに行くの?」と聞いてきた。

答えなかった。

ただ歩く。

手の中のナイフが、汗で重くなっていた。


「ミナトくん……? ねぇ、どこ行くの? 怖いよ……」


その言葉に、心が揺れた。

ほんの少しだけ。

だけど、すぐに思い出す。


どれだけ怖がられても、

どれだけ泣かれても、

明日には元通りになる。


だから──


「お前のせいなんだよ」


俺は、ヒナノの背中に向かってそう言った。


ヒナノが立ち止まる。

振り返る。


「……え?」


「全部、お前のせいだ。

お前の誕生日が終わらないせいで、

俺は、ずっとここに閉じ込められてる」


「なに、いってるの……?」


「うるさい。お前さえいなければ……」


ナイフを取り出す。

ヒナノが目を見開く。


「……やめてよ……ミナトくん、やだよ、そんなの……!」


逃げようとする。

追いかける。

倒れる。

腕を掴む。

振り払われる。

押し倒す。

叫ぶ。

口を塞ぐ。

刺す。


そのすべてが、ゆっくり、静かに進んだ。

まるで劇のように。

脚本でもあるかのように。


──そして。


ヒナノは、泣きながら、血を吐いて、

ぐちゃぐちゃの顔で、俺を見た。


「……ミナトくん……なんで……」


最後の言葉だった。

彼女の目が、空を見る。

8月5日の空は、今日もあんなに綺麗で。


俺は、その目を見て。

やっと気づいた。


俺が、何をしたのか。


「……あ……」


ナイフを手放した。

手が震えた。

あったかい。ぐちゃぐちゃだ。

血が、ヒナノの。俺の大好きだったヒナノの。


「うそだ……」


世界は、やっと動き出す。

だけど、俺の中の時間は完全に停止した。


ループは終わった。


世界は進み出した。


でももう、戻る場所なんて、どこにもなかった。


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