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第四章 お前さえいなければ
「やっぱり、ミナトくん……変だよ」
ヒナノのその言葉も、もう何十回も聞いた。
声のトーンまで、そっくりに。
「うん、そうだな」
俺は素直に頷いた。
もう隠す必要もない。
優しさも、もう持っていない。
ずっと同じ日を繰り返していたら、
優しさなんて、腐る。
ヒナノは、まだ俺を信じようとしていた。
その姿が、もう腹立たしかった。
「でも、大丈夫だよ。私、ミナトくんのこと、――」
「もう黙れよ」
その瞬間、ヒナノがピタリと口を閉じた。
怖がったのかもしれない。
でも、そういう表情すら、もう見飽きた。
この日を壊す方法は、もうそれしかないんだ。
*
ヒナノの誕生日を祝うはずだった放課後、俺は彼女を呼び出した。
「渡したいものがある」って言えば、あいつは素直に来る。
そういう女の子だ。
馬鹿で、無垢で、優しい。
その全部が、ループによって罠に変わった。
人気のない公園。
落ち葉が風に舞って、空気が湿っていた。
ヒナノは小さな声で「どこに行くの?」と聞いてきた。
答えなかった。
ただ歩く。
手の中のナイフが、汗で重くなっていた。
「ミナトくん……? ねぇ、どこ行くの? 怖いよ……」
その言葉に、心が揺れた。
ほんの少しだけ。
だけど、すぐに思い出す。
どれだけ怖がられても、
どれだけ泣かれても、
明日には元通りになる。
だから──
「お前のせいなんだよ」
俺は、ヒナノの背中に向かってそう言った。
ヒナノが立ち止まる。
振り返る。
「……え?」
「全部、お前のせいだ。
お前の誕生日が終わらないせいで、
俺は、ずっとここに閉じ込められてる」
「なに、いってるの……?」
「うるさい。お前さえいなければ……」
ナイフを取り出す。
ヒナノが目を見開く。
「……やめてよ……ミナトくん、やだよ、そんなの……!」
逃げようとする。
追いかける。
倒れる。
腕を掴む。
振り払われる。
押し倒す。
叫ぶ。
口を塞ぐ。
刺す。
そのすべてが、ゆっくり、静かに進んだ。
まるで劇のように。
脚本でもあるかのように。
──そして。
ヒナノは、泣きながら、血を吐いて、
ぐちゃぐちゃの顔で、俺を見た。
「……ミナトくん……なんで……」
最後の言葉だった。
彼女の目が、空を見る。
8月5日の空は、今日もあんなに綺麗で。
俺は、その目を見て。
やっと気づいた。
俺が、何をしたのか。
「……あ……」
ナイフを手放した。
手が震えた。
あったかい。ぐちゃぐちゃだ。
血が、ヒナノの。俺の大好きだったヒナノの。
「うそだ……」
世界は、やっと動き出す。
だけど、俺の中の時間は完全に停止した。
ループは終わった。
世界は進み出した。
でももう、戻る場所なんて、どこにもなかった。